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テロ攻撃を受けたイスラエルが批判に晒されるのは何故だろうか(3)

これまでのポストの主題は、ニュース報道やSNSで感じる違和感に関するもので、思いつくままに自分の理解を整理した。
 1回目 難民が生まれた背景、占領、入植、について
 2回目 死者数比較、国際人道法違反、テロリストvs国家 について
この段階でテルアビブ大学講師の山森みか先生の「自分が立っている場所」という記事を読んだ。
 ”当事者以外の立場から「こうすべき」と言う際には、自分がどこに立っているのかをまず自覚する必要がある。政治的に難しい局面においてどちらかに舵を切る時には、必ずそれによって現実に被害をこうむる人々が出てくるからである。”
確かに、私にはイスラエルに多くの知人がおり、その一人は10月7日のテロ攻撃で家族を一人失っている。彼らを支援したいと思うものの、私自身は当事者というわけではない。イスラエルに対しては様々な批判があり、その中にある偏見と誤解を正したいと考えるのが”自分の立ち位置”かとは思っているが、安易な擁護、感情的批判に陥らないために、もう一度「自分の立ち位置」を見つめ直してみたい。

10/7以降Xで意見を述べる自分の立ち位置

思いつくままに、現時点での自分の背景と考え方を列記する。
1. ビジネス、プライベート共にイスラエルとの関係が15年以上あり、現地訪問回数も知人も多く、イスラエルにシンパシーを感じている。
2. とは言えイノベーションやスタートアップの領域が中心で、歴史や文化、宗教については、自身の著書を書く為に調べた一般教養程度の知識しかない。特に宗教からは距離を置く。
3. 自分が現役で生きてきた80年代から2000年代は、世界は比較的平和で先が読める時代だった。その後、アフガニスタン紛争、中国の国家安全維持法と香港、ロシアのウクライナ侵攻、等、民主主義と安全保障の環境が大きく変化し先行き不透明感が増していることに、子供・孫のためにも危機感を覚えている。
4. イスラエル支持派は”テロとの戦い”、パレスチナ支持派は”パレスチナ問題”という異なる切り口と時間軸とで今回の問題を捉えているように見える。
5. イスラエルに関する日本のメディア(TV,新聞)報道は偏向していると感じている。
6. 国際法の専門家ではないが、西岸地区への入植には反対であり、イスラエルの入植に理があるとは思えない。
7. 一方、テロ組織が支配している限り、ガザ地区の「封鎖」は”安全のため”に必要であると考えている。「占領」という国際法違反とは思えない。
8. IDFのガザ地区攻撃で民間人被害を最小化するための方法論として、現在IDFが行っている”事前退避勧告”、”ルーフ・ノッキング”以上に何が出来るのか、全く知恵はない。「やり過ぎ」と非難する人には望ましい方法論を問いたい。
9. 理想論ではあるが、テロを相手にするにせよ”目的に加えて手段も正しくあるべき”という原則をイスラエルには可能な限り守って欲しい。
10. 一方で、国際法を無視するテロ組織や専制国家がある以上、国際法の遵守が問題の解決に繋がるわけではないことも明白であると考えている。

このように振り返ってみると、私自身の立場としてはイスラエル寄りではあるが、一方の側に立って問題に白黒つけるようなだいそれたことを考えているわけではなく、言論の場面で感じる「様々な違和感」に反応しているのであることを改めて認識した。
ダニエル・ソカッチの ”イスラエル 人類史上最も厄介な問題” では”こと イスラエル に関して は、 場所 と 関係者 を どう 呼ぶ かで 意見 が 分かれ、 出来事 の 歴史 について 意見 が 分かれ、 現在 その 地域 を 揺るがし て いる 問題 を どう 理解 する かで 意見 が 分かれる”と指摘されている。それほど複雑な問題であり、ソカッチの言うように”パレスチナ人とイスラエル人はどちらも正しく、どちらも間違っている”のだろう。

