北欧地域の安全保障、今後の展望

今回は雑感的な内容ですので、無料公開です。

1.北欧安全保障の現状
2.ロシアのスカンディナヴィア侵攻のシナリオ
3.米国の今後の対欧州政策と北欧安全保障
4.北欧諸国の今後の安全保障、筆者視点のアイデア

1.北欧安全保障の現状
ノルウェーのバレンツオブサーバーのWebニュースで北欧諸国の国防相たちがノルウェーに集結し会談したという記事を読んで考えたこと。
 はじめに、ここでの北欧地域とはデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランドを指す。バルト三国をどう扱うかは微妙なところだが、バルト三国はひとまとめにしないと扱いが難しいこと、そして東欧諸国との関係も深くこの地域は(少なくとも安全保障上)独立した地域として扱うべきという方針から、ここでの「北欧」からは除外することにする。
 これら諸国は、少なくともアイスランド以外の大陸側諸国は地政学的に一つのまとまりとして扱うべきところ、安全保障面でNATO加盟国と非加盟国(スウェーデンとフィンランド)という決定的な違いがある。北欧諸国全体をカバーする安全保障上のまとまりとしては北欧防衛協力(NORDEFCO)があるが、同盟と呼ぶには程遠い。スウェーデン、フィンランドは政府レベルでNATO加盟の意思があるにしろ国民の合意を取りまとめるのは難しい状況である。
 だが現実問題として、少なくともスカンディナヴィア諸国が安全保障上ばらばらになっている状態は危険である。2014年のウクライナ戦争勃発以来始まったバルト三国でのNATOとロシアとの対峙状況においてノルウェーは対露国境と領海・スバールバル諸島のように露との関係が深い領土について、スウェーデンはバルト三国有事が勃発した場合にバルト三国沖合に浮かぶゴトランド島が戦域に入ってしまう危険があること、フィンランドはロシアとの間に長大な国境線を持つこと、などにより、NATOとロシアとの対峙状況下ではそれぞれがロシアからの脅威に対抗しなければならない状況下にある。
 
2.ロシアのスカンディナヴィア侵攻のシナリオ

これら三国には、有事において想定するべき悪いシナリオがある。筆者が昨年ノルウェーにて行われたNATOの大規模演習トライデント・ジャンクチャー2018について情報を漁っていたとき、非常に興味深い記事を見つけた。ノルウェーとフィンランドはロシアのコラ半島とその周辺地域と国境を接しているが、バルト三国で武力衝突が発生しNATOとロシアが全面的に戦争状態になった場合、ロシアはそのコラ半島と周辺地域防衛のため(この地域は露の重要な軍事拠点である)スカンディナヴィア諸国に侵攻してくるというものである。これは十分に考えられる想定である。NATOと戦争状態になった場合北極海においても対岸のNATO加盟国米国とカナダをもロシアは相手にすることになり、北極海に面するコラ半島とその周辺の軍地拠点も重要な役割を果たすことになる。ロシアはここの防衛をおろそかに考えないだろうし、スカンディナヴィア諸国を征服しなくてもある程度の縦深を確保したいと考えるであろう。さらに、バルト三国有事で南部に集中したいNATO軍とスウェーデン、フィンランドの戦力を北に分散させることにもなる。
 もちろんこれはロシア軍そのものも分散させてしまうことになる。米軍が主力であるNATO軍相手にこれを行うのはロシアにとってかなりの困難をもたらすことになる。だが、米国のトランプ政権が今後欧州への安全保障上の関与をどうするのか著しく不透明な昨今の状況下では、スカンディナヴィア諸国はこのシナリオを想定から外すことは難しいだろう。

3.米国の今後の対欧州政策と北欧安全保障

 現在NATO加盟国のノルウェーには米海兵隊が駐留している。この海兵隊は増強され、またこの方面の海域を担当する第二艦隊の再編成がなされ、米国のこの地域の関与は増大しつつあった。そして先のNATO大規模演習トライデント・ジャンクチャーは主としてノルウェー国内とノルウェー沖、さらに対岸のデンマークとともにバルト海の出入り口を扼す位置にあるスカゲラク海峡で行われた。また、これとほぼ同時期に行われたフィンランドの海上演習NOCO18にはNATOの主だった加盟国が参加して、あたかも二つの演習が並行して行われているかのようであった。ちなみにフィンランドそのものも(スウェーデンとともに)NATO演習の参加国であり、フィンランド北部のロヴァニエミ空軍基地より米・ベルギーなどの航空部隊がノルウェーへの航空機動訓練を行ったのはこの一環である。このように米軍が主力となるNATOによるこの地域の安全保障上の関与は非常に大きいものであり、それは過去に行われたバルト海での演習(フィンランド領のオーランド諸島とスウェーデンのゴトランド島が防衛対象とされた)や一昨年のスウェーデンでの演習Aurora17に米軍が他の西側諸国とともに参加するなど、米国は北欧諸国の安全保障にとって事実上不可欠なものとなっている。
 この米国の欧州安全保障への今後の関与が不透明になっているのはこうした北欧諸国にとって非常に不安なことであろう。今回のノルウェーでの北欧諸国の防衛相終結もこうした背景がある。

4.北欧諸国の今後の安全保障、筆者視点のアイデア

 ところで、筆者は正直なところ、今のように拡大しさらに加盟国内の意思がバラバラになってきたNATOの防衛力については疑念を抱いている。クラウゼヴィッツの言うように戦争は政治の延長ならば、EU内でかなり不協和音が目立ってきた昨今、それはNATOの欧州加盟国の動向にも影響を及ぼすであろう。NATOは全会一致が原則である。例えばトルコが、当時関係が悪化していたオーストリアとNATOとの連携を拒否権を使って妨害した件があり、この面でその信頼性に疑問が生ずる。
 ゆえに筆者は、英国統合遠征軍(UK Joint Expeditionary Force)の枠組みで新たな安全保障機構を作る可能性について考察していた。これには英国以外にノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、リトアニア、エストニア、ラトヴィア、オランダが入る。この枠に米国を加え(その際には中継地としてアイスランドも入れることになろう)ればかなり意志統一性のある集団防衛機構ができるであろう。しかもこれにはバルト三国が加わっており、ここにポーランドを加えればかなり実効性のあるものとなろう。すでに北欧諸国とバルト三国、東欧諸国の外相会議などこれら諸国が加わる政治的な下地は存在する。
だが、これも米国次第である。北欧諸国はまとまるしかないが、その場合バルト三国やポーランドをどうするか。これらは北欧諸国の安全保障上重要な位置にあるが、ここでの紛争に巻き込まれた場合北欧諸国にここを防衛する力はあるかという点が課題として残る。
この場合、カギとなるのは英国の存在であろう。米の欧州安全保障全体への関与が弱まれば英国は自国の安全保障上ロシアとの間にある北欧諸国その他が重要となってくる。先の英国統合海外遠征軍はまさにこの目的が下地にあって加盟国が選抜されたかのような面子になっている(NATOの2014年のウェールズサミットでの決定が下地にあるにせよ)。そして米国は欧州全域とは疎遠になっても英国との関係は切れないだろう。そこに、この英国統合海外遠征軍の枠組みに入っている諸国が生き残る可能性が残されていると言えそうである。

以上、現時点で考えていることを雑感的に書きました。雑感的なので無料で公開いたします。 
 

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