リトアニア・ポーランド・ウクライナの同盟は可能かーロシアとNATOの狭間でー

一月から二月初旬まで忙しかったので体調を崩し、更新頻度がかなり遅れてしまっています。正月は体調崩して休めなかったので来月あたり中継ぎの休みを取りたいと思っています。
2月22日、ポーランドのルブリンに司令部のあるリトアニア・ポーランド・ウクライナ統合旅団(LITPOLUKRBIRG)をポーランド、リトアニア、ウクライナ三国の大統領が訪問しました。今回はこの旅団が集団防衛義務を備えた「同盟」へと変化できるかについてNATOの影響力を念頭に考えてみたいと思います。

1.新「ルブリン合同」と呼ぶのは適切か
2.同盟を形成できない二つの理由
3.今後も今の状態が変化するとは思えない

1.新「ルブリン合同」と呼ぶのは適切か

2月22日、ポーランド東部の町ルブリンのリトアニア・ポーランド・ウクライナ統合旅団司令部をポーランドのドゥダ大統領、リトアニアのグリバウスカイテ大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領が訪問し首脳会談を行った。Twitterにポーランド大統領のアカウントなどから投稿された写真には三首脳が司令部において兵棋演習を見学(ポーランド大統領が実際に駒を動かす写真があったが、具体的にどういった演習を行っていたかについての言及はなかった)する模様を写したものなどがあったが、軍事レベルでの突っ込んだ話し合いはなかったようである。結論から先に言えば、この統合旅団の性格がそうであるように、この三首脳会談の中身も政治レベルにとどまったものであった。このことは会談後の各首脳の声明がウクライナ水兵の早期釈放をロシアにもとめる、ロシアへの制裁をさらに強化するなどあくまでも政治レベルにとどまったものであったことからも推察できる。
そもそもポーランド大統領が1569年のルブリン合同を象徴的に持ち出し、ウクライナ外相がこの会談をネオ・ルブリン合同と評するツイートをするなど、今回の三首脳の訪問はこの地が持つ歴史的な意味合いを踏まえた、三国連携の強さをアピールする、訪問自体に政治的アピールの意図を持たせた極めて政治的なものであったことがわかる。1569年にこの地で行われたルブリン合同でポーランド王国とリトアニア大公国が合同し、そこには現在のウクライナの主要部分も含まれていた。この統合旅団の司令部がルブリンに置かれたのはこれら三国の部隊からなる統合旅団を統括するのに適していたという地理的な理由もあっただろうが、こうした歴史的意味から象徴性を持たせたかったという可能性が高い。
だが、ウクライナ外相が今回の会合を「ネオ・ルブリン合同」と呼ぶのはかなり時期尚早と言わざるを得ない。本当に「合同」であるためにはこれら三国の軍が一体となってそれぞれの領土の一体性を保持しなければならない。つまりNATOのような集団的防衛機構であることが、これを「合同」と呼べる最低条件なのである。だが、たとえリトアニアがマイダン革命のころからウクライナ(の反露勢力)に協力的であり2014年のウクライナ戦争勃発後も物的リソース面での支援を行うなどをし、ポーランドが以前の投稿で書いた(https://note.mu/araigawa/n/nda8fdc6643a3)ウクライナとの歴史的な諍いを圧殺してまでウクライナとの安全保障面での協力を推し進めても、このレベルの相互防衛義務のある安全保障機構にしようとする積極的かつ具体的な意思はリトアニア、ポーランド二国からは今のところ見いだせない。旅団は所詮旅団であり、いくら今回の会談後ウクライナ大統領が「この旅団は戦う準備はできている」とツイートしたところでそれを実行できなければ、今回の会合を「ネオ合同」と言うことはできないのである。

2.同盟を形成できない二つの理由

この三国が相互防衛義務のある同盟を形成できない理由は主に二つである。
一つ目は、そもそもこの三国だけでは軍事力の規模が小さすぎてロシアの西進を止められるだけの軍事的能力を持てないためである。同盟を形成すれば、それはNATOのように加盟国の領土侵犯がその相互防衛義務を発動させる根拠となるし、今現在ロシアがクリミアとウクライナ東部に侵攻し占領を続けている状況下では、同盟締結と同時にポーランドとリトアニア二国はウクライナ東部のロシア軍に対し軍事行動を起こす義務が生じてしまうことになる。だが、この二国はロシアの飛び地であるカリーニングラード州と事実上の同盟国であるベラルーシの二つに接しており、これら二国はウクライナ東部に行く前に自国領防衛のために戦わねばならない事態に陥る可能性がある。こうして三国それぞれがロシアに対し防衛戦争を行う状況になった場合、それを押しとどめられるかについてははなはだ心もとない。
二つ目は、上で述べたポーランドとリトアニアがロシア領カリーニングラード州とその同盟国ベラルーシに接しているという状況下においては、これら二国が現在ロシアの侵攻を受けているウクライナと同盟しウクライナ東部でロシア軍と戦争状態に陥り、上述の地域から逆侵攻を受けるといった事態になった場合、これら二国はNATO加盟国であることから、NATO自体がロシア軍に対し集団的防衛行動を取らねばならなくなる。仮にロシアが米国との衝突を恐れてこれら二国への軍事侵攻を控えたとしても、ウクライナ東部でロシア軍と戦っているこれら二国をめぐってNATOとロシアとの間で深刻な対立が生じるはずである。こうなった場合NATO域内、とりわけ東部の安定状態を維持したいドイツや、欧州懐疑派で親露傾向の強いハンガリーやイタリアはロシアとの対立のエスカレートを望まず、このようにしてNATO加盟国内で意志の統一ができなくなる恐れが出てくる。これは全会一致を原則とするNATOにとっては致命的なことである。ゆえにこれら二国がウクライナと同盟を結ぶ動きを示した場合NATOが否定的な立場で介入してくるであろう。

 3.今後も今の状態が変化するとは思えない

以上のことから、現時点ではポーランド、リトアニア、ウクライナが効果的な安全保障体制を三国だけで作れる可能性はかなり低いと思わざるを得ない。ウクライナはロシアと同時期にNATOと関係を結んだ国でありながら、今後もNATOのためにロシアの侵攻を吸収し出血させるための人間の盾となり続けることになるだろう。こうしたフラストレーションが今後ウクライナ国内政治にどのように作用するのかは未知数である。親露派が(ロシアからの工作を受けなくても)また台頭する可能性は今後ウクライナ政治の混乱の度合いから見えてくるものになろう。ポーランド、リトアニアとの連携は政治レベル以上のものにならず、これら諸国をはじめ西側諸国からの援助は間接的なものにとどまり続ける。国際政治のこうした冷酷なリアリズムを我々は対外政策を検討するにあたって十分留意する必要があろう。

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