仏独の対露宥和の方針についての考察

お久しぶりです。
ウクライナ戦争勃発と世界の多極化につながる露の対外政策の急激な変化、そしてトランプ政権の登場によるそうした状況のさらなる深化により、ここのところ政界情勢の全体像を読むのが難しくなっています。

今回は、以前トランプ時代の欧州の防衛のあるべき姿について概観したのですが、それについて現状と照らし合わせて改めて考えると問題点が見えてきてしまいます。

仏独主導での欧州防衛政策により対露関係を(米との関係の先行き不透明により)改善させるのは一つの理にかなった戦略ではありますが、そのためには東欧・バルト諸国の不安を払拭するためにこれら諸国への防衛力の提供、そしてそれが困難であれば、確固たる欧州防衛の意志を示しつつ防衛力増額など欧州防衛整備に邁進することをアピールすべきです。だがこれらは今のところ東欧・バルト諸国が納得のいく形でなされているとは思えない。

さらに、対露関係改善の交渉の席でも現状維持を認める前例は作らないことが重要です。例えばクリミアの露領土編入について公式に認めない立場を崩さない。だがこのあたり昨今の仏独の対露宥和姿勢を鑑みると不透明である。今回は現在ノルマンディー4(仏独露ウクライナ)の緊張緩和の努力について今回短いながらも書いてみたいと思います。


仏独にしてみれば米との関係の先行きが不透明になればとりあえず露と関係改善して欧州東部を安定化させる流れは自然といえば自然なのだが、それをやると露の脅威に直面している東欧・バルト諸国からの強い不信を買うことになる。NATO加盟国間の相互不信は同盟の弱体化をもたらしかねない。

短期的には、露の脅威に直面している東欧・バルト諸国は、ウクライナでの戦争が仏独露の緊張緩和の努力によって停戦し露がウクライナ領土の奪取のみで野望を引っ込めるのであれば当面安心できる環境にはなろう。だがこうした前例を作ってしまうと今後これら諸国は露の再浮上と拡張政策の再開の不安と共に生きざるを得なくなる。

今回のノルマンディー4(仏独露ウクライナ)の交渉の行方についてまだ確たることは言えないが、とりあえず今の仏独の対露宥和の姿勢は、やり方がまずければこの二国が欧州安全保障機構であるNATOを牽引する役を担い得ないことを露呈してしまうことになる。対露宥和それ自体は今の情勢からは理にかなっているとしても、露に不安を抱く東欧・バルト諸国を安心させるに足る防衛力を仏独が提供(NATOという相互安全保障機構の一員なのだから当然)できないということを露呈してしまうならば、これら諸国に今以上の米国との関係強化、自国防衛力の強化、逆に独自に対露宥和に走る、と各国の事情によりそれぞれ別個の国防政策を選択せざるを得なくなるわけで、これはNATOの紐帯をかなり危うくする可能性がある。

また、仮に仏独がウクライナの件で露に有利な条件(つまり現状追認)で露と妥協するとするなら、露の欧州東部での大規模な影響力回復の見込みはなくなったとしてもウクライナ単体を見ればプーチンの大きな手柄となる。これは悪しき前例を作るとしか思えない。

仏独(英の立場が微妙になっているのでとりあえず英は置いておく)主導の欧州防衛が今は必要であるのだが、それを行い得る力がなければどうにもならない。仏独が今後欧州防衛において今まで以上に責任を果たし、整備に心血を注ぐことを東欧・バルト諸国の納得のいく形でアピールできない限り、結局欧州はそれ単体で結束できる力(防衛力も当然含む)がなく米国のコミットが不愉快だろうと必要だということが露呈してしまうことになろう。


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