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論文まとめ300回目 Nature 負の容量効果を利用した超高エネルギー密度と超高出力密度を持つ静電容量型マイクロキャパシタ!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Concurrent inhibition of oncogenic and wild-type RAS-GTP for cancer therapy
がん治療のための変異型および野生型RAS-GTPの同時阻害
「がん治療のブレークスルーとなる可能性を秘めた、変異型と野生型のRASタンパク質を同時に阻害する新たな化合物RMC-7977の発見。この化合物は、がん細胞の生存に必須のRASシグナル伝達を遮断し、既存のRAS阻害剤に耐性を示すがんにも有効です。RMC-7977は、多様なRAS変異を有する難治性のがんに対する画期的な治療選択肢となり得ます。」

The PARTNER trial of neoadjuvant olaparib in triple-negative breast cancer
三陰性乳がんに対する術前オラパリブ療法のPARTNER試験
「BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者に対し、術前化学療法にオラパリブを追加しても、病理学的完全奏効率や生存率の改善は見られませんでした。一方、BRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブの追加により大きな効果が報告されています。この結果は、BRCA遺伝子変異の有無によって、オラパリブの効果が大きく異なることを示唆しています。」

Tumor-selective activity of RAS-GTP inhibition in pancreatic cancer
すい臓がんにおけるRAS-GTP阻害の腫瘍選択的活性
「すい臓がんの90%以上はKRAS遺伝子の活性化変異が原因であることが知られています。本研究では、KRAS、HRAS、NRASの活性型であるGTP結合型を選択的に阻害する化合物RMC-7977を用いて、すい臓がんモデルにおける治療効果を評価しました。その結果、RMC-7977は生体内で良好な忍容性を示しつつ、直接的なRAS阻害によって幅広いすい臓がんモデルにおいて顕著な抗腫瘍効果を示しました。薬理学的解析により、RMC-7977は腫瘍組織と正常組織で異なる反応を示すことが明らかになりました。治療を受けた腫瘍では、アポトーシスの波と持続的な増殖停止が観察された一方、正常組織ではアポトーシスの証拠はなく、一時的な増殖減少のみが観察されました。自然発症すい臓がんモデルであるKPCモデルでは、RMC-7977治療により生存期間が大幅に延長され、その後治療中に再発が認められました。再発腫瘍の解析により、Myc遺伝子のコピー数増加が有力な耐性メカニズムの候補として同定され、in vitroでTEAD阻害剤との併用により克服できることが示されました。これらのデータは、すい臓がんにおける広範なRAS-GTP阻害の使用に対する強力な前臨床的根拠を確立し、単剤療法の耐性を克服するための有望な併用療法レジメンを同定しました。」

Giant energy storage and power density negative capacitance superlattices
巨大なエネルギー貯蔵と出力密度を持つ負の容量超格子
「この研究では、原子レベルで制御された非常に薄い酸化ハフニウムと酸化ジルコニウムの交互積層膜を用いることで、従来の限界を超える高いエネルギー密度と出力密度を持つマイクロキャパシタを開発しました。これにより、小型で高性能なエネルギー貯蔵デバイスの実現に近づきました。」

FOXO1 is a master regulator of memory programming in CAR T cells
FOXO1はCAR T細胞のメモリープログラミングのマスターレギュレーターである
「FOXO1 は CAR T 細胞のメモリー形成と持続的な抗腫瘍活性を促進する重要な転写因子であることが明らかになりました。FOXO1 を過剰発現させることで、CAR T 細胞のメモリー様遺伝子発現プログラムが誘導され、エピジェネティックな再プログラミングが起こり、慢性的な刺激に対しても機能を維持できるようになります。その結果、CAR T 細胞の持続性と腫瘍制御能が in vivo で大幅に向上しました。一方、TCF1 の過剰発現ではこのような効果は見られませんでした。また、FOXO1 の活性は、CAR T 細胞療法や腫瘍浸潤リンパ球療法を受けた患者の良好な臨床転帰と相関していました。これらの結果は、FOXO1 の過剰発現が CAR T 細胞の抗腫瘍活性を増強できることを示しており、メモリー再プログラミングが T 細胞の最適化に広く適用可能なアプローチであることを示唆しています。」

