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<完全解説>ボーイングとエアバス

こんにちは、あらいぐま機長です。
今日は旅客機メーカー、ボーイングとエアバスについてパイロットの目線で比較、解説します。
飛行機について語る上でこの2社は絶対に外せないところですね。

どちらも世界を代表する超巨大企業ですが、ボーイングはアメリカの会社で、エアバスはヨーロッパ、EUの会社です。

他にも有名な航空機メーカーはありますが、日本人にとって馴染みがあったのは三菱航空機のMRJではないでしょうか。残念ながら開発が遅れて、名前も変わった挙句に開発凍結となってしまいましたが、それだけ旅客機を製造するのはハードルが高いということでしょう。

僕個人的には航空機産業は日本全体の産業を底上げするので、日本全体にとって利益のあることなので頑張って欲しかったのですが。

ちょっと話が脇道にそれましたね、ボーイングとエアバス。

パイロットであればこのどちらかのライセンスを持って入れば一生安泰だと言われています。
また皆さんが飛行機に乗るときには地方路線を除いてほぼこのどちらかの飛行機に乗っているでしょう。それくらい世界の旅客機のシェアを独占している企業ですが、アメリカ対ヨーロッパという構図になっているのも興味深いですね。

また、この両社は飛行機の設計思想や操縦桿の形なんかも違っていて、知っていけばもっと面白いと思います。

あまりにも大きなテーマですが、解説してみようと思います。


ボーイングとエアバスの概要

ではまずはボーイングとエアバスの概要を確認しておきましょう。

ボーイング社とエアバス社

ボーイングの本社はアメリカのシカゴにあります。ボーイングといえばシアトルじゃないんだって思った方もいると思いますが、シアトルにあるのは工場ですね。シアトルの工場見学ツアーなんかは人気になっています。

一方のエアバスの本社はフランスのトゥールーズ。どこだそれって思った方、僕もです。意外と田舎ですが、エアバスは元々ボーイングに対抗するためにフランス、ドイツ、イギリス、スペインの航空機メーカーが共同で作り上げた会社です。

設立はボーイングが1934年でおよそ90年前です。飛行機の歴史がライト兄弟の初飛行だとして、それが1903年のことであるので、飛行機の歴史が約120年であることを考えるととても歴史ある会社だといえますね。

一方でエアバスはその歴史からまだ若い会社で1970年の設立。ということはまだ55歳程度、歳で言えばボーイングにとってはまだひよっこということになります。従業員数もBoeingの方が多いですね。

事業規模の比較

それでは両社の経営状況についてみていきましょう。

ボーイングとエアバス決算比較

これは2020年からの両社の決算情報をグラフにしたものです。

ボーイングの売上高はエアバスを上回るものの、当期純利益ではエアバスがボーイングを大きく上回っていることがわかります。エアバスは堅調な業績を維持しているのに対し、ボーイングは2023年になっても当期純損失が続いています。両社の経営状況の違いが一目でわかりますね。

2020年といえばコロナ真っ只中ですね。
ボーイングに関して売上高は2020年からほぼ年々増加基調にあるものの、営業利益、当期純利益はいずれの年も赤字が続いている状況です。737MAXの安全性問題の影響が大きく、2023年にようやく営業黒字化したものの、純損失は継続しています。ボーイングは業績回復に向けて課題を残しています。

エアバスは2020年にコロナ禍の影響で純損失となったものの、2021年以降は売上高が回復基調にあり、営業利益、当期純利益ともに黒字化しています。特に2022年、2023年は4,000百万ユーロを超える高い純利益を計上していて、業績は安定した状況にあります。

飛行機の設計思想の比較

次に飛行機の設計思想について、これが面白いところで、僕たちパイロットの間でよく言われていることがあって、ボーイングは人間と機械と比べて、人間が偉い。エアバスは逆に人間の方が間違えるから機械が偉い、という思想で飛行機が設計されていて、飛行機の細部にまでその違いが現れてきています。