ハマス≠パレスチナという大原則

今回の出来事はあくまでハマスがイスラエルにテロ行為を行ったことに端を発する。10月7日から2,3日はイスラエルvsハマスだった。ところが、イスラエルによる反撃がはじまり、ガザ地区の一般の人々が巻き込まれるようになると世界の論調はイスラエルvsパレスチナに変化した。イスラエル軍がガザ地区への攻撃をする中で一般市民に犠牲が生まれれば、国際世論はイスラエルを非難する。どこまでが自衛権の行使として許容され、どこからは国際法違反の人権侵害になるのか、歴史的経緯を含めたその複雑さは私のような門外漢が口を挟めるものではない。10月30日現在でイスラエルへの批判は既に大きなうねりとなってなっており、今後拡大することこそあれ、収まることはないだろう。そのことを大変危惧する。

ただ、パレスチナの人々を守る責任は一義的にはパレスチナ自治政府であるはずだ。この原則を見誤ってはいけないだろう。ハマスに支配されているガザ地区のパレスチナ人はハマスの被害者であり、パレスチナ自治政府の指導者には彼らを守る責任があるはずだ。ガザの攻撃をするイスラエルをやり過ぎと非難する時は、同時に責任と義務とを放棄しているパレスチナ自治政府も非難されるべきである。パレスチナを擁護することはハマス(テロ)を擁護することではなく、同時に、イスラエルの擁護をすることはパレスチナ人の人権を無視することでもない、はずである。

想定されるイスラエルの困難

ハマスの力を削ぐには大変な時間と努力とを必要とするだろう。池田明史 東洋英和女学院大学名誉教授は「ハマスとはテロ組織ではなく思想である」とも指摘している。組織であれば潰すこともできるかもしれないが、思想を無くすことはできない。とすれば、当面その思想を持つ人を除去できたとしても、いつか同じ思想の人が生まれて同じ悲劇が繰り返される。イスラエル人の意思は強いので都度現実的な対処をするとは思うが、その過程で生まれる国際世論のイスラエル批判は都度大きなものになるのではないだろうか。現実的な対処は必ずしも理想論や正論では済まないからだ。それに対応してゆかざるを得ないイスラエルの人々の困難は大きなものになる。

現在の政府も、軍、諜報機関も、テロ攻撃を許してしまった責任を取ることになり、今後政治的な混乱が続くだろう。連立政権が不可避なイスラエルでは、多数派よりも連立を支配する少数派に左右される、振れ幅の大きな不安定状態が続きかねない。

イノベーション国家イスラエルの経済・産業も影響なしには済まないはずだ。IDFの主力である予備役の人々は生産年齢人口の中核をなす人々でもある。企業からは平均して15%から20%の人員が予備役として招集されているという。従って、戦争が長期化すれば経済への影響は避けられない
多くのイスラエル企業の営業本社は市場であるアメリカやEUにあり、イスラエルには開発・サポート部門が残るのが一般的である。これらの企業のビジネスに関する影響は少ないかもしれない。
しかし、ここ数年の日本企業のように”オープン・イノベーション”にイスラエル企業・技術の活用を狙っていた場合、プロジェクトの停滞、中止が続くだろう。大企業であればあるほど安定状態が確立されるまで社員をイスラエルへ出張させることが難しくなる。Zoomだけでは協業は進まない。一方でイスラエルからのビジネス的な訪日は増えるだろう。こちらから行けない分、向こうから来ることでビジネスを進めるはずだ。ただし、国際世論にどう見られるか、という観点の経営判断からイスラエル企業とのプロジェクトを見直す可能性もある。国際的な投資を集めることがある種のビジネスモデルであるイスラエル経済は、外国からの投資が集まらなければ回らなくなるだろう。

私のような立ち位置の部外者にとっては、理想論では済まない現実の難しさを都度発信してゆくしかないのだろう。日本にも身近に専制国家の脅威が存在する。我々も「理想論では済まない現実」に直面する可能性はゼロではない。
10月31日


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