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論文まとめ304回目 SCIENCE 高エントロピーセラミックコンデンサにおける超高エネルギー貯蔵!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Closed-loop recyclability of a biomass-derived epoxy-amine thermoset by methanolysis
バイオマス由来のエポキシ-アミン熱硬化性樹脂のメタノール分解による完全リサイクル
「この研究は、リグノセルロースから誘導される完全にリサイクル可能な高性能エポキシ樹脂の開発に成功しました。この材料は優れた熱機械特性を示し、触媒なしでメタノール分解を受けて原料モノマーを再生します。さらにガラス繊維や植物繊維との複合材料への応用とリサイクルも実証されました。」

Sexual dimorphism in skin immunity is mediated by an androgen-ILC2-dendritic cell axis
皮膚免疫の性的二型は、アンドロゲン-ILC2-樹状細胞軸によって媒介される
「男女の免疫反応の違いは生物学的に重要ですが、その基盤となるメカニズムはまだよくわかっていません。この研究では、マウスをモデルとして、皮膚における免疫細胞の構成を雌雄で比較し、免疫が疾患転帰の性差にどのように関与しているかを調べました。その結果、成体の雌マウスでは、雄よりも皮膚常在性T細胞のレベルが高いことがわかりました。この違いは、小腸やリンパ節ではみられず、皮膚に特異的でした。また、無菌マウスでも観察されたことから、微生物叢に依存しないことが示唆されました。一方、皮膚微生物叢を再導入すると、雌の性差が増強されました。性成熟前のマウスでは、皮膚の免疫系の構成に性差は見られませんでした。また、性成熟前の雄マウスを去勢すると、皮膚の免疫細胞数と微生物叢に対する適応免疫応答の強さが雌のレベルに正常化したことから、男性ホルモンが皮膚の免疫における性差の形成に重要な役割を果たしていることが示唆されました。T細胞に加えて、雌では雄よりも皮膚常在性の樹状細胞サブセットのレベルが高く、より活性化した遺伝子発現シグネチャーを示しました。機能評価により、雌マウスの皮膚由来の樹状細胞は、雄と比較して遊走能とT細胞プライミング能が亢進していることが確認されました。一方、男性ホルモンのアンドロゲン受容体は皮膚樹状細胞では発現していないことから、アンドロゲンは間接的に樹状細胞を制御していると考えられました。そこで、皮膚に豊富に存在する2型自然リンパ球(ILC2)に着目したところ、雌マウスでは皮膚ILC2の数が多く、より活性化した遺伝子発現シグネチャーを示し、サイトカイン産生量も多いことがわかりました。これらの違いは、雄マウスの去勢やアンドロゲン受容体のノックアウトによって消失しました。さらに、ILC2欠損マウスでは皮膚樹状細胞ネットワークが乱れており、皮膚ILC2を移入すると樹状細胞レベルが回復しました。以上より、皮膚ILC2は、サイトカイン産生を介して皮膚樹状細胞ネットワークの恒常性維持に重要な役割を果たしており、男性ホルモンがILC2を負に制御することで、雄マウスの樹状細胞ネットワークに違いをもたらし、雌マウスと比較して適応免疫応答を低下させていることが明らかになりました。」

Molecular mechanism of actin filament elongation by formins
フォルミンによるアクチンフィラメント伸長の分子メカニズム
「フォルミンは、細胞の運動や形態形成に重要なアクチンフィラメントの伸長を制御するタンパク質です。この論文では、3種類のフォルミンとアクチンフィラメント末端の複合体構造をクライオ電子顕微鏡で解析し、フォルミンがどのようにアクチンフィラメントの伸長を促進するのかを明らかにしました。フォルミンは二量体としてリング状にアクチンフィラメント末端を取り囲み、アクチンサブユニットの結合に伴って、片側のフォルミンが外れて新しい結合面を形成することで、フィラメントの伸長とともに移動していくことがわかりました。また、フォルミンの種類によって伸長速度が異なるのは、アクチンとの結合面の位置や安定性の違いによることも明らかになりました。さらに、細胞内のアクチンのほとんどと結合するプロフィリンとフォルミンの複合体の構造解析から、アクチン重合に伴ってプロフィリンがフィラメント末端から素早く解離する仕組みも解明されました。この研究は、細胞の様々な機能に関わるアクチンフィラメントの制御メカニズムの理解を大きく前進させるものです。」