その最たるものが、操縦桿の形でしょうか。

コントロールコラムとジョイスティック

ボーイングはコントロールコラム型、というとよくわかりませんが、左の図のような形です。
みんながイメージする、オーソドックスな操縦桿の形じゃないでしょうか。

一方でエアバスは最近の機種ではジョイスティック型を採用しています。
ジョイスティックの方が狭いコックピット内でスペースを取らず、目の前に大きなスペースができてここに折りたたみデスクが出てくるので、エアバスのパイロットは、なんとコックピットでお弁当が快適に食べられます。一方でボーイングのパイロットはお弁当を食べるときにはシートを下げて膝の上にお弁当をおいてせせこましく食べなければなりません。

というのは冗談ですが、やはりボーイングの大きな操縦桿の方が飛行機の細やかなコントロールができますが、エアバスは操縦の多くの部分を自動化していて、ジョイスティック型でも非常に精度の高いコントロールを行うことができます。

またエアバスの機体ではパイロットが意図的に操縦桿を力一杯引いて、ストールという飛行機が墜落してしまう状態にしようとしても、勝手に機械が飛行機のコントロールをオーバーライドしてそれを防ぎます。

そう聞くとエアバスの方が優秀なシステムじゃんって思いがちですが、機械が誤作動を起こしたときにパイロットが止められないってケースも考えられるので、どちらがいいとは言えないと思います。

しかし皮肉にも、機械の誤作動を止められなくて墜落してしまったのはボーイングの最新飛行機、B737-MAXでした。B737 MAXの事故についてはまたの機会に解説したいと思います。

ラインナップ

では次に代表的な飛行機に絞ってそのラインナップを紹介します。

引用:エアバスHP / ボーイングHP

左にボーイング、右にエアバスを並べています。上から順に飛行機のサイズが大きくなっていきます。
ざっくりとイメージしやすいようにシリーズとして一緒くたにして説明していきますが、実はB737やA320の中でも細分化されて大きさや性能が異なります。詳しい情報が知りたい人はwikipediaなんかを読んでみてください。

まずはボーイングのB737MAX!737シリーズは世界で最も売れたベストセラー飛行機です。
初飛行は1967年なので、60年近くも飛んでいる飛行機ということになります。すごいですね。
左右に見比べてもらうと気づくと思いますが、ボーイングもエアバスも同じ規模の飛行機をラインナップとして出しています。

B737MAXに対抗するエアバスの機種はA321ですね。ここではA320シリーズに入れていきましょう。
これも人気の飛行機で、最近のLCCと呼ばれる格安航空会社で多く採用されているモデルです。

これらはナローボディという小さめの旅客機で、中央に通路が一本、左右に3席ずつの座席配置になっている航空会社が多いと思います。
余談ですが、座席配置などのインテリアは購入した航空会社が決めることができます。

次はB787。これは大きさ順で並べているのでこの順で来てしまいましたが、ボーイングのシリーズでは最も新しい次世代旅客機となります。

以前の飛行機では飛行機の構造にアルミを用いていましたが、重たい金属ではなく軽量な炭素繊維を構造に用いた画期的な飛行機で、またシステムの多くの部分を電気化することによりさらなる軽量化を目指しましたが、バッテリーから出火してしまった事故を覚えている人もいるのではないでしょうか。

もう不具合は解消されていますが、それだけ先進的な飛行機ということになります。
これに対応したサイズのエアバスの機体はA330ということになるのですが、飛行機の世代という意味ではA350の方が近いですね。

A330は日本では飛んでいないので馴染みのある人は少ないと思いますが、これはエアバスの最初の飛行機であるA300という飛行機の胴体を伸ばして作られた飛行機です。
ここからの飛行機はワイドボディという、客室に通路が2本あるタイプの飛行機で、一般的に大型旅客機といわれるものですね。

次にボーイングのB777。これは「トリプルセブン」という愛称で親しまれていた有名な飛行機ですが、JALがこの機材の退役を発表したことで時代の変化が感じられました。JALはこの後継として、エアバスA350を導入しています。

最後にエアバスの機体はA380。これも出てきた時は大ニュースになりましたが、全ての客室が2階建で、空飛ぶマンションと言われるほどです。
スカイークが導入すると言った時は業界のほとんどの人が「嘘だろ」って思ったものですが、残念ながら導入は失敗に終わり、その後ANAが導入するって言った時にはまた多くの人を驚かせました。
僕は男の子だからか、やっぱりこう大きなものってのはワクワクしちゃいますようね。
ANAはA380をANAはハワイ路線に投入しています。

