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WRA #3-5 「前半のマネジメントここに結実」 J1最終節 G大阪-清水 (家本政明主審)

目次に重要度を星で示しています。お忙しい方は星の多い物のみ読んでみてください。

今回は全6回(15分×6本)の今までのフォーマットで分析します。(次回は投票にあった前後半計2本で行きます!)

この試合はTwitterのアンケートで分析試合を決定しました。ご協力いただいたみなさんありがとうございました!

今回は、家本政明さんが担当するガンバ大阪対清水エスパルスの試合を分析します。家本さんの発信されているNoteに出てくる理論を随時学んでいくので、是非そちらをお読みいただいてからご覧ください!

公式記録
明治安田生命J1リーグ 第34節
ガンバ大阪 0-2 清水エスパルス
審判団 主審 家本 政明 副審1 越智 新次 副審2 西村 幹也 第4の審判員 西山 貴生
警告 退場 なし
シュート数    G大阪 12-10 清水   
コーナーキック数 G大阪 11- 4  清水
フリーキック数  G大阪  8 - 7  清水
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24193)

★★ 「前半のマネジメントここに結実」 62:00 ファウル 清水18 エウシーニョ⇒G大阪21 矢島 慎也

判定ステップ① グレイプレイ
判定ステップ② グレ男③~④

グレ男って誰だという方は下記リンクをチェック!

⇒決定 反則

このシーンでは、パスの連続で崩していったが、最後の清水18エウシーニョ選手へのパスが若干ズレてしまう清水の攻撃。エウシーニョ選手は自身の前に体を入れたG大阪21矢島慎也選手を押して倒してしまう。判定としてはグレ男④くらいだと思われる。

家本さんはファウルの強度から見てまずまず強めに笛を吹いたが、これは前半のエウシーニョ選手のイラつきから「マーク」していた部分があると感じる。(詳しくは#3-2参照)

そして、エウシーニョ選手がフリーキックを遅らせるような気配を感じたのか、ファウルの瞬間近づいてマネジメントを行う準備をする。しかし、そんな必要もなく、エウシーニョ選手は矢島選手に謝りに行っただけであったのだ。

このシーンは、前半30分までに行っていたエウシーニョ選手へのマネジメントの成果であるといえる。無理にマネジメントするのではなく、エウシーニョ選手が自身で落ち着いてサッカーに集中するための間を取ってあげたことで、エウシーニョ選手は自身のファウルを認め、相手に謝罪することができるような精神状況になるまで自身をコントロールしたのである。

一番賞賛されるべきはエウシーニョ選手の強さとリスペクトである。その背景にはその気持ちを引き出すレフェリングをし続けた家本さんがいるということも忘れてはいけない。

このようにレフェリングは一つ一つ丁寧に積み重ねていくことで、選手からのリスペクトを受けられるようになり、試合に審判員は登場しなくてよくなる。適切なタイミングで、適切な量と質のマネジメントをする大切さ、それには選手に寄り添う気持ちが不可欠であることを学ぶことができる素晴らしいシーンだった。無理くり落ち着かせるのは互いのストレスにしかならない。そのことを胸に刻みたいものだ。

★ 62:19 アドバンテージ 清水33 川本 梨誉⇒G大阪29 山本 悠樹

判定ステップ① グレイプレイ
判定ステップ② グレ男③~④

⇒決定=反則

このシーンでは、タッチライン際でボールを受けてターンしたG大阪29山本悠樹選手のドリブルに対し、清水33川本梨誉選手が後方から手をかけ、バランスを崩しかけるが持ち直し、パス。そのパスがつながったので、アドバンテージ。

川本選手はパスをつないだ山本選手に謝罪している。それは自発的な行動で、リスペクトを感じる行動だった。素晴らしい行動。また、山本選手も少しおさえられたくらいで止めずパスを出すために体を起こすというサッカーに集中したプレーが素晴らしい。

63:42 清水 ゴール 30 金子 翔太 G大阪0-2清水

清水30金子翔太選手が得点。オフサイドのようなシーンもなく、判定をすることが必要なシーンはなかった。

★ 65:23 アドバンテージ G大阪27 髙尾 瑠⇒清水14 後藤 優介

判定ステップ① まっくろくろすけ
判定ステップ④ 新・グレイプレイ
判定ステップ⑤ 新・グレ男②

⇒決定 反則・ノーカード(でも注意を惹くために指をさす)

清水陣内でドリブルを横方向にしていた清水14後藤優介選手にG大阪27髙尾瑠選手がタックル。ボールに触れることはできず、後藤選手の足をけるような形になってしまい、反則。しかし、ボールはつながったので、アドバンテージ。

このシーン、だれが見ても反則といえるまっくろくろすけなのは、分かると思う。問題は、警告が必要かどうかということである。それでは、「新・グレ男」くんに登場してもらい判断していく。

新・グレ男くんは私が便宜的に「判定ステップ⑤」で出て来るグレ男を命名したものです。そもそもなんだそれという方は、下記Noteをご覧ください。

このシーン100%警告でピカチュウを呼びに行く必要もなければ、100%警告はいらないからまっくろくろすけと楽しんでいればいいというわけでもないので、新・グレ男を召喚する。

