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WRA #3-4 「A1越智さんのスーパージャッジ」J1最終節 G大阪-清水 (家本政明主審)

目次に重要度を星で示しています。お忙しい方は星の多い物のみ読んでみてください。

今回は全6回(15分×6本)の今までのフォーマットで分析します。(次回は投票にあった前後半計2本で行きます!)

この試合はTwitterのアンケートで分析試合を決定しました。ご協力いただいたみなさんありがとうございました!

今回は、家本政明さんが担当するガンバ大阪対清水エスパルスの試合を分析します。家本さんの発信されているNoteに出てくる理論を随時学んでいくので、是非そちらをお読みいただいてからご覧ください!

公式記録
明治安田生命J1リーグ 第34節
ガンバ大阪 0-2 清水エスパルス
審判団 主審 家本 政明 副審1 越智 新次 副審2 西村 幹也 第4の審判員 西山 貴生
警告 退場 なし
シュート数    G大阪 12-10 清水   
コーナーキック数 G大阪 11- 4  清水
フリーキック数  G大阪  8 - 7  清水
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24193)

45:00 後半キックオフ

清水ボールでキックオフ。前半同様先取りをして、G大阪陣内にポジショニング。

★ 45:22 アドバンテージ G大阪29 山本 悠樹⇒清水16 西澤 健太

判定ステップ① グレイプレイ
判定ステップ② グレ男③~④

グレ男って誰だという方は下記リンクをチェック!

⇒決定 反則

パスを受けて前進しようとした清水16西澤健太選手に対しG大阪29山本悠樹選手が手をかけてしまい、反則。頑張らせるか結構際どいシーンの「グレ男③」に当たるかもしれないが、西澤選手が頑張って続けようとしたため、アドバンテージで継続。この試合本当に選手がファウルをアピールせずに続けている。観ていて本当に面白い!

★ 45:38 ファウル 清水16 西澤 健太⇒G大阪27 髙尾 瑠

判定ステップ① グレイプレイ
判定ステップ② グレ男④

⇒決定 反則

清水がG大阪陣内に攻め込んでいる状況。PA外すぐで、ボールがこぼれたところに清水16西澤健太選手がG大阪27髙尾瑠に後方からチャレンジ。西澤選手が高尾選手の足をつまづかせてしまったため、ファウル。アドバンテージを見るために少し笛を遅らせるが、つながらなかったためFK。

★★★ 「A1越智新次さんのスーパージャッジ」48:53 清水ゴール 33 川本 梨誉 G大阪0-1清水 

清水33川本梨誉選手が18エウシーニョ選手のスルーパスを受けて抜け出し、落ち着いてゴールを決めた。川本選手はJ1初ゴール。おめでとうございます!

このシーンはコーナーキックからの流れだったため、副審にとっては移動によって、ずれが生じてしまいがちなシーンである。しかし、越智さんはズレることなく、非常にタイトなオンーオフの判断を完璧にされ、ゴールを正しく認めた。抜け出すことによる「フラッシュラグ」でどうしてもオフサイドに見えやすいところではあるが、さすがで素晴らしいジャッジだった。

主審の家本さんもこのようにおっしゃっている。ミスを叩くことは容易だが、良い判定には賞賛を。

★ 50:52 アドバンテージ 清水17 河井 陽介⇒G大阪29 山本 悠樹

判定ステップ① グレイプレイ
判定ステップ② グレ男③or④

⇒決定 反則

G大阪のボール保持。タッチライン際でボールを受け、ドリブルを開始したG大阪29山本悠樹選手に対し、清水17河井陽介手をかけてしまうが、山本選手はプレー継続。それを見て、家本さんはパスがつながるところまで見た上で、アドバンテージのシグナル。的確なアドバンテージ。

別の話だが、ホールディングについて面白い記述が家本さんの「小鳥さん救出の舞台裏(番外編)」に記されていたので、引用する。

甲府 宮崎選手が北九州 福森選手のシャツを後ろから激しく引っ張っている。
家本、
「やりすぎ!やりすぎ!やりすぎはダメよ!」
と笛ではなく声で、その行為をやめるよう促す。
宮崎選手はその声を聞き入れ、引っ張るシャツを即座に手放す。
直後、福森選手はフリーとなって体勢を整え、北九州の次の攻撃に備える…

小鳥さん救出の舞台裏(番外編)より引用

こうやってマイクでは拾わないような部分でも、細かな声掛けがされていると知り、感銘を受けた。ホールディングは確かに行為自体が反則になるが、とはいっても程度がある。「やりすぎ」はダメなのである。そういう声掛けをすることで、プレーを途切れにくい環境を作っているのである。

見えない部分の積み重ねにこそ、レフェリングの妙や面白さがある。

★★ 53:38 タッチジャッジ(CK)とマネジメント

清水陣内副審2西村幹也さんの目の前での判定。G大阪39渡邉千真選手と清水21奥井諒選手のおそらく両方に当たってボールがゴールラインから出た。西村さんからの角度が一番見え、距離としても最適な距離であるため、しっかりと自信をもって西村さんがCKのシグナル。

西村さんが一番見えているシーンであるし、正しい判定であると思う。(映像でも分からない)また、正直あそこで判定を変えたら、西村さんへの信頼も揺らいでしまうシーンであり、主審から修正はしづらい。

当たった選手は正直どちらの方が後か分からないシーンなので、奥井選手・渡邉選手共にマイボールを主張するのは理解できる。やはり、きわどいシーンなので、審判団に対して清水側は不満を示す。結果、マネジメントが必要になってくるシーンであるといえる。