Necroptosis blockade prevents lung injury in severe influenza
重症インフルエンザにおける肺傷害をネクロプトーシス阻害により防ぐ
「重症インフルエンザウイルス感染症では、過剰な炎症反応により肺傷害や急性呼吸促迫症候群(ARDS)を引き起こすことがあります。この研究では、ネクロプトーシス(細胞死の一種)を阻害する新薬UH15-38が、インフルエンザウイルス感染マウスモデルにおいて、肺の炎症と致死率を改善することを明らかにしました。UH15-38は、ネクロプトーシスを駆動するRIPK3キナーゼを強力かつ選択的に阻害し、感染後期の投与でも治療効果を示しました。この結果は、重症インフルエンザ患者におけるARDSなどの過剰炎症性病態に対し、RIPK3阻害が臨床的有用性を持つ可能性を示唆しています。」


要約

がん治療のための変異型および野生型RAS-GTPの同時阻害

RASは、細胞増殖を制御する重要なタンパク質ですが、がんではしばしば変異により恒常的に活性化されています。既存のRAS阻害剤は特定の変異型にのみ有効であり、野生型RASの活性化による耐性が問題となっていました。本研究では、変異型と野生型のRASを同時に阻害する新たな化合物RMC-7977を開発し、その有効性を明らかにしました。

事前情報
RASは、細胞増殖を制御する重要なシグナル伝達分子であり、がんではしばしば変異により恒常的に活性化されています。既存のRAS阻害剤は、特定の変異型(例:KRAS G12C)のみを標的としており、野生型RASの活性化による耐性メカニズムが問題となっていました。]

行ったこと

  1. 変異型および野生型RASに結合する新規化合物RMC-7977の開発

  2. RMC-7977のRAS阻害メカニズムの解明(X線結晶構造解析)

  3. 各種RAS変異を有するがん細胞に対するRMC-7977の増殖抑制効果の評価

  4. RAS変異を有するがんのマウスモデルにおけるRMC-7977の抗腫瘍効果の検証

  5. 既存のRAS阻害剤耐性がんに対するRMC-7977の有効性の検討

検証方法

  1. SPR(表面プラズモン共鳴)法による化合物とRASとの結合親和性の測定

  2. X線結晶構造解析による化合物-RAS複合体の立体構造の解明

  3. がん細胞株を用いた細胞増殖アッセイ(CellTiter-Glo)

  4. RAS変異を有するがんの細胞株由来および患者由来マウスモデルでの抗腫瘍効果の評価

  5. 既存のRAS阻害剤に耐性を獲得したがん細胞株および患者由来マウスモデルでのRMC-7977の効果の検証

分かったこと

  1. RMC-7977は、変異型および野生型RASに高い親和性で結合し、RASシグナル伝達を阻害する

  2. RMC-7977は、各種RAS変異を有するがん細胞の増殖を強力に抑制する

  3. RMC-7977は、RAS変異を有するがんのマウスモデルにおいて優れた抗腫瘍効果を示す

  4. RMC-7977は、既存のRAS阻害剤に耐性を獲得したがんに対しても有効である

この研究の面白く独創的なところ RMC-7977は、変異型だけでなく野生型RASをも同時に阻害することで、既存のRAS阻害剤とは異なる作用機序を有しています。この独自のアプローチにより、RAS変異を有する幅広いがんに対する治療効果が期待されます。さらに、RMC-7977は既存の阻害剤に耐性を獲得したがんにも有効であることから、難治性がんの新たな治療選択肢となる可能性を秘めています。

この研究のアプリケーション
RMC-7977は、RAS変異を有する非小細胞肺がん、大腸がん、膵臓がんなどの難治性がんに対する新たな治療選択肢となることが期待されます。また、既存のRAS阻害剤との併用により、耐性克服や治療効果の増強が期待されます。RMC-7977の関連化合物であるRMC-6236は、現在臨床試験が進行中であり、近い将来、RAS変異を有するがん患者の治療に貢献することが期待されます。

