見出し画像

パイロットの心得

こんにちは、あらいぐま機長です。
今日は『パイロットの心得』についてお話ししていきましょう。
さっそくですけど、『エアマンシップ』という言葉を聞いたことがありますか?

これはたぶん辞書にものってない造語なんですけど、世界中のパイロットの教育で使われている言葉なんですよ。

スポーツマンシップって言葉は聞いたことがあると思いますけど、これはフェアに正々堂々と勝負することとか、どんな相手でも手を抜かずに勝負することとか、そういうスポーツマンにあるべき精神のことを言いますよね。

じゃあエアマンシップってどういう精神のことを言うんでしょうか?
パイロットを目指す人にはぜひとも知って欲しいと思います。

エアマンシップ


初めに『エアマンシップ』という言葉の説明をしておきましょう。

エアマンシップって言うのは、正確にはパイロットに必要な知識だったり、能力や考え方のことをいうんですけど、『パイロットにあるべき精神』とか、『パイロットの心得』という意味合いで使われることか多いです。

『あいつはエアマンシップが欠けてる』とか、ちょっとパイロットとしては聞き逃せないくらい辛辣な悪口なんですけど、どういうことを言うのか分かりますか?ちょっと考えてみてください。

これは僕なりの解釈でもあるんですけど、エアマンシップとは法とか規定とか、さらには安全のための措置を遵守する精神であり、逆にそれを濫用しない精神でもあるのかなと思います。
パイロットの仕事はお客さんや仲間のクルーを含め、たくさんの命を預かります。

また万が一にも飛行機が墜落してしまった時には地上にいる人にも被害が出てしまうかもしれません。
だから安全に関してたくさんの法律や規定、ルールがあり、パイロットは勉強しないといけないことがたくさんあるし、パイロット同士のマナーもあります。

マナーの悪いパイロットっているんですよ。
割り込みをしてくる飛行機とか。

例えば羽田空港とか成田空港って大きな空港だから、離陸するのに出発ゲートから滑走路まで、15分くらいかかったりします。
また混雑空港だから自分の他にもたくさんの飛行機が滑走路に向かってタクシーしています。

基本的には飛行機の出発の順番って、プッシュバックをリクエストした順番なんですけど、効率的に飛行機を飛ばすためにある程度管制官の裁量で変えられてしまいます。

ほんとは自分の方が先だったのに、ものすごいスピードで割り込んできた他社の飛行機に先を越されてしまう。なんてことがたまに起こります。
もうコックピットはこんな感じです。

他にも、離陸の順番はプッシュバックをリクエストした順だと言いましたが、これを悪用するパイロットもいます。

平時の混雑した福岡空港とか、朝一に空港がオープンしたらいろんな会社の飛行機の出発時間がかぶったりしてるもんだから、プッシュバックのリクエストが1分でも遅れたらそこで10分待ち、なんてこともありえます。

だからみんな他の飛行機よりも早くプッシュバックをATCにリクエストしたいんですけど、たまに横の飛行機が明らかに『まだ出発の準備できてないだろ!』って感じなのにプッシュバックをリクエストしていたりします。

本当はお客さんが全員飛行機に乗り込んで着席したのを確認してからプッシュバックをリクエストするのが筋なんですけど、先にリクエストだけしといて離陸の順番をゲットしといて、それからお客さんの着席とか地上の準備を待ってからプッシュバックを始めるという寸法です。

これで縮まるのはたった1分とかそんなもんなんですが、福岡の朝一とかの状況ならそれで10分の遅れを回避できるんだから美味しいですよね。

こういうのはルール違反ではないんですけど、おいおいって思いますよね。
ここまでは僕のグチみたいなもんで、ここからがもうちょっとやばい話です。エアマンシップって大切だなってみなさんも思うと思います。

海外の航空会社で、今はもうなくなってしまった会社なんですが、ひどい会社がありました。

世界の主要都市にある空港って、だいたい混雑していてアプローチする前に30分とか待ったりすることもあるんですけど、飛行機って持っている燃料が限られているので、そんなに長く待てないかもしれません。

