2023年 ノーベル化学賞受賞者予想

科学系のノーベル賞の発表も、今日の化学賞で最後です。さっそく、化学賞の予想をしていきましょう。まずは近年、受賞した分野を確認してみましょう。

 2007年 固体表面の化学反応過程の研究
 2008年 緑色蛍光たんぱく質(GFP)
 2009年 リボソームの構造と機能の研究
 2010年 有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング
 2011年 準結晶の発見
 2012年 Gタンパク質共役受容体の研究
 2013年 複雑な化学系のためのマルチスケールモデルの開発
 2014年 超高解像度蛍光顕微鏡の開発
 2015年 DNA修復のしくみの研究
 2016年 分子マシンの設計と合成
 2017年 クライオ電子顕微鏡の開発
 2018年 酵素の指向性進化法、ファージディスプレイ法(進化分子工学)
 2019年 リチウムイオン電池
 2020年 ゲノム編集
 2021年 不斉有機触媒
 2022年 クリックケミストリーと生体直交化学

2021年、2022年と有機化学系の分野が受賞した印象で、今年は他の分野の研究者が受賞してもいいのではと思います。ただ、化学は分野がとても広いので、その中で候補を絞るのも難しいですよね。

今年の生理学・医学賞はmRNAワクチン関連でカタリン・カリコー博士とドリュー・ワイスマン博士に贈られました。2人は、mRNAをワクチンとして使えるように、mRNAに化学的な修飾をすることで体内での炎症反応を抑える技術を発見し、今回の受賞につながりました。

実は、mRNAワクチンが実用化できたのは、もう1つの技術があったからです。それがドラッグデリバリーシステムです。mRNAは生体内に入れると壊れやすいので、狙った場所に正確に届いてから薬剤として作用させる必要があります。

ドラッグデリバリーシステムは、薬剤を膜で包むことで、薬剤を体内の狙った場所まで届けてから作用させるようにするしくみです。mRNAワクチンも、ドラッグデリバリーシステムがなかったら実現できませんでした。

ドラッグデリバリーシステムは、いくつかの物質が使われていますが、mRNAワクチンでは脂質性ナノ粒子が主流で、大きく貢献したのがピテール・カリス博士です。カリス博士はカリコー博士とワイスマン博士と共に2022年にガードナー国際賞を受賞しました。その他にも2021年から23年にかけてたくさんの賞を受賞しています。

ドラッグデリバリーシステムは脂質性ナノ粒子だけでなく、高分子ミセルなどを使う方法も開発されています。高分子ミセルは片岡一則博士などが世界をリードしていて、2023年のクラリベイト論文引用賞にも名を連ねています。ドラッグデリバリーシステムによりフォーカスした形になると、片岡一則博士がピテール・カリス博士と共に選ばれる可能性もあると思います。

また、コロナ禍で活躍したものの1つといえば、PCR法があります。これは微生物などの持つDNAを大量に増やして特定のDNAの塩基配列を読み取る分析法で、この分析法を支えたのが、DNAシーケンサー(通常は単にシーケンサーと呼ばれることが多いですが、シーケンサーと言っても、何のシーケンサーかわからないので、このように表現しました)です。

DNAシーケンサーは、PCRだけでなく、ライフサイエンス系の様々な研究に使用されています。2005年頃に次世代シーケンサーが開発されて、研究が飛躍的進みました。ということで、次世代シーケンサーを開発したシャンカー・バラスブラマニアン博士、デイビッド・クレネマン博士も化学賞の有力候補だと思います。2人は2023年のクラリベイト論文引用賞を受賞しています。今回のコロナ禍を通して、次世代シーケンサーは研究分野だけでなく、社会を支える重要な分析技術にもなったのではないでしょうか。そのあたりが評価されると、2人の受賞となるでしょう。

また、最近は小さな空間でごく微量の化学反応をおこなうマイクロ化学が発展してきているようにも思います。チップ状のデバイスなどを用いるものでは、アンドレア・マンツ博士、ステファン・クイケ博士、北森武彦博士などが選ばれる可能性があります。2〜50ナノメートルというとても小さな穴をたくさんもったスポンジのような材料であるメソ多孔体材料を使うものでは、メソ多孔体材料を設計したグラーメ・モード博士、エチオ・リザード博士、サン・タン博士などが有力候補でしょう。メソ多孔体材料関連が選ばれるようであれば、京都大学の北川進博士が受賞者に選出される可能性もあります。

化学賞の場合は候補を挙げると切りがない感じになりますが、今年の予想としてはこのあたりでどうですかね。今年は誰が受賞するのか楽しみです。


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