著者と所属
Matthew Holderfield, Bianca J. Lee, Jingjing Jiang, Aidan Tomlinson, Kyle J. Seamon, Alessia Mira, Enrico Patrucco, Grace Goodhart, Julien Dilly, Yevgeniy Gindin, Nuntana Dinglasan, Yingyun Wang, Lick Pui Lai, Shurui Cai, Lingyan Jiang, Nicole Nasholm, Nataliya Shifrin, Cristina Blaj, Harshit Shah, James W. Evans, Nilufar Montazer, Oliver Lai, Jade Shi, Ethan Ahler, … Mallika Singh Revolution Medicines, Redwood City, CA, USA Department of Molecular Biotechnology and Health Sciences, Molecular Biotechnology Center, University of Torino, Torino, Italy Department of Surgery, University of Cincinnati, Cincinnati, OH, USA Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA Lineberger Comprehensive Cancer Center, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC, USA Broad Institute of MIT and Harvard, Cambridge, MA, USA Human Oncology and Pathogenesis Program, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA Department of Medicine, Weill Cornell Medical College, New York, NY, USA Molecular Mechanisms of Cancer Program, Centro de Investigación del Cáncer, CSIC–Universidad de Salamanca, Salamanca, Spain Harvard Medical School, Boston, MA, USA Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA, USA Department of Pharmacology, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC, USA Department of Cancer Biology, University of Cincinnati, Cincinnati, OH, USA

【詳しい解説】
本研究は、がん治療における重要なターゲットであるRASタンパク質に着目し、その活性化状態を阻害する新たな化合物RMC-7977の開発に成功しました。RASは細胞増殖を制御する重要なシグナル伝達分子ですが、がんではしばしば変異により恒常的に活性化され、がんの発生と進展に深く関与しています。
これまでのRAS阻害剤は、特定の変異型(例:KRAS G12C)のみを標的としていたため、野生型RASの活性化による耐性メカニズムが問題となっていました。本研究で開発されたRMC-7977は、変異型だけでなく野生型RASをも同時に阻害することができる画期的な化合物です。
研究チームは、X線結晶構造解析により、RMC-7977がRASタンパク質に直接結合し、その活性化状態を阻害することを明らかにしました。さらに、各種RAS変異を有するがん細胞株を用いた実験では、RMC-7977が強力な増殖抑制効果を示すことが確認されました。
加えて、RAS変異を有するがんのマウスモデルにおいても、RMC-7977は優れた抗腫瘍効果を示しました。特筆すべきは、既存のRAS阻害剤に耐性を獲得したがんに対しても、RMC-7977が有効であったことです。これは、RMC-7977の独自の作用機序によるものと考えられます。
本研究の成果は、RAS変異を有する難治性がんに対する新たな治療選択肢の開発に大きく貢献するものです。RMC-7977の関連化合物であるRMC-6236は、現在臨床試験が進行中であり、近い将来、多くのがん患者の治療に役立つことが期待されます。
本研究は、がん治療における新たなブレークスルーとなる可能性を秘めており、今後のがん研究および治療法開発に大きな影響を与えるものと考えられます。


BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がんに対する術前オラパリブ療法の効果を検証

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07384-2

PARTNER試験は、BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者559人を対象に、術前化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル)にオラパリブを追加した群と追加しない群に無作為に割り付け、病理学的完全奏効率や生存率を比較した前向き第II-III相ランダム化比較試験です。その結果、オラパリブの追加による効果は認められませんでした。

事前情報
三陰性乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2がいずれも陰性の乳がんで、予後不良です。BRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブなどのPARP阻害剤が有効であることが知られています。

行ったこと
BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者559人を、術前化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル)にオラパリブを追加する群と追加しない群に1:1の割合で無作為に割り付けました。オラパリブは1日2回150mgを3~14日目に投与し、これを4サイクル行いました。その後、両群ともにアントラサイクリン系抗がん剤を3サイクル投与し、手術を行いました。

検証方法
主要評価項目は病理学的完全奏効率、副次評価項目は無イベント生存率と全生存率でした。病理学的完全奏効は、手術標本に癌細胞が認められないことと定義されました。

分かったこと
オラパリブ追加群と非追加群で、病理学的完全奏効率(51% vs 52%)、36ヶ月時点の推定無イベント生存率(80% vs 79%)、全生存率(90% vs 87.2%)に有意差は認められませんでした。一方、別報で報告されているBRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブの追加により大きな効果が認められています。

この研究の面白く独創的なところ
BRCA遺伝子変異の有無によって、オラパリブの効果が大きく異なることを明確に示した点です。BRCA遺伝子変異のない患者では、オラパリブの追加効果は認められませんでした。この結果は、三陰性乳がんの治療戦略を考える上で重要な知見といえます。

この研究のアプリケーション
本研究の結果は、BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者に対する術前化学療法において、オラパリブを追加する意義は乏しいことを示しています。一方、BRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブの追加が大きな効果をもたらすことが示唆されました。今後、BRCA遺伝子変異の有無に基づいて、三陰性乳がんの治療戦略を個別化していくことが重要と考えられます。