Kink bands promote exceptional fracture resistance in a NbTaTiHf refractory medium-entropy alloy
キンクバンドがNbTaTiHf耐熱中エントロピー合金の優れた破壊靭性を促進する
「通常、耐熱性や耐摩耗性に優れる合金は、もろくて割れやすいという欠点がありました。しかし研究チームは、ニオブ、モリブデン、タンタル、ハフニウムからなる新しい合金を開発。この合金は非常に低温から高温まで優れた破壊靭性を示します。その秘密は「キンクバンド」と呼ばれる結晶の回転によるひずみの吸収にあることがわかりました。この発見により、幅広い温度範囲で使える高性能な材料の実現に期待が高まります。」

Ultrahigh energy storage in high-entropy ceramic capacitors with polymorphic relaxor phase
ポリモルフィック緩和相を有する高エントロピーセラミックコンデンサにおける超高エネルギー貯蔵
「高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相を組み合わせたバリウムチタネートベースの無鉛多層セラミックコンデンサ(MLCC)により、ヒステリシス損失を最小限に抑えつつ高い絶縁破壊強度を実現し、20.8 J/cm³という高いエネルギー密度と97.5%という非常に高い効率を達成した画期的な研究です。この手法は、エネルギー貯蔵や関連機能のための高性能誘電体の設計に広く適用可能と期待されます。」

Improved charge extraction in inverted perovskite solar cells with dual-site-binding ligands
逆型ペロブスカイト太陽電池における二重結合サイト配位子による電荷抽出の改善
「この研究は、ペロブスカイト層の欠陥サイトに平面状に結合する特殊な配位子を開発し、逆型ペロブスカイト太陽電池の電荷抽出効率を大幅に向上させました。その結果、1平方センチメートルの照射面積で24.7%という高い変換効率を達成し、65℃での連続動作1200時間後も初期効率の95%を維持しました。」

Two inhibitory neuronal classes govern acquisition and recall of spinal sensorimotor adaptation
脊髄感覚運動適応の獲得と想起を制御する2つの抑制性ニューロンクラス
「運動学習には、練習と反復によって得られた運動スキルの獲得と保持が必要です。しかし、運動学習の異なるステップに関与する脊髄の回路と細胞集団については、まだ完全には解明されていません。この研究では、様々なトランスジェニックマウスモデル、オプトジェネティクス、電気生理学を用いて、運動学習の獲得に必要な脊髄後角の介在ニューロン集団を特定しました。一方、学習した運動スキルを保持し、想起するためには、レンショー細胞と呼ばれる別の介在ニューロン集団が重要であることがわかりました。これらの結果は、運動学習と記憶における脊髄回路の貢献を強調するものです。これらの回路を標的とすることは、運動リハビリテーション中に治療的価値を持つ可能性があります。」




要約

バイオマス由来のエポキシ-アミン熱硬化性樹脂のメタノール分解による完全リサイクル

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj9989

エポキシ樹脂熱硬化性材料(ERT)は強度や耐熱性に優れる重要な高分子材料ですが、高度に架橋した構造のために再利用が困難で、大量の廃棄物を生んでいます。再生可能資源を原料とし、本質的にリサイクル可能なERTの開発が求められています。

事前情報
エポキシ樹脂は架橋構造により高い強度と耐熱性を示すが、リサイクルが難しい。再生可能資源由来の「切断可能な」結合を導入し、分子設計することでリサイクル性と高性能の両立を目指した。リグニンから得られるジアミンMBCAをエポキシ樹脂の硬化剤として用い、ジグリシジルエステル型のエポキシ樹脂との組み合わせを検討した。

行ったこと
フラン環を含むジグリシジルエステルDGFとMBCAを1:2の比で反応させ、完全にバイオマス由来の材料DGF/MBCAを合成した。DGF/MBCAのリサイクル性を、他の類似構造体と共に温和な条件下でのメタノール分解により評価した。DGF/MBCAのメタノール分解で得られたモノマーから、原料のMBCAとグリシドールを再生する完全リサイクル法を確立した。

検証方法
DGF/MBCAとその類似体のメタノール分解挙動を調べた。DGF/MBCAから溶解したモノマーを単離精製し、収率と純度を評価した。ガラス繊維や植物繊維を用いた複合材料を作製し、樹脂のメタノール分解除去による繊維の回収を試みた。

分かったこと
DGF/MBCAは170°Cのガラス転移点と1.2 GPaの貯蔵弾性率を示し、従来のバイオベースエポキシ樹脂を上回る性能を有する。DGF/MBCAは無触媒・70°Cのメタノール中で完全に溶解し、主要モノマーを90%の収率で再生できる。この分解特性は、水素結合を介したトランスエステル化によると推定される。複合材料からは、樹脂のみが選択的に除去され、ガラス繊維や植物繊維が回収できた。

