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声の魔力

女性のみなさまは既にお気付きでしょうけれど、モテる女子には2つのタイプがあります。
まずは、とにかく可愛い子。キレイな子。誰が見ても「モテない方がおかしい」というタイプです。
一方で、さほど可愛くもないのにやたらモテる女子というのも存在します。
同じ女性としては、なんだか納得いきませんよね。

中学生の時のこと。同級生にやよいちゃんという女の子がいました。
今でいう陰キャに限りなく近かった私に比べ、やよいちゃんは明るく活発でスポーツが得意で、男子からとても人気がありました。
やや下膨れの顔、ポッチャリ体型、どちらかというと顔立ちは地味。お世辞にも「可愛い!」とか「キレイ!」というタイプではありません。
だけど、異様にモテていましたね。学年でモテモテのトップを競うイケメン君が小学校の頃から片思いしていたくらいです。中学校に入ってから、念願叶って付き合い始めたようですが。

彼女がなぜそこまでモテるのか、とてもナゾでした。
だけど、実は私には1つだけ、彼女に関して忘れられないことがあるのです。エピソードとすらいえないような、些細な記憶です。
ある日の放課後、やよいちゃんの彼氏(イケメン君)が生徒玄関でやよいちゃんを待っていました。慌ててやって来たやよいちゃんにイケメン君がいいました。

「やよい~。もう行くぞ~」

すると、やよいちゃんがイケメン君に駆け寄りながら、

「あ~ん! イケメン君、待ってぇ~!」

これを読んでみなさんがどう思われるかはわかりません。だけど、彼女の「あ~ん!」「待ってぇ~!」の言い回しには、ものすごいインパクトがありました。
だからこそ、今でも忘れないのでしょう。
そして、彼女は決してぶりっ子キャラではありませんでした。日頃から、ちょっと甘えたような話し方をする子だったのです。ちょっと鼻にかかったような、ややハスキーな声で。
声が甘すぎなかったので、甘えたような話し方でも鼻につくことはありませんでした。
多分、あの話し方が男子からすると、

「可愛かったんだろうな…」

今なら素直に思えます。
間もなく還暦のヨシノさんの魅力に通じるものがありますね。

このように、女性の声と話し方の魔力は、中学生から還暦までのすべての年代において有効だということが実証されましたね。

ここで、もう1人。学生時代の同級生、サオリのことをお話ししたいと思います。
サオリは、うりざね顔に細い目、薄い唇の地味で扁平な顔をした子でしたが、彼女のモテモテぶりは異常なほどでした。
彼女の強みは、なんといっても「京都弁」。はんなりとした優し気な京都弁で、“男が喜ぶ「さしすせそ」”を自由自在に操るのです。

「〇〇君、すごいなぁ」
「〇〇君、さすがやなぁ」
「え、そうなん? 全然しらんかったわぁ」

そればかりか、優しくもなんともない下心だけの相手に対しても、

「〇〇君は優しい人やなぁ」

などと面と向かって言ってのけるのですから、徹底しています。
男友達の誕生日には必ずプレゼントと手紙を用意し、

「うちな、誕生日ってめっちゃ大事やと思うねん。だって、その人が生まれた日やねんで」

と殊勝なことを言っていましたが、女友達に誕生日プレゼントを贈っている姿は一度も見たことありません。
さらには、女子だけでいる時には声のトーンが一段下がり、話すスピードも1テンポは早くなりました。
なんなら、同性に対するマウンティングもかなりすごかったです。

だけど、私がサオリのことを嫌いだったかどうかといえば、別に嫌いではなかったですね。好きでもなかったけど。
ある意味、これだけ上手く自分をプロデュースし、男の子を気分よくさせることができるのですから、モテて当然だと思っていました。
普通だったら、性格の悪いナルシストに向かって、

「〇〇君って、優しい人やなぁ」

と、心にもないことを囁いてまで、モテたいとは思いませんから。

だけど、この優し気な囁きも、一種の声の魔力ですよね。彼女の京都弁は、今も私の頭に焼き付いて離れません。

ただ、同じモテ子ちゃんでもやよいちゃんとサオリでは、相手の質が全然違いました。
学年トップクラスのモテモテ君から一途に思われていたやよいちゃんに対し、サオリはロクな男と付き合っていないのです。
一部からはすごくモテる一方で、比較的まともな男子のグループからは、

「なんで、あいつがモテるの?」
「どう見ても鬼瓦じゃん」
「ああいうタイプは絶対に腹黒いよ」

などと噂されていたようです。
サオリの魔力にかかる男子と、かからなかった男子の違い。何だと思いますか?
答えは簡単。サオリと接点があったか、なかったか。
サオリに夢中になったのは、サオリと席が近く彼女と話す機会が多かった男の子たちでした。
席が遠く、あまり話す機会のなかった男の子たちは彼女の囁きの餌食になることもなかったため、

「鬼瓦みたいな顔してるのに、なんでモテるの?」

という評価になったわけです。
声の魔力は顔の良し悪しよりも強力だけど、腹黒さまでは隠しきれなかったということですね。
そして、薄っぺらい女に引っかかるのは、やっぱり薄っぺらい男だということです。

そういう意味で、男女分け隔てなく付き合い、それなりの男の子と付き合っていたやよいちゃんは、本当に性格のよいモテる女子だったんだろうなと思います。

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