著者と所属
Jean E. Abraham, Karen Pinilla, Alimu Dayimu, Louise Grybowicz, Nikolaos Demiris, Caron Harvey, Lynsey M. Drewett, Rebecca Lucey, Alexander Fulton, Anne N. Roberts, Joanna R. Worley, Anita Chhabra, Wendi Qian, Anne-Laure Vallier, Richard M. Hardy, Steve Chan, Tamas Hickish, Devashish Tripathi, Ramachandran Venkitaraman, Mojca Persic, Shahzeena Aslam, Daniel Glassman, Sanjay Raj, Annabel Borley, ... Helena M. Earl

【詳しい解説】
本研究は、BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者を対象に、術前化学療法にPARP阻害剤であるオラパリブを追加することの効果を検証した大規模な前向き第II-III相ランダム化比較試験(PARTNER試験)の結果を報告しています。
三陰性乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2がいずれも陰性の乳がんで、予後不良であることが知られています。BRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブなどのPARP阻害剤が有効であることが報告されていますが、BRCA遺伝子変異のない患者に対するオラパリブの効果は明らかではありませんでした。
本試験では、BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者559人を、術前化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル)にオラパリブを追加する群と追加しない群に1:1の割合で無作為に割り付けました。オラパリブは1日2回150mgを3~14日目に投与し、これを4サイクル行いました。その後、両群ともにアントラサイクリン系抗がん剤を3サイクル投与し、手術を行いました。
主要評価項目は病理学的完全奏効率、副次評価項目は無イベント生存率と全生存率でした。病理学的完全奏効は、手術標本に癌細胞が認められないことと定義されました。
その結果、オラパリブ追加群と非追加群で、病理学的完全奏効率(51% vs 52%)、36ヶ月時点の推定無イベント生存率(80% vs 79%)、全生存率(90% vs 87.2%)に有意差は認められませんでした。一方、別報で報告されているBRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブの追加により大きな効果が認められています。
本研究の結果は、BRCA遺伝子変異のない三陰性乳がん患者に対する術前化学療法において、オラパリブを追加する意義は乏しいことを示しています。一方、BRCA遺伝子変異を有する患者では、オラパリブの追加が大きな効果をもたらすことが示唆されました。今後、BRCA遺伝子変異の有無に基づいて、三陰性乳がんの治療戦略を個別化していくことが重要と考えられます。
本研究の面白く独創的な点は、BRCA遺伝子変異の有無によって、オラパリブの効果が大きく異なることを明確に示した点です。この結果は、三陰性乳がんの治療戦略を考える上で重要な知見といえます。


