2023年 ノーベル生理学・医学賞受賞者予想

今日、10月2日からノーベル賞受賞者の発表があります。ということで、直前過ぎて今年はどうしようかなと思ったのですが、毎年やっていて、やらないのも少し気持ちが悪いし、もともと直前に囲み予想していたので、今年もやってみたいと思います。

今日はノーベル生理学・医学賞の発表があるので、早速、近年の受賞理由を振り返ってみましょう。

 2007年 胚性幹細胞を利用したマウスの遺伝子改変技術
 2008年 ヒトパピローマウィルス(子宮頸がん)
      ヒト免疫不全ウィルスの発見
 2009年 テロメアとテロメアーゼ酵素(染色体を保護するしくみ)
 2010年 体外授精技術
 2011年 自然免疫の活性化、樹状細胞と獲得免疫
 2012年 リプログラミングと多能性獲得技術(iPS細胞)
 2013年 たんぱく質の細胞内での輸送(小胞輸送)
 2014年 脳内の空間認知システムを構成する細胞の発見
 2015年 感染症やマラリアに対する治療法の発見
 2016年 オートファージ
 2017年 概日リズムを制御する分子メカニズムの発見
 2018年 免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用
 2019年 低酸素状態における細胞の応答
 2020年 C型肝炎ウイルスの発見
 2021年 温感と触覚の受容体の発見
 2022年 絶滅したヒト属のゲノムと人類の進化に関する発見

こう並べてみても、受賞分野の傾向があるわけではないのですが、近年は意外な分野の受賞が多いようにも思えます。特に2022年のスバンテ・ペーボ博士の「絶滅したヒト属のゲノムと人類の進化に関する発見」は、これも生理学・医学賞の範疇として評価されるのかと驚きました。ネアンデルタール人のゲノム情報を精密に決定し、人類との違いを研究する基盤をつくったことで、人類とは何かという疑問に答えるだけでなく、遺伝情報をもとにヒトの免疫機構の働きなどを明らかにするなど、医学的にも有益な情報を得られるようになったのです。

柳沢正史博士がクリフォード・セパー博士、エマニュエル・ミニョー博士と共に「睡眠/覚醒の遺伝学的・生理学的研究、および重要な睡眠制御因子としてナルコレプシーの病因にも関与するオレキシンの発見」で、2023年のクラリベイト論文引用賞に輝いています。

クラリベイト論文引用賞はノーベル賞受賞しそうな研究に与えられることが多いのですが、あくまでも参考情報です。ただ、睡眠科学は新しい分野なので、この分野の受賞者は大いに期待できます。特に柳沢正史博士が中心となって発見した神経伝達物質のオレキシンは、睡眠状態から覚醒状態に切り替えるときに重要な役割をしていました。そして、オレキシンの作用をコントロールすることで不眠症を改善するオレキシン受容体拮抗薬の開発、販売にもつながりました。

日本人の私としては、オレキシンの発見に大きく寄与した柳沢正史博士と櫻井武博士の2人が受賞して欲しいなとは思いますが、ナルコレプシーや睡眠と深く関係している視床下部の研究などもあわせると、受賞者がどのような組み合わせになるのかはわからないですね。クラリベイト論文引用賞を受賞した3人に落ちつくのでしょうか。

あとは、近年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)関連の動きを見ていくと、mRNAワクチンは無視できない存在です。mRNAワクチン開発の基盤をつくったカタリン・カリコー博士とドリュー・ワイスマン博士は2021年にラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞、2022年にガードナー国際賞と日本国際賞(The Japan Prize)を受賞しています。その臨床的にな効果もこの3年で世界に知れ渡ったと思いますし、COVID-19を克服しつつあるという観点からも今年の受賞はあると思います。

このように並べたら、去年の予想と同じになってしまいました。去年との違いを少し出すために、新しいことを少し言っておくと、2022年にガードナー国際賞とクラリベイト論文引用賞を受賞したステュアート・オーキン博士の研究もおもしろいと思います。オーキン博士はヘモグロビン遺伝子機構を解明し、鎌状赤血球病、サラセミアなどの異常ヘモグロビン症などの治療にも応用しています。彼もノーベル賞に近い人ですね。

ということで、2023年のノーベル生理学・医学賞は誰に贈られるのか、とても楽しみですね。


サポート頂いたお金は、取材経費(交通費、宿泊費、書籍代など)として使用します。経費が増えれば、独自の取材がしやすくなります。どうぞよろしくお願いいたします。