プログ


生花を長持ちさせるには、
水を張った桶の中で茎を切り
その口を火で焼いてやるのだという。
チチチとガスコンロをつけて
買ったばかりの花を炙っていた、
母にいつしか教えてもらった。
それをわたしは残酷だとも、必要だとも思った。
夏に焼けたアスファルトでさえ、5秒と触っていられないのに、
ましてや火など、もってのほかだ。
パチパチと緑がはじけて、たちまち黒に染まっていく。
下がったわたしの指の先がチロチロとしはじめ、
なんだか落ち着かなくなった。
水あげをしてやらないと、
花のしおれる速度が倍になる。
と、母はわたしにいった。
生き延びるための、大事なおこないだと。
花の足元に黒があしらわれる。
その様子が、美しくもまた苦しくもあるのだ。
それをひそかに、興味深く、
ゆらめく火の青とともにながめていた。
が、そもそも、花とは売られる時点で
命のたもとの根を切られていて、
その痛みや生を想像することじたい、
もはやただの滑稽ではないのかと。
おとなになったじぶんはかんがえる。

街を歩いていると、
こんなカンバンにであった。
「摘み放題やって〼」
みると、植物園らしきドームがそこにはあった。
はあ、とおもって柵の向こうを覗いてみる。
だれかが手招きをしていた。目の大きな、男だか女だかわからない、
マントを羽織ったやつだった。


チケットはいかがでしょう


問われてわたしは戸惑った。
入って当然、という響きがそこには隠れていた。


摘み放題とはなんですか

チケットをお買い上げでこの植物園のどのお花でも持っていくことができます。

はあ。

お花は好きですか?

そこそこ。

なら断然、オススメです。

はあ。

はあが多いですねお客さん。

はあ。


さあさ、いきましょう。入ったあとでご満足いただけたらチケットをお買い上げいただく、というのでもかまいませんので。


なかば強引に、わたしはその植物園へと足を踏み入れることとなった。
しかたない。
わたしにはいま、ことわるほどの用事もない。
それに、花はそれほど嫌いではない。
むしろ好きだ。
回るだけ回って、あとは帰ろう。
右手に渡された、刃のでっぷり太った花切りバサミをもって。


わたしは扉を開けた。

ポチッとしていただけたら泣いて喜びます。ヤッターッ!