すい臓がんにおけるRAS-GTP阻害剤の腫瘍選択的活性

本研究は、RAS-GTP阻害剤RMC-7977のすい臓がんにおける治療効果を評価し、広範なRAS阻害の有用性と耐性メカニズムを明らかにしました。

事前情報

  • すい臓がんの90%以上はKRAS遺伝子の活性化変異が原因である。

  • RMC-7977は、KRAS、HRAS、NRASの活性型GTP結合型を選択的に阻害する化合物である。

行ったこと

  • 様々なすい臓がんモデルにおいてRMC-7977の抗腫瘍効果を評価した。

  • RMC-7977の薬理学的解析を行い、腫瘍組織と正常組織の反応の違いを調べた。

  • 自然発症すい臓がんモデル(KPCモデル)でRMC-7977の治療効果と耐性メカニズムを調べた。

検証方法

  • in vitroおよびin vivoのすい臓がんモデルを用いた実験

  • 薬理学的解析

  • 再発腫瘍の遺伝子解析

分かったこと

  • RMC-7977は幅広いすい臓がんモデルで顕著な抗腫瘍効果を示した。

  • RMC-7977は腫瘍組織でアポトーシスと増殖停止を誘導するが、正常組織では一時的な増殖減少のみを引き起こした。

  • KPCモデルでRMC-7977治療により生存期間が延長したが、治療中に再発が認められた。

  • 再発腫瘍ではMyc遺伝子のコピー数増加が耐性メカニズムの候補として同定され、TEAD阻害剤との併用により克服できる可能性が示された。

この研究の面白く独創的なところ

  • RAS-GTP阻害剤の腫瘍選択的な作用メカニズムを明らかにした点。

  • 自然発症すい臓がんモデルを用いて、治療効果と耐性メカニズムを総合的に評価した点。

  • 耐性メカニズムに基づいた併用療法の可能性を示した点。

この研究のアプリケーション

  • RAS-GTP阻害剤のすい臓がん治療への応用

  • 耐性メカニズムに基づいた併用療法の開発

  • 他のRAS変異を有するがんへの応用

著者
Urszula N. Wasko, Jingjing Jiang, Tanner C. Dalton, Alvaro Curiel-Garcia, A. Cole Edwards, Yingyun Wang, Bianca Lee, Margo Orlen, Sha Tian, Clint A. Stalnecker, Kristina Drizyte-Miller, Marie Menard, Julien Dilly, Stephen A. Sastra, Carmine F. Palermo, Marie C. Hasselluhn, Amanda R. Decker-Farrell, Stephanie Chang, Lingyan Jiang, Xing Wei, Yu C. Yang, Ciara Helland, Haley Courtney, Yevgeniy Gindin, Kenneth P. Olive

詳しい解説
すい臓がんは予後不良のがんの一つであり、その多くがKRAS遺伝子の活性化変異を有しています。本研究では、KRAS、HRAS、NRASの活性型であるGTP結合型を選択的に阻害する化合物RMC-7977を用いて、すい臓がんにおける治療効果を評価しました。
まず、様々なすい臓がんモデルを用いてRMC-7977の抗腫瘍効果を検討したところ、幅広いモデルにおいて顕著な治療効果が認められました。さらに、薬理学的解析により、RMC-7977は腫瘍組織において持続的なアポトーシスと増殖停止を誘導する一方、正常組織では一時的な増殖減少のみを引き起こすことが明らかになりました。この結果は、RMC-7977が腫瘍選択的な作用を示すことを示唆しています。
次に、自然発症すい臓がんモデルであるKPCモデルを用いて、RMC-7977の長期的な治療効果を評価しました。その結果、RMC-7977治療により生存期間が大幅に延長されましたが、治療中に再発が認められました。再発腫瘍の遺伝子解析により、Myc遺伝子のコピー数増加が耐性メカニズムの候補として同定されました。さらに、in vitroの実験により、TEAD阻害剤との併用がこの耐性を克服できる可能性が示されました。
本研究の結果は、RAS-GTP阻害剤がすい臓がん治療に有効である可能性を示すとともに、耐性メカニズムに基づいた併用療法の開発に道を開くものです。また、本研究で用いられた手法は、他のRAS変異を有するがんにおける治療法の開発にも応用できる可能性があります。


負の容量効果を利用した超高エネルギー密度と超高出力密度を持つ静電容量型マイクロキャパシタの開発


この研究では、シリコン上に集積化された HfO2-ZrO2 ベースの薄膜マイクロキャパシタにおいて、記録的に高い静電エネルギー貯蔵密度 (ESD) と出力密度 (PD) を報告しています。原子層堆積された反強誘電性 HfO2-ZrO2 膜を電界誘起強誘電相転移近傍で設計し、負の容量効果による増幅された電荷貯蔵を示すことで、体積 ESD を向上させました。また、反強誘電性超格子工学により、HfO2-ZrO2 ベースの (反) 強誘電性の従来の厚さ制限を超えてエネルギー貯蔵性能を拡張しました。さらに、超格子を 3 次元キャパシタに適合的に集積することで、面積あたりの ESD (面積あたりの PD) を既知の最高の静電容量の 9 倍 (170 倍) に向上させました。この超高密度と超高速充電の薄膜を BEOL 互換プロセス内に統合することで、オンチップマイクロキャパシタのモノリシック集積が可能になり、電子マイクロシステムのための実質的なエネルギー貯蔵と電力供給性能を引き出すことができます。

事前情報

  • 誘電体静電容量は、超高速の充放電能力により、高出力エネルギー貯蔵用途に適している。

  • オンチップ集積化により、自律型マイクロエレクトロニクスやマイクロシステム用の小型エネルギー貯蔵デバイスが可能になる。

  • 現在の最先端の小型電気化学エネルギー貯蔵システム(マイクロスーパーキャパシタとマイクロバッテリー)は、安全性、パッケージング、材料、マイクロファブリケーションの課題に直面しており、オンチップでの技術的な準備ができていない。

行ったこと

  1. 原子層堆積された反強誘電性 HfO2-ZrO2 膜を電界誘起強誘電相転移近傍で設計し、負の容量効果による増幅された電荷貯蔵を利用して内在的なエネルギー貯蔵を増加させた。