この研究の面白く独創的なところ
バイオマス由来の原料のみから合成した熱硬化性樹脂が、石油由来の市販品に匹敵する力学特性と耐熱性を発現した点が画期的です。特に、特別な触媒や過酷な条件を必要とせず、温和な条件下で選択的に分解・モノマー化できる「化学スイッチ」の導入は独創的なアイデアだと思います。実験的知見と理論計算から、エステル交換による分解メカニズムを考察している点も興味深いです。

この研究のアプリケーション
本研究で開発されたリサイクル可能なエポキシ樹脂は、包装材料、輸送機器、建築資材など、熱硬化性樹脂の用途の多くに適用できると期待されます。リサイクル時にガラス繊維や植物繊維が回収できるため、これらを充填した複合材料のリサイクルにも道を拓くでしょう。バイオマスを原料とする完全リサイクル型の材料設計は、プラスチック問題の解決とカーボンニュートラルな社会の実現に貢献すると考えられます。

著者と所属
Xianyuan Wu, Peter Hartmann, Dimitri Berne, Mario De bruyn, Florian Cuminet, Zhiwen Wang, Johannes Matthias Zechner, Adrian Daniel Boese, Vincent Placet, Katalin Barta (ドイツ、ハンガリー、フランスの研究機関に所属)

サマリーの詳細説明:
この研究は、植物バイオマスから合成した分子をモノマーとして用い、硬化反応させることで三次元の高分子網目(熱硬化性樹脂)を作る技術を開発しました。このエポキシ樹脂は、リグニンから誘導した環状ジアミン(MBCA)をポリマーの「骨格」に用い、フラン環を有するジエポキシド化合物(DGF)と反応させることで得られます。
生成物のDGF/MBCAエポキシ樹脂は、従来の石油化学由来のエポキシ樹脂と同等以上の高いガラス転移温度(170°C)と弾性率(1.2 GPa)を示しました。これは、MBCAとDGFが形成する高密度の架橋構造に由来すると考えられます。一方で、DGFに導入されたエステル結合は、温和な条件下(70°C、触媒なし)のメタノールによる処理で選択的に切断されることを見出しました。この反応で、DGFとMBCAに由来するモノマーがそれぞれ高収率(>90%)で回収されます。
回収したモノマー類は、再びDGFとMBCAの原料に変換でき、エポキシ樹脂の合成に利用できます。すなわち、使用済みのDGF/MBCA樹脂を出発原料に戻して完全にリサイクルする「クローズドループ」プロセスを達成しました。この分解・再生メカニズムは、水素結合を介したエステル交換反応に基づくと推定されています。また、ガラス繊維や植物繊維を配合した複合材料に対しても、樹脂成分のみを選択的に分解除去して、繊維を回収できることを実証しました。
本研究は、再生可能資源のみを原料とし、溶媒で簡単に分解・リサイクルできる新しいタイプの高性能エポキシ樹脂の設計指針を提示するものです。化石資源の使用量削減と廃棄物の低減を同時に実現する環境適合材料として、幅広い用途での実用化が期待されます。


免疫の性差は、男性ホルモンによって制御されるILC2-樹状細胞の軸によって媒介されている。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk6200

この研究は、マウスの皮膚における免疫細胞の構成を雌雄で比較し、男性ホルモンが皮膚の2型自然リンパ球(ILC2)を介して樹状細胞ネットワークを制御することで、免疫応答の性差を生み出していることを明らかにしました。

事前情報

性別により免疫応答や疾患感受性に顕著な差異が見られるが、組織免疫における性差の要因はよくわかっていない。

行ったこと
マウスをモデルとして、雌雄の皮膚、小腸、リンパ節における自然免疫細胞と適応免疫細胞のサブセットを比較し、免疫が疾患転帰の性差にどのように関与しているかを調べた。

検証方法
・皮膚、小腸、リンパ節の免疫細胞の構成を雌雄で比較
・性成熟前後のマウスや去勢マウスを用いて、性ホルモンの影響を評価 ・皮膚の樹状細胞と ILC2 の機能解析
・ILC2 欠損マウスと ILC2 移入実験による樹状細胞ネットワークの制御機構の解明

分かったこと
・成体の雌マウスでは、雄よりも皮膚常在性T細胞と樹状細胞サブセットのレベルが高い
・皮膚の免疫細胞の性差は、組織特異的で、微生物叢に依存しない
・男性ホルモンは、ILC2を介して間接的に樹状細胞を制御し、雄マウスの適応免疫応答を低下させる
・皮膚ILC2は、サイトカイン産生を介して皮膚樹状細胞ネットワークの恒常性維持に重要な役割を果たす

