高野一郎

ブルガリアと英国(Lancaster大学)で修士( 安全保障、戦争学)修了。PhD課程…

高野一郎

ブルガリアと英国(Lancaster大学)で修士( 安全保障、戦争学)修了。PhD課程(英国Keele大学、南東欧・コーカサス情勢研究)満期退学(日本風に)。30年来の神経の疾患の悪化で専攻は無期限凍結中。

最近の記事

お久しぶりです&米中対立について、雑感

お久しぶりです。 もう体調は十分再開可能な程度には回復しているのですが、回復期間中の世界情勢の変転が激しかったこと、その間に私の興味の対象や研究を続けていくにあたっての価値観がだいぶ変化してしまったことにより、観察対象、観察の着眼点などについて考え込むことが多く、なかなか再開にまでこぎつけないでいます。 ただ、だいぶ煮詰まっては来ていること、昨年春ごろより見始めていたアジア方面の知識も蓄積され、それなりに知見も育まれてきたことなど、大まかなヴィジョンはすでにできている状態です

    • マクロン政権の欧州安全保障ヴィジョン

      このnoteでは筆者は欧州の辺縁から欧州安全保障について考察するというスタンスです。それゆえ仏独など西欧主要国の内政については必要があるとき以外直接見ていないのですが、しかしこうした辺縁部は欧州安全保障を主導する主要国や域外の大国の地政戦略によって影響を受けるので、辺縁部を見るうえでのコンテキストとしてそれを頭に入れておく必要があります。それに今回のマクロン・フランス大統領のNATO脳死発言からうかがえる地政戦略は今後の欧州安全保障に深い影響を及ぼしかねない可能性があり、筆者

      • 【速報】マクロンのNATO脳死発言

        フランスのマクロン大統領の「NATOは脳死状態だ」との発言を巡り、筆者のTwitterでフォローしている欧州の安全保障クラスタが騒然となっています。多くはマクロンの(こうしたヴィジョンに基づく)外交姿勢が欧州安全保障に重大な悪影響を及ぼすのではないかと懸念しています。米国が欧州から完全に出ていくのが確定していない段階でこうした外交政策をとるのは実際にNATOの安全保障システムに重大な悪影響を及ぼす可能性があります。単なる発言ではなく、マクロンはこのようなヴィジョンに基づき実際

        • ノルウェーの米国主導演習への不参加について

          1. ノルウェー政府、米国主導の2020年の大規模演習への不参加とミサイル防衛プログラムからの離脱を表明 2.ノルウェーのNATO加盟国としての努力 3. NATOの代替としての北欧諸国による集団防衛 1. ノルウェー政府、米国主導の2020年の大規模演習への不参加とミサイル防衛プログラムからの離脱を表明 2020年の4月から5月にかけて、東欧・中欧(注:筆者はこの地域の安全保障を語るうえでこの地域をこの二つに分離するメリットはないので冷戦期のように「東欧」とひとまとめに

        お久しぶりです&米中対立について、雑感

          仏独の対露宥和の方針についての考察

          お久しぶりです。 ウクライナ戦争勃発と世界の多極化につながる露の対外政策の急激な変化、そしてトランプ政権の登場によるそうした状況のさらなる深化により、ここのところ政界情勢の全体像を読むのが難しくなっています。 今回は、以前トランプ時代の欧州の防衛のあるべき姿について概観したのですが、それについて現状と照らし合わせて改めて考えると問題点が見えてきてしまいます。 仏独主導での欧州防衛政策により対露関係を(米との関係の先行き不透明により)改善させるのは一つの理にかなった戦略では

          仏独の対露宥和の方針についての考察

          今後の東欧を見るうえで押さえておくべきことー今後の世界情勢の俯瞰―

          私の見ている東欧は、諸大国の影響を古来より様々な形で受けてきました。現在は、すでに相対的に地位が低下し諸大国の影響下にある欧州の中でさらに欧州域内の地域諸大国の影響を受けているという地域といったほうがいいでしょう。こうした地域である以上、東欧情勢を見るためには、東欧そのものを見る前にまずここに影響を及ぼしている諸大国の動向について知る必要があります。 現在の世界は全体的にかなり大規模に変動しています。ゆえにここの段階で時間を取られてしまうのですが、今回は今後の世界を見るうえで

          今後の東欧を見るうえで押さえておくべきことー今後の世界情勢の俯瞰―

          トランプ以降の世界秩序と欧州防衛

          お久しぶりです。 去年末からの体調不良が一向に改善せず、また今後の方針についていろいろ検討していたこともありなかなかこちらに手を付けられずにいました。 今回はリハビリということで、手短に書いてみたいと思います。今現在の世界の戦略環境と、私が考える「あるべき欧州防衛」についてです。 1.新しい困難な世界 2.今後の欧州防衛に必要なもの 3.欧州防衛、各論 1.新しい困難な世界  先日の駐米英国大使がトランプ米大統領とホワイトハウスを辛辣に評価する報告を本国に起こってい

          トランプ以降の世界秩序と欧州防衛

          お久しぶりです

          事実上放置状態になってしまって申し訳ありません。 最後の投稿以降、年始よりの体調不良がずるずると回復しないのに加えて個人的なことで多忙になってしまい、テーマについて熟考する時間とリラックスした精神状態が得られず、質の低下した文章をお読み頂くわけにはいかぬと更新をストップしていた次第です。 今はだいぶ身辺も落ち着き体調も回復してきましたので、早ければ来週初頭より以前のペースでの投稿を行っていきたいと思います。 今後ともお付き合いいただけますよう、何卒宜しくお願い申し上げま