  2. 反強誘電性超格子工学により、HfO2-ZrO2 ベースの (反) 強誘電性の従来の厚さ制限を超えてエネルギー貯蔵性能を拡張した。

  3. 超格子を 3 次元キャパシタに適合的に集積することで、貯蔵密度をフットプリントあたりで増加させた。

検証方法

  • 原子層堆積法を用いて HfO2-ZrO2 薄膜を作製し、電界誘起相転移近傍で設計した。

  • 反強誘電性超格子を形成し、エネルギー貯蔵性能を評価した。

  • 3次元キャパシタ構造に超格子を集積し、面積あたりのエネルギー密度と出力密度を測定した。

分かったこと

  • 負の容量効果を利用することで、HfO2-ZrO2 薄膜の体積あたりのエネルギー貯蔵密度を向上できる。

  • 反強誘電性超格子工学により、HfO2-ZrO2 ベースの (反) 強誘電性の厚さ制限を超えてエネルギー貯蔵性能を拡張できる。

  • 超格子を 3 次元キャパシタに集積することで、面積あたりのエネルギー密度と出力密度を大幅に向上できる。

  • 超高密度と超高速充電の薄膜を BEOL 互換プロセス内に統合することで、オンチップマイクロキャパシタのモノリシック集積が可能になる。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、負の容量効果、反強誘電性超格子工学、3次元キャパシタ集積という3つの手法を組み合わせることで、従来の静電容量型キャパシタの性能限界を大きく超える超高エネルギー密度と超高出力密度を実現したところが面白く独創的です。これにより、静電容量型とエレクトロケミカル型のエネルギー貯蔵デバイスの階層構造における従来の容量-速度トレードオフを克服しました。

この研究のアプリケーション
この研究で開発された超高密度・超高速充電の薄膜マイクロキャパシタは、BEOL互換プロセスによりオンチップに集積化できるため、自律型マイクロエレクトロニクスやマイクロシステムにおける実質的なエネルギー貯蔵と電力供給性能を引き出すことができます。これにより、小型で高性能なエネルギー貯蔵デバイスを必要とする様々な応用分野に貢献できると期待されます。

著者と所属
Suraj S. Cheema, Nirmaan Shanker, Shang-Lin Hsu, Joseph Schaadt, Nathan M. Ellis, Matthew Cook, Ravi Rastogi, Robert C. N. Pilawa-Podgurski, Jim Ciston, Mohamed Mohamed, Sayeef Salahuddin (University of California, Berkeley; Massachusetts Institute of Technology; Lawrence Berkeley National Laboratory)

詳しい解説
この研究では、シリコン上に集積化された HfO2-ZrO2 ベースの薄膜マイクロキャパシタにおいて、記録的に高い静電エネルギー貯蔵密度 (ESD) と出力密度 (PD) を達成しました。これは、3つの主要なアプローチを組み合わせることで実現されました。

  1. 内在的なエネルギー貯蔵を増加させるために、原子層堆積された反強誘電性 HfO2-ZrO2 膜を電界誘起強誘電相転移近傍で設計し、負の容量効果による増幅された電荷貯蔵を利用しました。これにより、体積あたりのESDを、バックエンド・オブ・ライン (BEOL) 互換の最高の誘電体 (115 J-cm-3) を超えるレベルまで向上させました。

  2. 全体のエネルギー貯蔵量を増やすために、反強誘電性超格子工学により、HfO2-ZrO2 ベースの (反) 強誘電性の従来の厚さ制限 (100 nm レジーム) を超えてエネルギー貯蔵性能を拡張しました。

  3. フットプリントあたりの貯蔵密度を増加させるために、超格子を 3 次元キャパシタに適合的に集積しました。これにより、面積あたりの ESD (面積あたりの PD) を既知の最高の静電容量の 9 倍 (170 倍) である 80 mJ-cm-2 (300 kW-cm-2) にまで向上させました。

この超高密度と超高速充電の同時実現は、静電容量型とエレクトロケミカル型のエネルギー貯蔵デバイスの階層構造における従来の容量-速度トレードオフを克服するものです。さらに、BEOL互換プロセス内で超高密度・超高速充電の薄膜を集積化することで、オンチップマイクロキャパシタのモノリシック集積が可能になり、電子マイクロシステムに実質的なエネルギー貯蔵と電力供給性能をもたらすことができます。
この研究は、負の容量効果、反強誘電性超格子工学、3次元キャパシタ集積という3つの革新的な手法を組み合わせることで、静電容量型キャパシタの性能を大きく向上させ、従来の限界を打ち破ったところが特に印象的です。これにより、小型で高性能なエネルギー貯蔵デバイスを必要とする様々な応用分野に貢献できると期待されます。