この研究の面白く独創的なところ
皮膚の免疫細胞の性差が、男性ホルモンによるILC2の制御を介して生じるという新しいメカニズムを明らかにした点が独創的です。また、組織免疫のセットポイントが性ホルモンと微生物叢の二重の作用によって定義されるという新しい概念を提唱しています。

この研究のアプリケーション
この研究は、性別による免疫応答の違いを理解する上で重要な知見を提供するものです。将来的には、性別を考慮した疾患の予防や治療法の開発につながる可能性があります。

著者
Liang Chi, Can Liu, Inta Gribonika, Julia Gschwend, Dan Corral, Seong-Ji Han, Ai Ing Lim, Claudia A. Rivera, Verena M. Link, ..., and Yasmine Belkaid

詳しい解説
この研究では、マウスをモデルとして、皮膚における免疫細胞の構成を雌雄で比較し、免疫が疾患転帰の性差にどのように関与しているかを調べました。その結果、成体の雌マウスでは、雄よりも皮膚常在性T細胞のレベルが高いことがわかりました。この違いは、小腸やリンパ節ではみられず、皮膚に特異的でした。また、無菌マウスでも観察されたことから、微生物叢に依存しないことが示唆されました。一方、皮膚微生物叢を再導入すると、雌の性差が増強されました。
性成熟前のマウスでは、皮膚の免疫系の構成に性差は見られませんでした。また、性成熟前の雄マウスを去勢すると、皮膚の免疫細胞数と微生物叢に対する適応免疫応答の強さが雌のレベルに正常化したことから、男性ホルモンが皮膚の免疫における性差の形成に重要な役割を果たしていることが示唆されました。
T細胞に加えて、雌では雄よりも皮膚常在性の樹状細胞サブセットのレベルが高く、より活性化した遺伝子発現シグネチャーを示しました。機能評価により、雌マウスの皮膚由来の樹状細胞は、雄と比較して遊走能とT細胞プライミング能が亢進していることが確認されました。一方、男性ホルモンのアンドロゲン受容体は皮膚樹状細胞では発現していないことから、アンドロゲンは間接的に樹状細胞を制御していると考えられました。
そこで、皮膚に豊富に存在する2型自然リンパ球(ILC2)に着目したところ、雌マウスでは皮膚ILC2の数が多く、より活性化した遺伝子発現シグネチャーを示し、サイトカイン産生量も多いことがわかりました。これらの違いは、雄マウスの去勢やアンドロゲン受容体のノックアウトによって消失しました。さらに、ILC2欠損マウスでは皮膚樹状細胞ネットワークが乱れており、皮膚ILC2を移入すると樹状細胞レベルが回復しました。
以上より、皮膚ILC2は、サイトカイン産生を介して皮膚樹状細胞ネットワークの恒常性維持に重要な役割を果たしており、男性ホルモンがILC2を負に制御することで、雄マウスの樹状細胞ネットワークに違いをもたらし、雌マウスと比較して適応免疫応答を低下させていることが明らかになりました。
この研究は、性別による免疫応答の違いを理解する上で重要な知見を提供するものです。将来的には、性別を考慮した疾患の予防や治療法の開発につながる可能性があります。


フォルミンによるアクチンフィラメント伸長の分子メカニズムが明らかに

https://doi.org/10.1126/science.adn9560

アクチンは細胞骨格を形成する主要なタンパク質で、そのフィラメント状の集合体(アクチンフィラメント)の伸長と短縮によって、細胞の運動や形態形成が駆動される。フォルミンはアクチンフィラメントの伸長末端に結合し、アクチンサブユニットをフィラメントに付加することでその伸長を促進する制御タンパク質である。しかし、フォルミンがどのようにアクチンフィラメント末端と相互作用し、その伸長を制御しているのかは不明であった。

事前情報
・フォルミンはアクチンフィラメントの伸長末端に結合し、その伸長を促進する。
・ヒトのゲノムには15種類のフォルミンがコードされており、それぞれがアクチンフィラメントの伸長速度を異なる程度に制御している。
・フォルミンの変異は様々な神経疾患、免疫疾患、心血管疾患の原因となる。

行ったこと
・3種類のフォルミン(哺乳類のmDia1、酵母のBni1p、ショウジョウバエのDia)とアクチンフィラメント末端の複合体構造をクライオ電子顕微鏡で解析した。
・フォルミンとアクチンの相互作用面を変異させ、フィラメントの伸長速度への影響を調べた。
・プロフィリンを含むアクチン-フォルミン複合体の構造を解析した。