ではここからはB787とA350で比較してみましょう。

B787とA350の比較

B787 VS A350

さっきから燃費という言葉がよく出てきていることにお気づきの人がいるかもしれませんが、エアラインではこの燃費が非常に重要です。

例えば成田からニューヨークへ飛ぶ場合、往路でおよそ13時間かかりますが、このB787の燃費、1時間で6100リットルで計算すると約80000リットルもの燃料が必要です。飛行機の燃料は成分が軽油に近いのですが、燃料の値段が1リットル50円として、約400万円もの燃料代がかかることになります。そんなにもかかるのかとびっくりすると思いますが、これを燃費の悪いジャンボで飛ぶとその倍の800万円を超えます。航空会社は利益を出さないと生きていけない企業ですから、燃費というのは飛行機にとって非常に重要なファクターとなります。

一方でA350でニューヨークに飛ぶとすると、カタログスペックである1時間6800リットルで計算すると、440万円の燃料代。B787で飛ばすのに比べて40万円損してますね。

しかし下の座席数を見てみてください。B787は300席であるのに対し、A350は350人のお客さんを運ぶことができます。ニューヨークまでの運賃を15万円と見積もっても、その差の50席全部埋まれば750万円の利益が得られるので、燃料代の差額分くらいはペイできてしまいますね。これがJALがA350を導入した理由でしょうか。

最後にどちらも航続距離は15000km。15000キロってイメージつきづらいですが、地図にするとこんな感じです。

15000km = 東京 - コロンビア

Google Earthで東京から線を引いてみると、コロンビアくらいの距離になりました。黄色い線がそれに当たります。

成田から地球の反対側であるブラジルまで20000キロくらいなので、ブラジルには届きませんが、ほとんどの国には行けてしまいます。飛行機ってすごいですね。

しかし飛行機のスペックとしてはこんな長距離を飛べても、実際には目的地に降りられない場合の代替飛行場とか、緊急時のための燃料が必要になるので、エアラインの運航でここまで飛ばすことはできません。

でも比較してみた結果は優劣は付け難いですね。どちらも優秀な飛行機です。

パイロットとしてどっちを選ぶ?

では最後にパイロットとしてどっちの飛行機がいいのでしょうか?

パイロットにとってのいい飛行機の条件って、実は人によって大きく変わります。
操縦性がいいボーイングという人もいるし、ジョイスティックで広々とコックピットを使えるエアバスの方がいいよっていう人もいます。

しかし結構大事なのって、自分の好みは置いておいて、世界中で使われている飛行機のライセンスを持っておくってパイロットにとっては結構大事なんですよ。

飛行機は型式ごとにライセンスが異なります。B737とB787、A320とA350のライセンスも全部違うライセンスになります。

それでパイロットがより高い給料を求めてとか、海外で住みたい国があってとか、今勤めてる会社が潰れてしまったとかで他のエアラインに転職する時って、機材ごとに募集が出ていることが多いんですよ。

例えばエミレーツの採用ページを見てみましょう。

エミレーツ航空採用HP

A380の機長の募集!ワクワクしますね!
でもここで赤線を引いたところに書いてありますが、応募するにはA330-380で3000時間以上の飛行経験がないと応募することができません。

そうすると、パイロットとしては世界中のエアラインで使われている飛行機のライセンスを持っていると就職活動をするのに有利ということになります。

またエアバスは機種を跨いでコックピットのレイアウトを統一しているので、『A350のパイロットの募集だけどA320のライセンスで受験してもいいよ』とか、そういうこともよくあります。

そう考えると、特に今はボーイングの不調もあるし、僕個人的にはエアバスのライセンスを持っていた方がいいのかなーと思います。

まとめ

今日はここまで、テーマが真面目なもんだったんですっかり長くなってしまいました。世界を代表する旅客機メーカーのボーイングとエアバスについて、その概要を掴んでもらえたんじゃないかと思います。

じゃあまた次回!最後まで読んでくれてありがとうございます!

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