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髪を染めたあの日のこと

高校生の時からずっと茶色に染め続けてきたので、ワタシにとって髪の毛を染めることは別に特別なことではない。けれど、今までの毛染め人生の中で忘れられない出来事がふたつある。


ひとつめは、初めて髪の毛を染めた中学校二年生の時。

もともとそこまで真っ黒な髪の毛でも無かったし、ちょっとくらい染めてもバレないだろうと友達数人と一緒に軽い気持ちで放課後髪の毛を染めた。

「バレるかな~?」
「いけるやろ」
「そんなに明るい色ちゃうし」
「やでな」
そんなことを言いながら、お互いに薬剤を塗り合ったあの日。

場所は誰かの家でも美容院でもなく、なぜか『外』だったけど。

夕暮れ時。
人通りのあまりない、街灯の灯がだんだんと頼もしく感じられるような場所で、制服の女子中学生が円陣を組み、地べたに座りながら順番に毛染め液を塗っていく。

何であの場所を選んだのか。
誰があの場所を選んだのか。
今となってはちっとも思い出せない。

そして帰りはもちろん、皆、薬剤でベタベタのオールバックヘアーでチャリンコを漕いで家に帰る。雨も降っていないのにぺったりオールバックヘアーの女子中学生たち。

色々とシュールだ。

でもまぁたぶん、あの時代だから許されたのだろう。
古き良き平成初期の思い出。

と思っておこう。


祭りの前日でもなんでもない、ただただ繰り返される単調な、なんの面白味も無いいつもの平日。そんな中に現れた少し特別な時間は、何だかくすぐったいような気持ちをもたらしてくれた。あの空気感は今でもはっきりと思い出すことができる。

ちなみに、翌日の朝のHRで「1時間目が終わったら職員室にくるように」と呼び出されたのは言うまでも無い。

しかし当時、朝のHRでは毎日誰かしら「1時間目が終わったら職員室にくるように」と呼び出されていたので、自分が呼び出しをくらってもなんら衝撃があるわけでもなく「先生も毎日毎日飽きもせず、誰かれ構わず呼び出して暇よなぁ(違」なんてことを考えていたのは、ここだけの秘密だ。

その後職員室横のベランダで学校に常備されている黒彩をぷしゅーっと頭に振りかけられ、「明日までに黒く染めなおしてくるように」とお達しを受けた。なので翌日からしばらくの間、地毛よりも黒い髪の毛で学校へ通うことになったのもよき思い出。


ふたつ目は、人生で最初で最後の金髪にした時のこと。

あれは大学4回生の頃。

無事に就職先も決まり、卒論を残すのみとなっていたワタシは学生時代にしか出来ない事をしようと、ふと思い立った。


と言うとちょっとカッコイイ感じがするけれど、多分本当のところは、着なれないスーツを着(いつもTシャツかパーカーにジーンズなのに)、履きなれないパンプスを履き(いつもスニーカーなのに)、ピシッと背筋を伸ばし続け(基本ダラダラしているのに)、大人としての振る舞いをしなければならない(基本しょうもないことしかしないのに)という、就活で溜まりに溜まったストレスを吹っ飛ばしたかったんだと思う。

そして当時のワタシが学生時代にしか出来ない事として選んだのは、「金髪にする」ことだった。

ずっとしてみたかったけど、なんだか恥ずかしくて出来なかったこと。それに社会人になったら出来ないこと。

今考えると、もっと他にやっておけばよかったことはたくさんあるのだけど、当時のワタシは髪の毛を金色にすること以外は考えられなかった。

自分のことながら、昔から本当に残念なやつだ。

とまぁそれは置いといて。金髪決行日。
がっつり色を抜くので、失敗したら頭が気持ち悪いまだら模様になってしまう。それが嫌だったので、ワタシは友達に泊まりに来てもらい、脱色を手伝ってもらうことにした。
家できゃっきゃうふふと盛り上がりながら薬剤をぺたぺたと塗ってもらう。いつも自分で塗っている物よりもキツイやつだったので、ちょっとひりひりするような気がしなくもない。なんてことを思いながら、出来上がりの明るい頭を想像してみたら、ふと中学生で初めて髪の毛を染めたあの時のことを思い出した。

今回は校則を破るわけでもなんでもないし、誰に怒られることも注意されることも無い。それに屋外で染めているわけでもなく、悪いことなんてひとつもしていない。ただ金髪にしてみるだけ。
にもかかわらず、なんだかなんとなく悪いことをしているような気がして、やっぱりくすぐったいような気持ちになったのだ。

次の日、オトンは半笑いでワタシの頭を見、オカンは「似合わんで。それ」と吐き捨てるように言った。

外に出ると視界に入る髪の毛がキラキラと輝いて気持ちが良かった。ガラスに映る自分の姿には違和感しか感じないけれど、世界がワントーン明るくなったような、そんな新鮮な気分だった。

そして浮かれたワタシは勢い余って某オンリーコスイベントに参加したのだけれど、それはまた別のお話で。


現在、40を超え、ちらほらだった白い髪の毛の割合がかなり増えてきた。
鏡を見る度に「あぁ。染めたいなぁ」と思うのだけれど、今は頭が湿疹で覆われているので髪の毛を染めたくても染めることができない。

だからこの湿疹がおさまったら髪の毛を染めようと心に決めている。

毛染め人生におけるみっつめの思い出を作るために!


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