検証方法
・クライオ電子顕微鏡による構造解析
・全反射照明蛍光顕微鏡を用いた1分子イメージングによるアクチンフィラメント伸長速度の測定
・変異導入実験

分かったこと
・フォルミンは二量体としてリング状にアクチンフィラメント末端を取り囲み、片側が安定に結合している一方、もう片側は緩く結合している。
・アクチンサブユニットがフィラメントに取り込まれると、緩く結合していたフォルミンが外れ、取り込まれたサブユニットとの新しい結合面を形成することで前方に移動する。
・フォルミンの種類による伸長速度の違いは、アクチンとの結合面の位置や安定性の違いによって説明できる。
・プロフィリンはアクチンの構造変化に伴ってフィラメント末端から素早く解離する。

この研究の面白く独創的なところ
・3種類のフォルミンを用いて共通の作用機構を明らかにした点。
・フォルミンとアクチンの複合体構造から、アクチンフィラメントの伸長に伴うフォルミンの動きを「undock-and-lock(外れて留まる)」機構として説明した点。
・構造情報に基づいてフォルミンの機能を制御できる可能性を示した点。

この研究のアプリケーション
・フォルミンの活性を制御することで、細胞の運動や形態形成を操作する技術への応用。
・フォルミンの変異による疾患の発症メカニズムの解明と治療法の開発。

著者と所属
Wout Oosterheert, Micaela Boiero Sanders, Johanna Funk, Daniel Prumbaum, Stefan Raunser, Peter Bieling (Max Planck Institute of Molecular Physiology, Dortmund, Germany)

フォルミンによるアクチンフィラメント伸長の分子メカニズムを詳しく解説 アクチンフィラメントは、細胞の運動や形態形成に重要な役割を果たしています。その伸長は、アクチンフィラメントの末端に結合するフォルミンというタンパク質によって制御されていますが、その詳細なメカニズムは明らかになっていませんでした。
今回、Oosterheertらは、3種類のフォルミン(哺乳類のmDia1、酵母のBni1p、ショウジョウバエのDia)とアクチンフィラメント末端の複合体構造をクライオ電子顕微鏡で解析しました。その結果、フォルミンは二量体としてリング状にアクチンフィラメント末端を取り囲んでおり、片側が安定に結合している一方、もう片側は緩く結合していることがわかりました。
アクチンサブユニットがフィラメントに取り込まれると、緩く結合していたフォルミンが外れ、取り込まれたサブユニットとの新しい結合面を形成することで前方に移動します。この「undock-and-lock(外れて留まる)」機構により、フォルミンはアクチンフィラメントの伸長とともに前進し、効率的にアクチンサブユニットを付加することができるのです。
また、フォルミンの種類によってアクチンフィラメントの伸長速度が異なるのは、アクチンとの結合面の位置や安定性の違いによることも明らかになりました。さらに、プロフィリンを含むアクチン-フォルミン複合体の構造解析から、アクチンの構造変化に伴ってプロフィリンがフィラメント末端から素早く解離する仕組みも解明されました。
この研究は、アクチンフィラメントの制御メカニズムの理解を大きく前進させるものであり、細胞の運動や形態形成を操作する技術への応用や、フォルミンの変異による疾患の治療法開発につながることが期待されます。


超高温でも高い破壊靭性を示す画期的な新合金の開発

https://science.sciencemag.org/content/384/6692/178

NbTaTiHf合金が極低温から高温まで優れた破壊靭性を示すことを発見。その要因はキンクバンドによる結晶回転がひずみを吸収するためだと解明した。
事前情報 一般に、耐熱性や耐摩耗性に優れる合金は、延性や破壊靭性が低いという問題がある。

行ったこと
NbTaTiHf合金の強度と破壊靭性を77Kから1473Kの温度範囲で評価した。

検証方法
NbTaTiHf合金のミクロ組織とひずみ挙動を電子顕微鏡等で詳細に観察・分析した。

分かったこと
NbTaTiHf合金では、らせん転位とエッジ転位の動的な競合が塑性変形を支配している。キンクバンドの形成により、ひずみ硬化が抑制され、局所的なひずみが緩和されてき裂先端から損傷が分散される。

この研究の面白く独創的なところ
従来の常識を覆し、耐熱性と靭性を両立する新材料を見出した点。また、キンクバンド形成という新たな強靭化メカニズムを明らかにした点。

この研究のアプリケーション
極低温から高温まで過酷環境下で使用可能な構造材料への応用が期待される。例えば航空宇宙分野などでの活用が考えられる。

著者と所属
David H. Cook, Punit Kumar, Madelyn I. Payne, Calvin H. Belcher, Pedro Borges, Wenqing Wang, Flynn Walsh, Zehao Li, Arun Devaraj, [...], and Robert O. Ritchie ローレンス・バークレー国立研究所、カリフォルニア大学バークレー校など