燃料が尽きた飛行機は墜落してしまうので、管制官は安全のため燃料の少なくなってしまった飛行機に優先権を与えます。これを悪用した航空会社があったんですよ。

燃料って重たいので、積めば積むほど飛んでられる時間は長くなりますが、燃費が悪くなってしまいます。その燃料を運ぶために燃料を使ってしまうんですよね。

だから航空会社としては必要な最低限の燃料で飛行機を飛ばすんですけど、目的地が混雑するような空港である場合にはそこで想定される待ち時間分の燃料も余分に積んでいきます。

でもその会社はそれをケチって、ほんとに最低限の燃料でやってきて、他の飛行機が30分とか待っている中、『待つ燃料がない』ってATCに言って優先的に降りるってのを繰り返していたんですよ。

これもルール違反ではなかったんですけど、どう考えても汚いですよね。
それで国際的にルールが変更されて、『燃料が少なくても緊急事態を宣言しない限りは管制上の優先はない』となりました。

こうなるとその会社も今までのようなずるいことはできなくなります。緊急事態を宣言すればニュースにもなるし、会社のイメージダウンも甚だしいですからね。

この件に関してはこれでめでたしめでたし、なんですが、もう一つ興味深い実話があって、ルールが変更される前にこの会社の飛行機がいつものように燃料が少ないことを理由に優先権を要求しました。

管制官が仕方なくその飛行機を先に下ろすように着陸の順番を変えようとしたところ、その前を飛んでいた飛行機が自分も燃料がないって言い出したんですよ。

その頃にはその会社がずるいことをやってるってどのパイロットも知ってたもんだから、頭にきたんでしょうね。前を飛んでいたパイロットはそれをさせないために、自分は実際には燃料が充分あるのに足りないって言っちゃったんですよ。

このパイロットはどうですか?

これもエアマンシップに欠けると言えます。もともと悪いのは後ろの飛行機ではありますが、嘘をついてまで後ろの燃料の少ない(かもしれない)飛行機よりも先に降りようとしたのは完全にアウトです。パイロットの風上にもおけないヤツ、と言われてしまいます。

最後にもう一つ、これはエアマンシップの欠如が事故にまで繋がってしまった話です。

飛行機って、悪天時に滑走路に降りる際には進入限界高度っていうのが決まってて、アプローチ方式にもよりますが、小さい空港では400ftとか。東京タワーの3分の1くらいの高度とかで設定されています。その高度までに滑走路が見えなければゴーアラウンドしないといけないんですよ。

周りが見えない中地面に近づくと近くの山とかにぶつかってしまう危険があるからです。

でも霧が深い日なんかにはもっと下にまで降りないと滑走路が見えないってことがあります。
そんな時には人間の性として、『もうちょっと降りれば見えるはず』って思っちゃうんですよ。

それでその限界高度以下に降りちゃって、周りが何も見えない中、滑走路のアプローチライトに飛行機の足を引っ掛けちゃって墜落した事故が起こっちゃったんですよ。またこれに似た事故は過去にいくつもあります。

どのパイロットも、決して自分のためにやっていることではありません。

『飛行機を効率的に飛ばしたい、お客さんを定時に到着地に届けてあげたい』って思いでオペレーションをしているんですけど、それが行き過ぎるとこうなってしまいます。

安全性は必ず守らなければならないし、何よりルールを守るということは絶対なんですよね。

航空事故が起こってしまうのはベースとしてはその組織に問題があると思います。規定違反を許容してしまう風土や、定時性や効率を優先して現場の人間にプレッシャーをかける地上職の人もいます。

そんな中で、パイロットは安全に対して最後の砦なんですよ。
だから強いエアマンシップをもっていなければパイロットの仕事は全うできません。

今日はここまで、パイロットの心得、エアマンシップについて説明しました。


パイロットを目指す君は一度考えてみてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?