          お久しぶりです

          スウェーデンでの多国籍軍事演習ノーザンウィンド2019考察―ロシアからの脅威は現実のものとなるかー

          お久しぶりです。ここのところずっと特筆すべきものがなかったのですが、今回は先日始まったスウェーデンにおける軍事演習において考えたことを書いてみたいと思います。ただロシアの今後の核戦略についての私の判断がまだ十分に固まっていないので、今回は無料記事です。 1. スウェーデンの多国籍軍事演習ノーザンウィンド2019 2. この演習の狙い、ロシアからの具体的な脅威 3. ロシアによる二か国への軍事行動、考えられるシナリオ 1. スウェーデンの多国籍軍事演習ノーザンウィンド201

          スウェーデンでの多国籍軍事演習ノーザンウィンド2019考察―ロシアからの脅威は現実のものとなるかー

          リトアニア・ポーランド・ウクライナの同盟は可能かーロシアとNATOの狭間でー

          一月から二月初旬まで忙しかったので体調を崩し、更新頻度がかなり遅れてしまっています。正月は体調崩して休めなかったので来月あたり中継ぎの休みを取りたいと思っています。 2月22日、ポーランドのルブリンに司令部のあるリトアニア・ポーランド・ウクライナ統合旅団(LITPOLUKRBIRG)をポーランド、リトアニア、ウクライナ三国の大統領が訪問しました。今回はこの旅団が集団防衛義務を備えた「同盟」へと変化できるかについてNATOの影響力を念頭に考えてみたいと思います。 1.新「ルブ

          リトアニア・ポーランド・ウクライナの同盟は可能かーロシアとNATOの狭間でー

          米国の欧州安全保障政策・北極海からの視点

          今回は、今まで主にバルト海地域から観察していた北欧地域の、さらには欧州全体の安全保障を、北極海地域の安全保障という視座からとらえなおしてみるとともに、北極海という視点から米国のNATO離脱はありえるかという問題について検討してみたいと思います。 1.バルト海地域の安全保障と北極海地域のそれとは別文脈である 2・ロシアの北極海における拡張主義、中国の進出 3.米国のNATO離脱は北極海から見ると考えにくい。中国の進出も念頭 1.バルト海地域の安全保障と北極海のそれとは別文脈

          米国の欧州安全保障政策・北極海からの視点

          北マケドニアNATO加盟の場合、予想される欧州安全保障への影響

          今回は、長年バルカン半島南西部における不安定要因の重要な一つであった北マケドニアとギリシアとの間の「名称問題」がひとまず解決したことにより、北マケドニアのNATO入りの可能性が見てきた、この点について、加盟が欧州安全保障にもたらす影響について、加盟のメリット・デメリット双方を検討しつつ書いてみたいと思います。 1.予想以上の成果を上げた名称問題解決 2.北マケドニアNATO加盟の場合、メリットについて考察 3.北マケドニアNATO加盟の場合のデメリット。ロシアとセルビアの策

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          危うい連携ーポーランド・ウクライナ関係小史ー

           今回は基礎的知識ですので、無料です。  ポーランドとウクライナは現在ロシアという共通の脅威の前に連携していますが、相互感情が実のところあまりよくないということを歴史的経緯をもとに簡単に説明してみたいと思います。  ポーランドは旧ハプスブルク朝領だった西部ウクライナを獲得して独立した。このことは、露が戦争から離脱してロシア領ウクライナが一時的とはいえ独立していたことから厄介な問題となることになった。現在ポーランドはロシアからの脅威に直面してウクライナと緊密な関係を保っている

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          ギリシアとセルビア、ロシアと西側の駆け引き

          今回は、マケドニアとの名称問題解決交渉が大詰めを迎えたギリシアについての記事2本について、そしてそれ関連でセルビア・ロシア関係とセルビアの地政学的重要性についても書きました。 1.ギリシアは米国の東地中海での最重要パートナーとなるか? 2.セルビアとロシアの強固な関係・セルビアとセルビア人の扱い上の注意点 1.ギリシアは米国の東地中海での最重要パートナーとなるか? マケドニア議会が名称問題解決のためのプレスパ合意実現に向けての必要な批准を完了した件について、露外務省が

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          NATOの有名無実化と独露宥和の場合:バルト三国とポーランドの運命

          もっと早く投稿したかったのですがPCの調子が悪く遅れてしまいました。 最近のドイツのマース外相の東方外交政策を観ての投稿です。 1.独外相の対露宥和的な外交政策 2.欧州西部勢力とロシアとの地政学的確執の舞台 3.独露宥和の場合:バルト三国とポーランド 1.独外相の対露宥和的な外交政策 今月19日のロイターの記事で、ドイツのマース外相がロシアとウクライナは紛争を鎮静化させる努力をすべきとの発言が発信され、これを読んだ私のTwitterのTLの東欧人たちから「ウクライナを

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          北欧地域の安全保障、今後の展望

          今回は雑感的な内容ですので、無料公開です。 1.北欧安全保障の現状 2.ロシアのスカンディナヴィア侵攻のシナリオ 3.米国の今後の対欧州政策と北欧安全保障 4.北欧諸国の今後の安全保障、筆者視点のアイデア 1.北欧安全保障の現状 ノルウェーのバレンツオブサーバーのWebニュースで北欧諸国の国防相たちがノルウェーに集結し会談したという記事を読んで考えたこと。  はじめに、ここでの北欧地域とはデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランドを指す。バルト三国を

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