詳しい解説
この研究では、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)からなる耐熱性中エントロピー合金「NbTaTiHf合金」の力学特性を調べました。通常、このような耐熱合金は硬くて脆いのですが、NbTaTiHf合金は極低温の77K(約-196℃)から高温の1473K(約1200℃)まで非常に高い破壊靭性を示したのです。
研究チームは、この合金の微細構造とひずみ挙動を電子顕微鏡などで詳しく観察・分析しました。その結果、NbTaTiHf合金ではらせん転位とエッジ転位の動的な競合が塑性変形(材料が力を加えられて元の形に戻らなくなる性質)を支配していることがわかりました。
また、「キンクバンド」と呼ばれる現象によって、結晶が回転してひずみを吸収していることも明らかになりました。キンクバンドが形成されると、ひずみ硬化が抑制され、局所的なひずみが緩和されます。これにより、き裂先端から損傷が分散されるのです。
つまり、NbTaTiHf合金の高い破壊靭性は、キンクバンドによる結晶回転がひずみを効果的に吸収するためだと説明できます。この発見は、耐熱性と靭性を兼ね備えた新材料の設計指針になると期待されます。航空宇宙分野など、極限環境下で使用可能な革新的な構造材料の実現につながるかもしれません。



高エントロピーセラミックコンデンサによる超高エネルギー密度の実現

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl2931

この研究では、バリウムチタネートベースの無鉛多層セラミックコンデンサ(MLCC)において、高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相を組み合わせることで、高いエネルギー密度と効率を実現しました。高エントロピー設計により原子の無秩序性が増加し、格子歪みと粒子の微細化により絶縁破壊強度が向上しました。また、ポリモルフィック緩和相により、ドメインスイッチングの障壁が低下し、ヒステリシス損失が最小限に抑えられました。その結果、20.8 J/cm³という高いエネルギー密度と97.5%という非常に高い効率を達成しました。

事前情報
高エネルギー密度と高効率を兼ね備えた超高出力密度の多層セラミックコンデンサ(MLCC)は、電気・電子システムにおいて重要なコンポーネントです。しかし、実用化のためには高いエネルギー密度と高効率の両立が大きな課題となっています。

行ったこと
研究チームは、バリウムチタネートベースの無鉛MLCCにおいて、高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相を組み合わせる戦略を提案しました。高エントロピー設計により原子の無秩序性を増加させ、格子歪みと粒子の微細化により絶縁破壊強度を向上させました。また、ポリモルフィック緩和相により、ドメインスイッチングの障壁を低下させ、ヒステリシス損失を最小限に抑えました。

検証方法
研究チームは、提案した高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相を組み合わせたバリウムチタネートベースの無鉛MLCCを作製し、そのエネルギー密度と効率を評価しました。

分かったこと
高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相の相乗効果により、MLCCにおいて20.8 J/cm³という高いエネルギー密度と97.5%という非常に高い効率を達成することができました。この手法は、エネルギー貯蔵や関連機能のための高性能誘電体の設計に広く適用可能であることが示唆されました。

この研究の面白く独創的なところ
この研究の面白く独創的な点は、高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相という2つの戦略を組み合わせることで、高いエネルギー密度と高効率を同時に実現したことです。これまでは、高いエネルギー密度と高効率の両立が困難とされていましたが、この研究では新しいアプローチによってその課題を克服しました。

この研究のアプリケーション
この研究で開発された高エントロピーセラミックコンデンサは、高出力密度が求められる電気・電子システムにおいて幅広い応用が期待されます。例えば、電気自動車や再生可能エネルギーシステムなどにおけるエネルギー貯蔵デバイスとして活用できる可能性があります。また、この手法は他の誘電体材料の設計にも応用できると考えられ、エネルギー貯蔵技術全般の発展に寄与すると期待されます。

著者と所属
Min Zhang, Shun Lan, Bing B. Yang, Hao Pan, Yi Q. Liu, Qing H. Zhang, Jun L. Qi, Di Chen, Hang Su, Yuan-Hua Lin (中国科学院上海セラミックス研究所、上海大学、華東理工大学、東南大学、中国科学技術大学)