FOXO1による CAR T 細胞のメモリープログラミングの制御

この研究では、FOXO1転写因子がCAR T細胞のメモリー形成と疲弊抑制に重要な役割を果たすことを明らかにし、FOXO1の過剰発現によってCAR T細胞の持続性と抗腫瘍活性が増強されることを示しました。

事前情報

  • CAR T細胞療法の主な課題は、体内での持続性が低いこと。

  • CAR T細胞におけるメモリー関連遺伝子の発現は、持続性と臨床効果に関連している。

行ったこと

  • FOXO1およびTCF1のノックアウトとオーバーエクスプレッションがCAR T細胞に与える影響を評価した。

  • FOXO1オーバーエクスプレッションによる遺伝子発現およびエピジェネティック変化を解析した。

  • FOXO1活性と臨床転帰の関連性を解析した。

検証方法

  • In vitroおよびin vivoでのCAR T細胞の機能評価

  • RNA-seqとATAC-seqによる遺伝子発現とエピジェネティック解析

  • 患者由来サンプルを用いた臨床転帰との関連性解析

分かったこと

  • FOXO1はCAR T細胞のメモリー遺伝子発現と疲弊抑制に必須である。

  • FOXO1の過剰発現はメモリー様遺伝子発現プログラムとエピジェネティック再プログラミングを誘導し、CAR T細胞の持続性と抗腫瘍活性を増強する。

  • TCF1の過剰発現はこれらの効果をもたらさない。

  • FOXO1活性は患者の良好な臨床転帰と相関する。

この研究の面白く独創的なところ

  • FOXO1の過剰発現によるCAR T細胞のメモリー再プログラミングという新しいアプローチを提示した点。

  • FOXO1とTCF1の機能的な違いを明らかにした点。

  • FOXO1活性と臨床転帰の関連性を示した点。

この研究のアプリケーション

  • FOXO1の操作によるCAR T細胞療法の効果増強

  • メモリー再プログラミングによる他の癌免疫療法の最適化

  • FOXO1活性を指標とした患者層別化と治療効果予測

著者
Alexander E. Doan, Katherine P. Mueller, Andy Y. Chen, Geoffrey T. Rouin, Yingshi Chen, Bence Daniel, John Lattin, Martina Markovska, Brett Mozarsky, Jose Arias-Umana, Robert Hapke, In-Young Jung, Alice Wang, Peng Xu, Dorota Klysz, Gabrielle Zuern, Malek Bashti, Patrick J. Quinn, Zhuang Miao, Katalin Sandor, Wenxi Zhang, Gregory M. Chen, Faith Ryu, Meghan Logun, Junior Hall, Kai Tan, Stephan A. Grupp, Susan E. McClory, Joseph A. Fraietta, Elena Sotillo, Caleb A. Lareau, Ansuman T. Satpathy, Crystal L. Mackall, Evan W. Weber

詳しい解説
この研究は、がん免疫療法の一つであるCAR T細胞療法の効果を高めるための新しいアプローチを提示しています。CAR T細胞療法は、患者から採取したT細胞に特定のがん抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)を導入し、体内に戻すことでがん細胞を攻撃する治療法です。しかし、CAR T細胞の体内での持続性が低いことが課題となっています。
この研究では、FOXO1という転写因子に着目しました。FOXO1は、T細胞のメモリー形成に重要な役割を果たすことが知られていました。研究チームは、FOXO1をノックアウトしたCAR T細胞では、メモリー関連遺伝子の発現が低下し、疲弊しやすくなることを見出しました。一方、FOXO1を過剰発現させたCAR T細胞では、メモリー様の遺伝子発現プログラムが誘導され、エピジェネティックな再プログラミングが起こり、慢性的な刺激に対しても機能を維持できるようになりました。その結果、マウスモデルにおいて、FOXO1過剰発現CAR T細胞は、持続性と腫瘍制御能が大幅に向上しました。
興味深いことに、同じくメモリーT細胞形成に関与するTCF1の過剰発現では、このような効果は見られませんでした。また、FOXO1の活性は、CAR T細胞療法や腫瘍浸潤リンパ球療法を受けた患者の良好な臨床転帰と相関していました。
これらの結果は、FOXO1の操作がCAR T細胞のメモリー再プログラミングを誘導し、抗腫瘍活性を増強できることを示しています。さらに、FOXO1活性が患者の治療効果予測に役立つ可能性も示唆されました。本研究は、CAR T細胞療法をはじめとする癌免疫療法の最適化に向けた新たな戦略を提示するものです。


