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美容師との間にある“間合い“のコミュニケーション

美容師さんは僕に興味がない。知らんけど。そして同様に、僕も美容師さんに前のめりな興味はない。

ゆえに散髪中のコミュニケーションは、とても特殊だ。

はじめましての距離感から始まり、その距離を両者とも詰める必要がない、そんなコミュニケーション。

これが接客業であれば、売る側は僕の好感度をあげようとアクションを行うでしょう。

はたまた好意を寄せる相手であれば、逆に好感度を得るべく自分からアクションを起こすでしょう。

でも美容師さんとの間では、(前者的な現象は時に起こりうるかもしれないが)、両者極めて中立。達人同士の間合いをとってスタートする。

担当の人とは会話をしない、という人の話もよく聞く。

でも僕の場合、あれぐらい長時間パーソナルスペースに侵入している人と会話をするなといわれたほうがしんどい。

だから僕は、わりと担当の美容師さんと話をするほうである。

ロールプレイ可能か?

そうして会話をしていると「正直に答えたくない質問」が出てきたりした経験は誰でもあるのではないだろうか。

「暇だと思われたくない」「怠惰だと思われたくない」「かっこ悪いと思われたくない」

そういった自意識が働いたとき、別に嘘をついてもほぼほぼバレようがないのも、美容師との会話の特徴だ。

美容室との中でしか会わず、自ら出向くことでしか会わない。だからこそ、何かロールプレイをして、それを成立させることは容易だ。

そんなことをふと考えた時、必ず思い出す話がある。

敬愛する作家、朝井リョウさんは以前ラジオで

「新人SEのフリをして以前美容室に通っていた」と話していた。

朝井さんが学生でもあり作家でもあった大学3年生の頃、美容師に
「今日はお仕事お休みですか?」と聞かれたという。

朝井さんは「大学は休みだが、作家としての仕事はあるし...」とどう回答すべきか迷ったあと、

「はい、休みです」と答えた。

それによって「お仕事何されてるんですか?」と聞かれてしまい、

「勤め人だと思われたい」
という思いのあった朝井さんはとっさに
「システムエンジニアを...」と答えてしまった。

これがきっかけで、約半年間、新人SEとして通わなければならかった...のだそうだ。

(実は美容師に作家として認知されていて、領収書を頼んだ際「文房具代でいいですか?」といわれてしまったオチがあるのはともかくとして)、この朝井さんのエピソードのように、美容師との会話は十分ロールプレイが成立するようなコミュニケーションなのである。

一回一回”セーブされていく“

そんなある種ゲーム的な不思議なコミュニケーションであると言う点で言えば、もう一つゲームっぽい点がある。

それは、定期的にプレイするごとに話した内容がセーブされていくという点である。

これはなにも美容室コミュニケーションに限った話ではないが、こちらからプレイして(通って)会話を積み重ねる、「蓄積」の性質が特に顕著に現れているコミュニケーションと思う。


来店のたびにゲームデータをセーブしているような、そんなギャルゲー的な気持ちになることがある。

久しぶりに会う友達、とも正月とお盆にだけ会う親戚ともちがう。
いままでもこれまでも全く同じ頻度と距離感で会話することになる、という点が特殊。そこがゲームっぽい。

...っていうのをなんも喋らないで考えていられるのは、今シャンプー中だから。この紙ナプキンの亜種みたいなやつが取れたらまた、僕ら二人の間には「間合い」が生まれる。

どうかバンドのことは知っている担当の美容師さん、読みませんように。

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