詳しい解説
この研究では、バリウムチタネートベースの無鉛多層セラミックコンデンサ(MLCC)において、高エントロピー設計とポリモルフィック緩和相を組み合わせることで、高いエネルギー密度と効率を実現しました。
高エントロピー設計とは、多くの元素を添加することで原子の無秩序性を増加させる手法です。この研究では、高エントロピー設計により、MLCCの格子歪みが増加し、粒子が微細化されました。その結果、絶縁破壊強度が向上し、高いエネルギー密度を達成することができました。
一方、ポリモルフィック緩和相とは、強誘電相転移の近傍の組成を選ぶことで実現される状態です。この状態では、ドメインスイッチングの障壁が低下するため、ヒステリシス損失を最小限に抑えることができます。つまり、高効率化が可能になります。
研究チームは、この2つの戦略を組み合わせることで、MLCCにおいて20.8 J/cm³という高いエネルギー密度と97.5%という非常に高い効率を達成しました。この値は、従来のMLCCと比較して大幅に向上しています。
さらに、この手法は他の誘電体材料にも応用可能であると考えられます。つまり、この研究は、エネルギー貯蔵や関連機能のための高性能誘電体の設計に広く貢献する可能性を秘めているのです。
今後、この高エントロピーセラミックコンデンサは、電気自動車や再生可能エネルギーシステムなどにおけるエネルギー貯蔵デバイスとして活用されることが期待されます。また、この研究を発展させることで、さらなる高性能誘電体材料の開発につながると予想されます。



二重結合サイトを持つ配位子で逆型ペロブスカイト太陽電池の電荷抽出を改善

https://doi.org/10.1126/science.adm9474

逆型(pin)ペロブスカイト太陽電池は順型(nip)と比べて耐久性に優れるが、変換効率(PCE)が低い。この損失はペロブスカイト層と電荷輸送層の界面で主に生じる。表面処理に用いる配位子は通常1つの欠陥サイトにのみ結合するため、表面に垂直に密集して電気抵抗となり、逆型素子の曲線因子(FF)を制限している。

事前情報
逆型ペロブスカイト太陽電池は耐久性に優れるが変換効率が低い。原因は主にペロブスカイト層と電荷輸送層の界面での損失。表面処理に用いる配位子は通常1つの欠陥サイトにのみ結合し、表面に垂直に密集するため電気抵抗となり曲線因子を低下させる。

行ったこと
ペロブスカイト表面のPb2+欠陥サイトに平面状に結合する二重結合配位子を同定した。4-クロロベンゼンスルホン酸塩が、最適な結合形態とフラーレン電子輸送層とのエネルギー準位のマッチングを示した。この配位子を用いて逆型ペロブスカイト太陽電池を作製した。

検証方法
作製した太陽電池の変換効率を、公的認証機関による擬似定常状態での測定により評価した。また、65℃・1sun・最大出力点での連続動作試験を1200時間行い、効率の経時変化を調べた。

分かったこと
0.05平方cmと1.04平方cmの照射面積の素子で、それぞれ26.15%と24.74%の公的認証PCEを達成した。65℃での連続動作1200時間後も、初期効率の95%を維持した。二重結合配位子の平面状吸着により、電荷抽出の妨げとなる表面垂直方向の電気抵抗が低減されたと考えられる。

この研究の面白く独創的なところ
従来の表面処理とは逆の発想で、ペロブスカイト表面に平行に配位子を並べるアイデアが斬新です。配位子のデザインを工夫して、2つの欠陥サイトを同時に覆う二重結合構造を実現した点が独創的だと思います。さらに、電子輸送層とのエネルギー準位の整合性も考慮して最適な分子を選定するなど、界面の精密設計が印象的です。

この研究のアプリケーション
本研究で開発した二重結合配位子を用いることで、逆型ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて大きく前進できると期待されます。高い変換効率と優れた耐久性を両立できる本技術は、建材一体型太陽電池など、ペロブスカイト太陽電池の幅広い用途への展開を加速するでしょう。また、平面状配位子による表面修飾は、ペロブスカイトを用いた発光デバイスや検出器など、他のオプトエレクトロニクスデバイスへの応用も見込めると思われます。

著者と所属
Hao Chen, Cheng Liu, Jian Xu, Aidan Maxwell, Wei Zhou, Yi Yang, Qilin Zhou, Abdulaziz S. R. Bati, Haoyue Wan, Edward H. Sargent (カナダ・トロント大学、中国・大連理工大学、オーストラリア・シドニー大学に所属)