重症インフルエンザによる肺傷害を防ぐネクロプトーシス阻害薬の開発

重症インフルエンザウイルス感染では、肺においてネクロプトーシスと呼ばれる細胞死が過剰に誘導され、炎症や組織傷害を引き起こす。本研究は、新規RIPK3阻害薬UH15-38がインフルエンザ感染マウスでネクロプトーシスを抑制し、肺の炎症と致死率を改善することを示した。
事前情報 ・重症インフルエンザ感染では過剰な炎症により肺傷害やARDSを起こす ・ネクロプトーシスはRIPK3依存的な細胞死であり、重症インフルエンザの病態形成に関与する ・RIPK3阻害薬は抗炎症効果が期待できるが、有効性の高い薬剤は少ない

行ったこと
・新規RIPK3阻害薬UH15-38を開発
・インフルエンザウイルス感染マウスモデルにおいて、UH15-38の治療効果を検討
・UH15-38の薬理学的特性や安全性を評価

検証方法
・インフルエンザウイルス感染マウスにUH15-38を投与し、生存率と体重変化を観察
・肺組織の病理学的解析によりUH15-38の抗炎症効果を評価
・ウイルス力価の測定や免疫応答の解析により抗ウイルス効果への影響を検討

分かったこと
・UH15-38は、インフルエンザ感染マウスの肺胞上皮細胞におけるネクロプトーシスを強力かつ選択的に阻害した
・UH15-38の投与により、感染マウスの肺炎症と致死率が改善した
・UH15-38は抗ウイルス免疫応答やウイルス排除能を損なわず、感染後期の投与でも有効性を示した
・UH15-38は高い安全性プロファイルを示し、臨床応用への可能性が示唆された

この研究の面白く独創的なところ
・新規RIPK3阻害薬UH15-38の開発により、選択性と有効性の高いネクロプトーシス阻害を実現
・感染後期の投与でも治療効果を示すなど、臨床応用に向けた利点が明らかになった
・ネクロプトーシス阻害によるアプローチが、重症インフルエンザの新たな治療戦略となる可能性を示した

この研究のアプリケーション
・重症インフルエンザ患者におけるARDSなどの過剰炎症性病態に対する治療薬の開発
・その他のウイルス感染症や炎症性疾患への応用
・ネクロプトーシス研究の進展と新たな創薬ターゲットの同定

著者
Avishekh Gautam, David F. Boyd, Sameer Nikhar, Ting Zhang, Ioannis Siokas, Lee-Ann Van de Velde, Jessica Gaevert, Victoria Meliopoulos, Bikash Thapa, Diego A. Rodriguez, Kathy Q. Cai, Chaoran Yin, Daniel Schnepf, Julius Beer, Carly DeAntoneo, Riley M. Williams, Maria Shubina, Brandi Livingston, Dingqiang Zhang, Mark D. Andrake, Seungheon Lee, Raghavender Boda, Anantha L. Duddupudi, Jeremy Chase Crawford, Stacey Schultz-Cherry, Douglas R. Green, Gregory D. Cuny, Paul G. Thomas, Alexei Degterev, Siddharth Balachandran 

この研究は、重症インフルエンザウイルス感染症における肺の過剰な炎症反応と組織傷害の原因となるネクロプトーシスに着目し、その阻害薬としてUH15-38を新たに開発しました。UH15-38は、インフルエンザウイルス感染マウスモデルにおいて、肺胞上皮細胞のネクロプトーシスを強力かつ選択的に抑制することで、肺の炎症や致死率を改善しました。特筆すべきは、UH15-38が抗ウイルス免疫応答を損なわずに治療効果を示し、感染後期の投与でも有効性を維持したことです。この結果は、重症インフルエンザ患者の過剰炎症性病態に対する新たな治療戦略としてのネクロプトーシス阻害の可能性を示唆しています。さらに、UH15-38の高い安全性プロファイルは、臨床応用への期待を高めるものです。本研究は、創薬ターゲットとしてのRIPK3の重要性を明らかにするとともに、ネクロプトーシス阻害というアプローチが、重症インフルエンザのみならず、他のウイルス感染症や炎症性疾患の治療にも応用できる可能性を示したといえます。




最後に
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