新・グレ男さんのうち「これは、FKだけでも受け入れられるけど " ちょっとイヤ " だなあ... というようなもの」(超簡単! 誰でもできる " 3−5−2 " (発展編)より引用)であるグレ男2が該当すると思われる。

そういう判断のもと、家本さんはただアドバンテージのシグナルをするだけではなく、反則が起こった位置にいた髙尾選手の方を指さしたと思われる。

この指差しをすると警告するかのように映ってしまい、実際プレーが切れたタイミングで清水のキャプテンである6竹内凉選手が家本さんの近くに寄ってきて、カードについて話しているように映る。しかし、アドバンテージを保証しつつ、反則の重さを伝えるために指差しを行ったこのマネジメントは適当だったと感じる。おそらくもう少しでカードであるという旨も声で伝えたのであろうし、納得感のある判定である。

★★★ 66:42~68:20 「吉本選手お疲れ様でした。選手と審判は敵ではない。」飲水タイムと足がつった清水4吉本一謙選手への対応

まずは、この清水4吉本一謙選手のツイートを見ていただきたい。

この日が引退試合となった吉本一謙選手。本当に引退するのかというほどキレのある素晴らしい動きと経験に裏付けされた予測から清水のピンチを未然に防ぎ続けていた。そんな動きを重ねた結果ダメージが蓄積し、足をつってしまう。

清水のチームメイトはタッチラインからボールを出し、プレーを止めようとしたが、そのタイミングで家本さんは飲水タイムを選択する。前半同様時間的には少し早いが、そんな細かいことより吉本選手のために間をとることを選び、他の選手を飲水タイムでベンチに戻る時間を作った。

そのときには、家本さんは本当に親身に寄り添って、吉本選手に対応していた。このような、相手の目線に立てることが家本さんの特徴であるといえ、マネジメントの際にも大切であるとおっしゃっている。この家本さんの対応に対しての吉本選手のツイートからも伝わるように、本当に親身になることが選手にとっての最大の信頼感につながると思う。

当たり前だが、選手と審判は敵ではない。同じサッカーのゲームを作るために不可欠な存在である。両チームに公平であるべき審判が選手と話すと何か突き放した対応をしてしまうようなこともある。

しかし、審判も人間で、素晴らしいゴールを見たら興奮するし、倒れている選手がいれば心配だし、プレーを頑張ってほしいと思っている。その想いを隠すのではなく、真摯に伝えることは素晴らしいことだと思っている。

もちろん正しい判定ができていないのに、そんな行動されても「ちゃんとみろ」「そんなことよりやることがあるだろ」という風になるが、今日の家本さんのように正しい判定で、互いの信頼関係ができているときにはレフェリーがポジティブな感情を示してもいいと思う。そうすることがサッカーをより美しい競技にする上で、非常に大切であるし、自然な姿であると感じる。

吉本選手はこの後71分にピッチを去るが、本当に素晴らしいパフォーマンスで、見ているこちらの感情を揺り動かすパフォーマンスだった。ピッチを去るときの平岡宏章監督の労う姿も非常に印象的だった。サッカーっていいなと改めて思わせてくれた、吉本選手本当にお疲れ様でした!

また、マイボール・スローインを負けているにもかかわらず返すG大阪の選手たちのリスペクトも素晴らしい光景だと感じる。

★ 69:58 ハンド G大阪34 川﨑 修平

手を広げて、意図的にコントロールしたため、ハンドである。家本さんも10m程度の位置で非常に見やすい位置で見ていた。

★ 73:22 やり合いへのマネジメント

家本さんがG大阪ボールのスローインになったタイミングで、プレーを止める。一瞬何があったのかと思ったが、巻き戻してみてみると73:02からポジションの取り合いで、G大阪18パトリック選手と清水21奥井諒選手がやりあっている。

反則を取るほどではないが、二人で押し合いをしている。よく家本さんがボールと関係ないところなのに見えていたという風に感じる。これはワイドビューの確保という家本さんのポジショニングだからこそ見えたと感じるが、意識はどのように見ていたのか気になる。おしえて家本さーんという感じだ。

ここで家本さんは、パトリック選手と奥井選手の間に入りに行く。パトリック選手は早く落ち着いたが、奥井選手が闘争本能をむき出しに、パトリック選手をにらんでいたため、落ち着ける時間をわざと長めにとっていたように見える。杓子定規な対応ではなく、状況を観察し、「間」をとる素晴らしいマネジメントだった。

ここまでのまとめ

本当にサッカーに集中して見れる素晴らしいレフェリング。ただ放置するわけではなく、必要な時があればちょうどいい介入で最大限の効果を出す素晴らしいマネジメントを積み重ねることで、選手をサッカーに集中する環境を作っている。

その効果が表れたのが、62:00のシーンであると感じる。あれだけ興奮していたエウシーニョ選手が落ち着き、試合に集中する。そうすることでスペクタクルなサッカーを作る一員となった。本当に憧れのレフェリングであるし、目指さなければならない姿勢だと感じる。本当に観ていて楽しいし、分析が勉強になるため、モチベーションもあがってくる。

今後しっかり成長して、少しでも近づけるようにしたいと思わせてくれるお手本のようなレフェリングを見せてくださっている。

ハイライト


DAZN映像 (2021.1.18まで)


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