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バンバラバンバンバンに導かれ ~追悼:作曲家・渡辺宙明~

 アニメ・特撮音楽の大巨匠である渡辺宙明氏が他界された。

 特撮関連だけを追いかけるにしても、まず1950年代後半の新東宝映画『スーパー・ジャイアンツ』『亡霊怪猫屋敷』『東海道四谷怪談』『地獄』から始まり、60年代にはTV作品の主題歌や劇伴も手掛けるように。そこから先の経歴はもはや語るまでもなし。特撮ではないが、2020年代にはスマホゲーのデレマスに楽曲提供をして界隈を驚かせたうえに、つい先日にはEテレで特集が組まれたりと最後まで精力的に活動されていた。まさに「生涯作曲家」と呼ぶに相応しい。

 ただ、自分は特撮好きを謳っているものの、子供の頃にいわゆる「宙明サウンド」と呼ばれる楽曲の洗礼を浴びてはこなかった。そもそも鉄道好きから怪獣好きになったはいいが、当時の自分は本当に「怪獣」が好きだったため、それらがより多く登場する「映画」や「巨大変身ヒーロー」の方に目を向け、かつ耳を傾けていた。つまり伊福部昭や冬木透のメロディを先に聴いており、宙明サウンドがより多く使用された「等身大ヒーロー」の方にはあまり馴染みがないまま育ったのである。等身大も観てはいたが、そこまで熱を注いでいたような記憶がない。

 それにもかかわらず「宙明サウンド」は今や自分の中にすっかり定着している。何故か? 実は思わぬところから飛んできていた。これである。

「♪ナンバラバンバンバン ナンバラバンバンバン」

 日曜に放送されていた『笑っていいとも・増刊号』。当時レギュラー出演していた南原清隆が、コーナーで司会を任された際の出囃子として使われていた「この曲」がそうなのだ。当時はこれが『秘密戦隊ゴレンジャー』の挿入歌およびエンディングテーマのコーラス部分だと知るよしもなかった。
 とにかく陽気で小気味良く、シンプルながらも抜群なノリの曲に合わせ、南原清隆が腰を振りながら何度も何度も登場する様子が、とにかく可笑しくてしょうがなかった。余程ウケたのか、当時は「ナンバラバンバンバン・ダンスコンテスト」まで始まるほどだった(※ただし数週で打ち切り)。

 その後は番組内でも出囃子として使われなくなり、やがて自分の記憶からも薄れていった……かに見えた。ところが中学生の頃、怪獣から特撮へと興味の幅を広げていくうちに一本のビデオと出会う。
 『東映特撮大図鑑』である。
 目当ては自分がその存在を知って以降「観たい観たい」と追いかけていた『宇宙からのメッセージ』だった。しかし、東映特撮の歴史を遡る場面で『ゴレンジャー』が紹介された途端、

「♪バンバラバンバンバン バンバラバンバンバン」

 え、アレってそうだったの?!
 自分にとっては衝撃の事実であり、青天の霹靂ともいえる出来事だった。その後に紹介された『宇宙からのメッセージ』にも大熱狂。このビデオはまさに自分の方向性を決める一本になった。
 『メッセージ』はともかく『ゴレンジャー』の曲だと分かれば話が早い、曲を早くフルで聴きたい! そう思った矢先、運良く地元の図書館で収録されているCDを発見した。

『昭和46~52年 特撮テレビ・ヒーロー主題歌集/日本コロムビア』

 ……『スペクトルマン』や『超人バロム1』など、まだ観たこともないヒーロー作品の主題歌ばかりだったが、一つ一つの曲はとても楽しく聴けた。それでもやはり『秘密戦隊ゴレンジャー/ささきいさお、こおろぎ'73』は自分の中でズバ抜けていた。そしてダビングしたテープ(※まだ90年代前半の話です)を何度も何度も聴いているうちに、他の曲も頭の中へ刷り込まれていったのである。

 高校生でヲタクに覚醒した頃には「宙明サウンド」も頭の中に定着していた。やがて名前だけ知っていた作品を映像で観る機会も増えた。こういう風だったのか、と答え合わせをするような気分だった。気が付けば、渡辺氏もまた先に挙げた作曲家の方々と同じく「巨匠」と呼ぶようになっていた。

 特撮ソング、及び宙明サウンドにハマるまで何とも遠回りな道を通ってきたような気がする。しかし今に至る道はきちんと繋がっていたのだ。とあるバラエティ番組のBGMを面白いと思い、そして元ネタを知る機会があり、やがて正解に辿り着いた。そこは自分にとって楽園だった。

 「バンバラバンバンバン」のコーラスは元々の歌詞に無く、渡辺宙明氏のアイデアで後から付け足されたという。そのヒラメキが出ていなかったら、自分はおそらくこんな文章を書いていないし、そもそも特撮ソングにハマってもなかったろう。全てはバンバラバンバンバンが導いてくれたのだ。

 特撮ソングの格好良さと楽しさ、そして面白さを教えてくれた巨匠に感謝するとともに、哀悼の意を表したい。

 本当にありがとうございました。どうか安らかに。

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