サマリーの詳細説明:
この研究は、逆型ペロブスカイト太陽電池の変換効率を低下させる原因の1つである、ペロブスカイト層表面の欠陥による電荷の散逸を抑制する新しい手法を開発しました。従来の表面処理では、配位子分子が欠陥サイトに垂直に結合するため、配位子層が電気抵抗となって電荷の抽出を妨げていました。
そこで研究チームは、ペロブスカイト表面に平行に吸着し、隣り合う2つの欠陥サイトを同時に覆う「二重結合配位子」を設計しました。スクリーニングの結果、4-クロロベンゼンスルホン酸塩が最適な配位子であることがわかりました。この分子は、鉛イオン欠陥に平面状に結合するだけでなく、電子輸送材料であるフラーレンとのエネルギー準位も整合するため、効率的な電荷移動が可能になります。
この配位子を用いて作製した逆型ペロブスカイト太陽電池は、1平方センチメートルの受光面積で24.7%という高い変換効率を示しました。さらに、65℃での連続動作を1200時間行った後も、初期効率の95%を維持する優れた耐久性を実証しました。二重結合配位子による欠陥の平面的な被覆が、電荷の再結合を抑制し、安定した電荷抽出を可能にしたと考えられます。
本研究は、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた重要な進展です。高効率と高耐久性を兼ね備えたこの技術は、建材一体型太陽電池などの幅広い用途への展開が期待されます。また、平面状配位子による表面修飾という新しいアプローチは、ペロブスカイトを用いた他のオプトエレクトロニクスデバイスの高性能化にも応用できるでしょう。





脊髄の2種類の抑制性ニューロンが、感覚運動適応の獲得と想起を制御する。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf6801

この研究は、脊髄内の2つの異なる抑制性ニューロン集団が、感覚運動適応の獲得と保持に関与していることを明らかにしました。背側の抑制性ニューロンは適応の獲得に、腹側のレンショー細胞は適応行動の表現に重要であることがわかりました。

事前情報
脊髄回路は運動適応の中心的役割を担っているが、経験に基づいて行動を獲得・保持するための脊髄内のメカニズムは不明確である。

行ったこと
単純な条件付けパラダイムを用いて、保護的な肢引き込み行動を適応させるために背側抑制性ニューロンが不可欠であり、肢位置に関連する条件付け手がかりの顕著性を高めるために特定の体性感覚情報の伝達を調節していることを発見した。一方、以前に獲得した運動適応を維持するためには、腹側の抑制性レンショー細胞が必要であった。

検証方法
様々なトランスジェニックマウスモデル、オプトジェネティクス、電気生理学を用いて、脊髄後角の介在ニューロン集団と腹側のレンショー細胞の役割を調べた。

分かったこと
背側抑制性ニューロンは、肢位置に関連する条件付け手がかりの顕著性を高めるために特定の体性感覚情報の伝達を調節することにより、保護的な肢引き込み行動の適応に不可欠である。一方、レンショー細胞は適応そのものには影響を与えないが、適応行動の表現を柔軟に変化させる。これらの知見は、脳とは独立して持続的な感覚運動適応を可能にする、2つの異なる脊髄抑制性ニューロン集団を含む回路基盤を同定した。

この研究の面白く独創的なところ
感覚運動適応の獲得と保持に関与する2つの異なる脊髄抑制性ニューロン集団を特定し、それらの役割を明らかにした点が独創的です。また、これらの脊髄回路が脳とは独立して感覚運動適応を可能にしていることを示した点も興味深いです。

この研究のアプリケーション
この研究は、運動学習と記憶における脊髄回路の重要性を明らかにしました。これらの回路を標的とすることで、運動リハビリテーション中の治療効果を高められる可能性があります。

著者
Simon Lavaud, Charlotte Bichara, Mattia D'Andola, Shu-Hao Yeh, and Aya Takeoka

詳しい解説
この研究では、単純な条件付けパラダイムを用いて、脊髄内の2つの異なる抑制性ニューロン集団が感覚運動適応の獲得と保持に関与していることを明らかにしました。
まず、背側の抑制性ニューロンが、保護的な肢引き込み行動を適応させるために不可欠であることがわかりました。これらのニューロンは、肢位置に関連する条件付け手がかりの顕著性を高めるために、特定の体性感覚情報の伝達を調節しています。つまり、背側抑制性ニューロンは、適応に必要な感覚情報の選択と強調に関与しているのです。
一方、以前に獲得した運動適応を維持するためには、腹側の抑制性レンショー細胞が必要でした。興味深いことに、レンショー細胞を操作しても適応そのものには影響しませんでしたが、適応行動の表現を柔軟に変化させることがわかりました。
これらの知見は、感覚運動適応の異なる段階に関与する2つの脊髄抑制性ニューロン集団を含む回路基盤を同定しました。さらに、これらの脊髄回路が脳とは独立して持続的な感覚運動適応を可能にしていることを示唆しています。
この研究は、運動学習と記憶における脊髄回路の重要性を浮き彫りにしました。将来的には、これらの回路を標的とすることで、運動リハビリテーション中の治療効果を高められる可能性があります。


最後に
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