炎の男の実録檄白手記!~俺の備忘録~Vol.15
悪い噂って言うのはすぐに広まるもんなんだ。
俺が紹介料をピンハネしてるなんてあり得ないことだけど「噂」はそれが真実である必要はない。
なんとなくの信憑性があればそれでいい。
あいつならやりかねないと思わせるだけでいいんだ。
相手を噂で追い込む。
風聞は風に乗って走る。
たちの悪いことに、いったん走り出した噂はとまらないんだ。
Kもそれをよくわかっていて、実に上手く風聞を撒き散らすわけよ。
スカウトマンもKくらいのベテランになると息のかかった店長やホステスなんかがあちこちにいる。
それに鼻薬を嗅がせたら「噂」くらいホイホイ散布してくれる。
けっこう言われたよ。
同業の若手から、アラケンさん見損ないました、とかね。やっぱりお金の計算しますもんね、とかさ。
俺は屈託がないからさ。どっからそんな話を聞いたの?とか言ってたけど、まあ教えるわけないよね。
それにそんなに深刻には思ってなかったしね。
正直な話、悪口を言われてるなんて思いもしなかったし、気にもしてなかったんだ。
だけどもその内に俺の耳にも俺の悪口が入ってくるようになった。
アラケンが事務所に内緒でピンハネしてるって。
これほっとくヤバくない?
そう思って情報収集、新宿の仲良しのギャバ嬢から詳しく聞いたよ。
それにしても笑っちゃったよ。この俺が紹介料、仲介料のピンハネだってさ。
考えられないよね。
スカウトが成功した時の紹介料や仲介料は俺の取り分を差っ引いて全額事務所に払ってる。もらいっぱぐれはあろうともピンハネなんてやったことないしやろうと思ったことすらない。
ほんとに俺がピンハネ野郎だったらスカウトマン失格、即刻クビだろう。
で、その噂がかなり広まっていて対処が必要なレベルになってた。
俺は決断したよ。
作戦は「静観」だ。
いつものように働いて、いつものように遊ぶ。
言い訳もなにもしない。
自分から動かない。
確かに焦ったよ。噂の芽をとことん摘み取りたいとも思った。
でも、そうすると相手の術中にはまってしまう。
だからあくまでも静観を貫いた。
この作戦で俺は自分の立場を守った。
ほんの2か月くらいで「噂」は跡形もなく消えていった。
俺が噂に勝てたのは、やっぱり「日頃の行い」がよかったからだと思う。
今までのスカウトとはやり方が違ったが、彼ら以上にスカウトマンの仁義というものを大切にした。
スカウトした女性を大事にする。紹介したお店には責任を持つ。紹介料、仲介料以外の金銭を請求しない。
それを通した。
それが役に立った。
まず声をあげてくれたのが、新宿のお店で働いてるホステスやギャバ嬢や風俗嬢だった。かつて俺がスカウトした女性だったのだ。
彼女たちはこう言ってくれた。アラケンさんに限ってそんなことするはずがないって。彼女たちの声が口コミとなって新宿中に広がった。
そして、お店のマネージャーやマスターも加勢してくれた。アラケンほどお金に綺麗な奴はいない、そう断言してくれた。
今回のことがあって、俺の中ではハッキリと目標が出来た。事務所ナンバーワンのスカウトマンKがあからさまに俺を潰しにきたんだ。
短期間でナンバーツーにのしあがって来た俺に危機感を持ったんだろう。
だったらキッチリと受け止めてやろうじゃないか。
本気で潰しにきたKに潰し返すことで敬意を払ってやろうじゃないか。
敵はKというよりも、今までのスカウトのやり方だ。
俺は俺のやり方でトップを目指す!
そう誓った!
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