#3-2で家本さんのマネジメントの極意に当てはめたものを紹介しているので、家本さんの元記事である下記リンクと併せてご覧いただけると幸いです。ここでも、軽くそのメソッドに当てはめて分析をしてみる。

A. 相手を知る(当事者)
相手:清水21奥井諒選手 

興奮:自分が信じている「事実」を覆されたので、興奮している。しかし、話せないほどの状況ではない。

状況:少しは冷静なのではないかと考える。少なくともイッちゃっているわけではない。

B. 興奮の種類を知る

このシーンでは、完全に「奥井選手⇒家本さん・西村さん」の方向で興奮が向いている

C. 周りの状況を知る
 
試合状況:清水が1点リード。リードした直後なので、清水としてはなんとしても失点したくない中でCKになった。審判団としても「事実」に対する判定なので、譲れないシーン。

周囲の状況:周囲には同様の不満を表している選手がたくさんいる(清水)

相手チームの反応:G大阪側もマイボールを主張していたが、認められたので、基本的に落ち着いている

D. 柔軟に対応する
対応のタイミング:
プレーは切れているため、対応可能。奥井選手をはじめとする清水の選手もイっちゃっているわけではないが興奮。

自分or他者:
清水の選手は他の選手も興奮しているので、他者に任すのは難しい。家本さん自身でマネジメントしなければいけないシーン。

会話以外の方法:絶対に譲れないシーンなので、突き放す必要もあるシーンか。シグナルと笛を使って、譲らないことを示す。

(行動)笛で注意を集めて、シグナルを長時間したまま静止。表情も厳しめでいる。

このシーンは、サッカーで認められるべきグレーゾーンが許されない事実についての判定で、正解が存在する。絶対に譲れないシーンであるということであり、今までのマネジメントとは異なっている。

ただ、ガス抜きのために、時間をとることが大切なのである。怒りについてのマネジメントである、「アンガーマネジメント」の理論では6秒で怒りは収まるのである。

この間を取らずに、再開をさっさとさせてしまうと、清水の選手はゲームに集中できず、怒りを持ったまま再開する最悪の状況になってしまう。そのことを防ぐために、威厳を示しつつ、間をとるために上記のようなマネジメントをしたと考える。最適なタイミングで、最適なマネジメントを。そのために、何が必要か感じる能力。それが大切なのだと学ばされた。

清水の選手たちも思うところはあるかと思うが、審判団の判定を尊重し、CKの守備に集中している。必要なマネジメントは功を奏した。

その後のCKでこぼれ球に反応した、奥井選手・清水GK39大久保択生選手とG大阪19キムヨングォン選手が接触したが、清水の2選手がプレーを継続しようとしたので、ファウルは取らずにプレー継続。映像を見るに声掛けを1対1で行っている。

★ 54:56 アドバンテージ 清水21 奥井 諒⇒G大阪27 髙尾 瑠

判定ステップ① グレイプレイ
判定ステップ② グレ男④or⑤

⇒決定 反則

このシーンでは清水のパスをインターセプトしたG大阪27髙尾瑠選手が前方に進んだところに、清水21奥井諒選手が手をかけた。グレ男⑤くらいで反則だが、こぼれたボールをつないだためアドバンテージ。

★ 56:12 オフサイド G大阪18 パトリック

副審2西村幹也さんサイド。G大阪30塚元大選手の浮き球のスルーパスを受けた18パトリック選手がオフサイドポジションにパスの瞬間オフサイドポジションにいた。動き出しはいいタイミングだったが、 清水4吉本一謙選手の素晴らしいオフサイドトラップにかかってしまった。

その後の間接FKのポジションとしては、以下のポジションをとっていた。

スライド7

争点としては、外側を予想されるシーンで、外をとるレフェリーもいると思うが、家本さんは内側をとっている。これは、後の展開でクリアビューをとることもあるかと思うが、判定に対して外側をとると「ワイドビュー」を確保できないこと、距離が近くなりすぎてしまうことがあり、内側をとっていると考える。また、次の展開において下のような理想的ポジションをとるためには、内側が最適であると考えていると感じる。合理的なポジションで、基本に忠実である。

スライド5

ここまでのまとめ

58:28からのタッチライン際でG大阪14福田湧矢選手が清水33川本梨誉選手に圧される形になったシーンは、他の審判員だったら取ることのある「グレ男③」相当で、選手からも取らないと声が上がりがちなシーンである。しかし、この試合では一切声が上がらず、両チームボールだけを見てプレーを継続している。

このシーンに家本さんの前半当初からの判定とマネジメントが凝縮されているように感じる。積み重ねによって選手がレフェリーが吹くまではプレーを続けるというサッカーの理想的な姿が見えていると感じる。

競技規則に示されている美しい試合である「審判員がほとんど登場しない試合」。それを地で示すのが、この試合の家本さんのレフェリングであると言える。登場しないために、布石をものすごい量で打ち込んでいるのが、良く伝わってくる試合だと感じる。私も将来はこのように選手がプレーに集中することのできる環境を整えられるレフェリーになりたいと感じる。

また、何よりこの15分で忘れてはいけないのが、副審1越智新次さんのオフサイドの見極めの力であろう。オフサイドに見えがちなシーンで、正しくオンサイドであることを見極め、サッカー最大のよろこびであるゴールを保証した。簡単なことのようで、非常に難しいシーンである。しっかりとした鍛錬の結果であると感じるので、私も学びたい。

ハイライト

DAZNの映像(2021.1.18まで)


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