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国産ジェットが消えた日~南信州に新たな展望も

 三菱重工業は2月7日、国産初のジェット旅客機、三菱スペースジェット(MSJ)の開発中止を発表しました。設計変更やコロナ禍で航空需要が激減する中、子会社の三菱航空機(愛知県豊山町)による開発が凍結されていましたが、正式に決まると寂しいものがあります。

中部圏広域産学官協議会連携協議会であいさつする中部経済連合会の水野明久会長

 ショックは中部財界にも走りました。7日に名古屋市内のホテルで開かれた「第1回中部広域産学官連携協議会」の冒頭で、中部経済連合会の水野明久会長は「ものづくり産業における次世代のけん引役として、また航空機産業のさらなる発展に向けた起爆剤として大きな期待を寄せていただけに非常に残念」と苦渋の表情でした。
 私自身、新聞記者最後の頃、県営名古屋空港(愛知県豊山町)に通い、名称変更前の三菱リージョナルジェット(MRJ)が滑走するところを取材しています。中小企業が自動車部品の「一本足打法」から、航空機を加えた両輪へと期待を膨らませていた頃でした。ちなみに新聞記者駆け出しのときも、この空港を持ち場にしていました。
 米欧がボーイング社やエアバス社を国策プロジェクトとしているのと比べれば、日本は500億円の補助金という支援でした。開発断念を想定していた企業や団体は、新たな航空宇宙分野の新規受注を視野に動き始めています。

スペースジェット開発中止発表の日に開かれた航空宇宙クラスター地域の飯田市の懇話会

 同夜、名古屋市内で長野県飯田市が主催した名古屋企業との情報交換会。これまでもジャーナリズムの立場で参加してきましたが、3年ぶりの開催は「国産ジェットが消えた日」と重なりました。
 飯田市工業会も航空宇宙産業に注力しています。MSJ開発中止で、さぞ意気消沈しているかと思っていましたが、逆に意気込みを新たにしている印象でした。

環境試験のフルラインがそろう飯田市のエス・バード

 飯田市は、産業振興と人材育成の拠点として「S-BIRD(エス・バード)」を設置しています。その施設内には航空機関連では国内有数の環境試験機器を備えた飯田工業技術試験研究所があります。運営する公益財団法人南信州・飯田産業センター常務理事は、スライドを使って防爆性試験評価装置や燃焼・耐火性評価装置など、航空機産業に欠かせない国内唯一の試験装置を解説してくれました
 この会合の前日、名古屋商工会議所は国内最大規模の航空宇宙分野の商談会「エアロマート名古屋2023」の参加企業の募集を始めました。フランスのBCIエアロスペースと名商の共催で4年ぶりとなる対面商談がメインですが、素材産業向けと宇宙産業向けの商談会も併設するのも5回目の今回の特徴です。

2019年に名古屋・吹上ホールで開かれたエアロマート名古屋(名古屋商工会議所提供)

 名商によると、300社・団体の参加を見込んでいて、このうち3割が海外からの参加となりそうです。中部圏の航空機関連産業が得意とするボーイング社関連だけではなく、エアバス社との取り引き拡大にも期待が高まります。

エアロマート名古屋2023のQRコード(名古屋商工会議所提供)

 さて、南信州の試験需要はあるのでしょうか?
 もちろんです。空飛ぶクルマはトヨタ出資の「スカイドライブ」をはじめ世界で400社が開発にしのぎを削っているといわれています。ホンダジェット(6人乗り)は、座席を増やした改良型が期待されます。
 南信州は3000㍍級の南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷に位置します。この伊那盆地から空を見上げると、「谷」とは思えない青い空が広がっています。きっとビジネスの空も・・・。
(2023年2月14日)


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