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横井庄一さんに見た戦後~(続々)全国の地域版にみる戦争を語り継ぐ人々

 写真は生前の横井庄一さん(1915~97年)を名古屋市中川区の自宅で取材したとき、ご本人からいただいた一輪挿しです。手にすっぽり収まるサイズで、飴色の素朴さが気に入って自宅に飾っています。
 元日本兵・横井さんがグアム島で発見されたのは、終戦から27年後の1972年1月24日でした。高校生だった私が、まさか横井さんを取材することになるとは、思ってもみませんでした。
 今年の終戦の日の前日です。横井さんが帰国した翌年に録音した肉声のテープがあったことが報じられていました。25時間に及ぶ録音テープは、遺族から新聞社に託されました。
 横井さんが帰国したのは1972年の2月2日でした。名古屋のCBCテレビは、帰国50年の節目にドキュメンタリー番組「恥ずかしながら~帰国50年 ”横井さん”の真実~」(85分)を放送しました。「恥ずかしながら」は、横井さんが羽田空港に降り立って記者会見で述べた言葉です。
 横井さんは帰国直後、国立病院で検査を受け、静養をしています。CBCテレビは、横井さんの妻美保子さんとともにカルテの開示請求をしました。番組は、カルテの内容を織り込んで、東京や名古屋での横井さんの生活を映し出していました。
 1997年9月22日に入院先の名古屋市内の病院で亡くなりました。82歳でした。半年前に病院にお見舞いに伺ったときは、ベットから起き上がって、しばらく話をしましたが、東京で入院している美保子さんのことが心配そうで、ことばにも元気がありませんでした。
 葬儀は近くのお寺で9月24日に営まれました。とても暑い日でしたが、戦友ら350人が参列しました。横井さんの実家には1944年9月、グアムでの「戦死通知」が届いたため、お寺の境内にはこのとき建てられたお墓がありました。
 美保子さんは2006年に名古屋の自宅を改装し、庄一さんが潜伏したグアム島の穴の再現模型や出版物を展示した記念館を開き、命の尊さを訴えてきました。最近まで年賀状をいただいていましたが、美保子さんも今年5月27日、京都市内の病院で亡くなりました。94歳でした。
 一輪挿しは、自宅裏手にある窯で焼いたものです。60歳からの手習いということで、「六十路窯」(むそじかま)と名付けていました。釉薬は、陶芸家の加藤藤九郎さんから習ったと話す庄一さん。そばで支え続けてきた美保子さんでした。
 終戦から77年、そして横井さん帰国から50年。ロシア軍のウクライナ侵攻を映像でリアルに見る時代に生きる今、戦争が決して過去のものではないことを教えてくれています。
 横井庄一さん夫妻の命の尊さを願う心。大切にしていきたいと思うのです。
(2022年8月16日)
 14、15日付のnoteに引き続き、16日付の読売新聞地域版を一覧してみます。(記事・見出しに著作権があるため、項目のみの紹介です)
【北海道】96歳男性シベリア抑留経験
【青森】埼玉県川口市の85歳男性、戦死した父の墓参
【岩手】祖父の平和への思い継ぎウクライナの子どもたちを通訳として支える66歳男性
【秋田】フィリピンなどの慰霊を記録した8㍉フィルム
【山形】戦争体験の将棋駒の87歳伝統工芸士
【群馬】瀬戸内海停泊中に爆発・沈没した戦艦「陸奥」乗務員だった99歳長野県小海町の男性の話(「陸奥の記憶」連載中)
【埼玉】94歳元特攻隊員の証言
【千葉】戦艦「武蔵」元少年兵の94歳男性の証言(「少年兵と戦艦武蔵」連載上)
【東京】90歳男性のソ連軍樺太侵攻の証言
【横浜】作詞家湯川れい子さん、人間爆弾「桜花」を運用する「神雷部隊」の次兄との思い出(「人間爆弾桜花」連載3回目)
【新潟】78歳女性、空襲で耳に大けが。いま語り部に
【富山】学童疎開の宿舎だった氷見市の寺が宿舎看板を市に寄贈
【山梨】甲府空襲(1945年7月6日)経験の80歳女性の記憶
【岐阜】特攻の父の半生を漫画に(14日の愛知県版)
【静岡】青い目の人形、御前崎に現存
【三重】77歳女性の父の思い出
【福井】78歳鯖江市遺族会連合会長、遺族高齢化で平和祈念館など維持課題
【京都】86歳男性ら府内の遺族14人、コロナ禍で東京開催の戦没者追悼式欠席。自宅で追悼
【兵庫】86歳女性、神戸大空襲(1945年2~8月)証言
【奈良】86歳男性、滋賀県への学童疎開の記憶
【和歌山】78歳遺族連合会会長、戦地から届いた父の家族への手紙
【島根】90歳男性、玉湯空襲(1945年7月28日)の記憶
【岡山】平和の鐘を鳴らす式典
【広島】95歳男性が東京の戦没者追悼式に初めて参列
【徳島】徳島市の眉山山頂にある平和記念塔前で旧ビルマ(ミャンマー)で戦死した人の追悼
【愛媛】松山空港近くに残る軍用機の格納庫3基。問われる戦争遺跡の保存のあり方
【高知】愛媛県大洲市の長浜大橋の弾痕保存(15日の愛媛県版と同じ)
【山口】旧ソ連軍による抑留体験を描いた長門市出身の画家香月泰男の代表作が里帰り展示
【熊本】86歳女性、命がけの朝鮮半島からの引き揚げ語る
【佐賀】佐賀市内の寺でボーイスカウト、ガールスカウトの子どもらが平和願い鐘を突く
【熊本】97歳男性、シベリア抑留体験語る
【宮崎】88歳二科会支部長、空襲で児童が犠牲になった学校に絵を贈る(「文人と戦争」連載下)
【鹿児島】南さつま市の万世特攻平和祈念館で、当時出撃した隊員たちの手紙を高校生が朗読

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