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劇場版 のび太とファクトフルネスの未来

いまの世界を想像しよう

これを読んでいるあなたは、世界70億人の中で最も恵まれた10億人のうちの一人だろう。では、他の60億の隣人がどんな生活をしているか思い描こう。
本書では数多くの3択クイズが出されるが、そのうち1問を紹介する。

質問 いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
A 20%
B 50%
C 80%

答えはC。この問題に正解したのは4人に1人で、日本人の正解率はわずか15%だ。残り85%の日本人は実際よりも状況を悪く捉えている。このように、世界の姿についてファクト、つまり事実の数字をもって正しい見方を示す本がこの「FACTFULNESS」だ。

世界を取り巻く状況はあなたが思うよりも良くなってきていると本書は繰り返し伝えている。そして、ヒトに備わった直感的な本能がその事実の理解を妨げているとして、10個の本能に待ったをかけて世界を正しく捉えるための方法を教える「技術書」でもある。

もし本書を読了したなら、良くなった世界とその先の未来の世界を思い描いてみよう。

本能に逆らう方法

世界はより良くなってきている。私はこの事実を知れただけでも本書を読んだ価値があったし、声高に叫びたいほど嬉しかった。

叫びたいが、それが憚られるのは、「いいや、世界には課題が山積みだ!楽観視するなんて不謹慎だ!」と主張する(想像上の)不謹慎厨を恐れてのことだ。本書では、この憚られる空気を、ヒトが生来持っている「ネガティブ本能」の作用だと説明する。本能は直感をもたらし理解を助けるが、複雑な事柄の理解の妨げともなる。

私の脳にいる不謹慎厨も、理性的な判断の産物ではなく、きっとネガティブに捉えたがる本能の囁きなのだろうが、たいていの場合、物事は想像より複雑だから事態の解決の役には立たない。そして能力の多寡に関わらず、本能に逆らえる人はそう多くない。これについては繰り返し説かれていることで、たとえば以下の文がある。

そもそも、「世界はどんどん悪くなっている」という人は、どういう考え方をしているのだろう。わたしが思うに、そういう人たちは実はあまり深く考えておらず、なんとなく感じているだけだ。

なんとなく感じている閉塞感、息苦しいネガティブ本能に逆らって事実を見据えれば、きっと想像よりも未来は明るいはずだ。

サピオのいる星~シンギュラリティの先

いま世界は確実に良くなってきている。しかし本書では、「なぜ」良くなってきたのかはあまり触れられていないように思う。
それは恐らく自明だからで、貧しい地域に電線を引く誰かがいるから電気が使える人が増えてきて、レスキュー体制を整えている誰かがいるから全世界の自然災害で亡くなる人の数は減少傾向にある。

世界が良くなっているのは数十億の人々が一生懸命働いた結果だと言える。「世界は誰かの仕事でできている」というジョージアのCMのコピーのように、今この瞬間も経済を回し世の中を豊かにし続けているのだから、当然だ。

ところで私には、昔からあるひとつの疑問がある。「人間は有史以前からずっと働き続けているのに、なぜまだ仕事がなくならないのだろう。
この疑問の出発点は、ドラえもんだったと思う。

劇場版ドラえもん第13作目の「のび太とブリキの迷宮」(1993)において、のび太たちは別の惑星の少年、サピオと出会う。サピオの住むチャモチャ星は地球より技術が進んでおり、あらゆる仕事がロボットに任された結果、シンギュラリティを迎えた。

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出典:大長編ドラえもん13 のび太とブリキの迷宮

ロボットに頼りきりで自分で歩くことも出来なくなったサピオたちチャモチャ星人は、やがて独裁ロボット「ナポギストラー」によって支配されてしまう。ターミネーター(1985)やマトリックス(1999)のような、AIの反乱による未来を予感させる、いわゆるディストピアの物語だ。

ドラえもんが「道具にばかり頼っているとダメ人間になるぞ!」とのび太に説教する、じゃあお前は何しに来たんだという皮肉な導入から始まる物語だが、ダメ人間気質の私は、逆にこのチャモチャ星をひどく羨ましく思ったのを覚えている。
仕事も家事も全ての社会問題も、ぜんぶロボットが解決してくれるのだ。

だが、もしもナポギストラーのいないチャモチャ星があったとして、それは物語になっただろうか。万事明るいユートピアでは恐らくエンタメとして失格だろう。ロボットと共生したニコニコ笑顔のターミネーターはきっと売れないので、SFの未来は大抵が暗い。

では、2045年に訪れると予想されるシンギュラリティを迎えた未来の地球もSFのようにディストピアなのだろうか。
先ほどの「ネガティブ本能」に当てはめて考えてみると、本能に根ざした暗い未来は、なるほどとても想像しやすい。参考になる映像文献にも事欠かない。

ここで本能に逆らい、良くなった未来を思い描いてみよう。過去から現在まで世界は徐々に良くなってきたし、今なお何十億人が良い未来を作っていっているのだから、きっとナポギストラーは現れないと信じてみよう。

本能に訴えかける物語に依らず正しい現状認識から想像すると、世界は前進しているのだから、未来はユートピアなのだと私は思う。

この本をどう使うか

人間はずっと働き続けているのに、なぜ仕事がなくならないのだろう。
本書を読んで得た答えは「まだ途中だから。けど、将来的にはなくなるよ」だ。逆に言えば、それまではまだまだ働き続けなければならないのだが。

ところで、チャモチャ星は私の思い描く理想の未来だが、もちろん人はそれぞれ別の未来を望んでいるだろう。例えば、もっと教育に優れた未来、もっと世界中の人たちが混ざり合う未来、もっと女性が活躍する未来などなど、各々のユートピアがあるはずだ。

あなたの思い描いたユートピアに近づくためには、今いる現実の世界と理想のビジョンとの間にどれだけの距離があるかを測って、その差を埋めるための方法を考えなくてはならない。つまりは直感的な思い込みではなく、現在の世界を正しく理解することが理想郷への第一歩だ

そのためにこそ、この本は役に立つはずだ。この技術書に書かれた10の本能とその対処法を心がけて、今から事実に基づく世界の見方をしよう。

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