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WRA 11-1 CWC決勝 FC BAYERN MÜNCHEN vs TIGRES UANL (R Esteban OSTOJICH)

本日は今日未明に行われたFIFAクラブワールドカップ2020決勝 FCバイエルン・ミュンヘン(GER)対ティグレスUANL(MEX)の試合を分析していきたいと思います。

主審はウルグアイのエステバン・オストヒッチさんが務め、副審・第4の審判員・VARまでは南米出身のセットとなりました。(AVARは開催地カタールの審判員でした)

そんな審判団がコントロールした試合を見ていきましょう。本日もよろしくお願いします。

STATS

FC BAYERN MÜNCHEN 1-0 TIGRES UANL
GOAL PAVARD(BAY) 59'

Referee:Esteban OSTOJICH (URU)
Assistant Referee 1:TARAN Nicolas (URU)
Assistant Referee 2:TRINIDAD DIAZ MENDEZ Richard Fabian (URU)
Fourth official:ALVES BATISTA Edina (BRA)
Video Assistant Referee:BASCUNAN Julio (CHI)
Assistant Video Assistant Referee:AL MARRI Khamis (QAT)

19 ATTEMPTS 3
9 ON-TARGET 1
7 OFF-TARGET 1
3 BLOCKED 1
1 WOODWORK 0
4 CORNERS 2
2 OFFSIDES 3
55% BALL POSSESSION 45%

DISCIPLINARY
0 YELLOW CARDS 3
0 DIRECT RED CARDS 0
0 INDIRECT RED CARDS 0
12 FOULS COMMITTED 11

(https://www.fifa.com/clubworldcup/matches/match/400154013/#match-statistics より作成)

オストヒッチ主審のポジショニングについて

両チーム原則的にGKからボールをつなぐことが基本だったために、「DFと」ニュートラルポジションをとることが多くありました。基本に忠実なポジショニングで非常に参考になる部分が多くあったと思います。

そして、予期していないボールロストがあったシーンでのポジションの修正力に

画像1

今回からGIF画像でのポジショニング分析を入れてみました。ご意見有れば教えてください。

7:30頃からのシーンです。

①ティグレスが余裕を持ったボール保持

スライド1

ティグレスがDFからビルドアップしようとしており、オストヒッチ主審は先ほども述べたニュートラルポジションを取っています。このポジションをとることで、ティグレスの攻撃が上手く行った時に最適なポジションで余力をもって監視できますし、今回のような不測の事態が起きても対応ができます。

②ボールロスト⇒カウンター

スライド2

バイエルン19アルフォンソ・デイヴィス選手がティグレスが右サイドに展開したボールをカットしたことで、ティグレスから見たいわゆる「ネガティブトランジション」が起こります。(審判からするとポジティブもネガティブもなくてトランジションが起こると結構ヤバいです。)

そうなると、判定がより重要になってくるエリアがバイエルン側のPA付近ではなく、ティグレス側のPA付近になってきます。そのことにパスを出した瞬間から気づいたオストヒッチ主審は左サイドの方に向けて、ダイアゴナルランを開始します。

なぜ斜めに走るかというと審判業界では対角線式審判法ということが基本だといわれていることにありますが、なぜその対角線式審判法がいいのかについては下記noteにまとめてみましたので、ご興味があればよろしくお願いします!(簡単に言えば良い角度、距離を楽に作れるということにあります。)

そんな背景もありますが、このオストヒッチ主審の動きが秀逸だった理由としては、すぐに直線的に距離を詰めないで、角度を修正しに行ったところです

距離と角度両方がそろわないと判定不能になってしまいがちなことは繰り返し書いてきましたが、どうしてもカウンターだと距離の方に頭が行きがちです。そんな中で斜めに走ったこの動きは非常に勉強になりますし、最終的に修正をした結果PA内にボールが入った時には下の図のような完璧なポジションにいます。

③PA内にクロスが入ったタイミングのポジション(素晴らしい)

スライド5

角度が先ということは頭に入れて、しっかり反復トレーニングしたいものです。

勉強になった or 気になったシーン

3:32 ルイス・キニョネス選手の異議「もどき」への対応 

右サイドでプレッシャーかけたティグレス23ルイス・キニョネス選手がボールを奪うものの、そのボールがタッチラインから出たため、バイエルンボールのスローインとなりました。一度見た感じだと、副審2のヒシャルド・tリニダッド・ディアスさんの判定通りのように見えます。

しかし、マイボールだと感じていたキニョネス選手は不満を示すかのように、ボールを副審のディアスさんの方向に蹴ってしまいます。(ぶつける意図はないように見えます)

その行為を見て、オストヒッチ主審は笛を何度も強く吹いて、非常に近い距離まで寄っていき、キニョネス選手に強めの注意を行います。

カードを出すのは簡単ですが、この時間にそのコントロールをしてしまうと、カードが乱れ飛ぶ可能性が高くなります。キニョネス選手の行為自体は到底容認できないため、カードより少し下の段階のマネジメント方法である「パブリックの注意」を行ったのは素晴らしいマネジメントだったと思います。

南米レフェリーと一括りにするのはあまりよろしくはないのですが、南米出身の方のマネジメントは非常に厳しいことが多く、国同士のレフェリー観の違いというものも見えてきます。

また、今回はスペイン語話者同士の会話ということでやりやすさもあったのではないでしょうか。(ウルグアイ・メキシコはともにスペイン語圏で、キニョネス選手もスペイン語圏のコロンビア出身でした。)

8:36 1stコーナーキックに対するマネジメント

バイエルンが獲得したコーナーキックがこの日最初のコーナーキックでした。このコーナーキックでバイエルンはゴールエリア内に選手を集めて、キッカーもインスイングのキッカーだったこともあり、接触が起こりやすい「嫌な感じ」のする状況でした。

そんな中オストヒッチ主審は選手に声掛けを行いました。1stコーナーであり、言葉は強いかもしれませんが「しょうもない」ファウルで試合を壊したくないという意思が感じられ、非常に勉強になりました。

言い過ぎはうざったいだけですが、1stコーナーかつ接触の起こりやすいシチュエーションで、適切な量・タイミングでマネジメントを行ったのは非常に勉強になりました。

17:44 バイエルン9 ロベルト・レヴァンドフスキ選手はオフサイドか

バイエルン6ヨシュア・キミッヒ選手が見事なゴールで先制したかと思われましたが、VARからオンフィールドレビューをレコメンドされたオストヒッチ主審がオンフィールドレビューをしたうえで、レヴァンドフスキ選手のオフサイドを採用し、ゴールは取り消されました。

このオフサイドの判定は妥当ですし、なんなら副審1のニコラス・タランさんがフラッグアップすべきシーンだったように思えます。

なぜこのレヴァンドフスキ選手がオフサイドになるか競技規則に照らし合わせて、見てみましょう。

まず、レヴァンドフスキ選手がオフサイドポジションにいることは明白です。その中で、オフサイドポジションにいること自体は反則ではありませんので、オフサイドの反則となる行為を行わなければ罰せられることはありません。

その行為として考えられるのが、以下の3つの条文です。

① 明らかに相手競技者の視線をさえぎることによって、相手競技者がボールをプレーする、または、プレーする可能性を妨げる。

② 自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。

③ 相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる。

今回の場合、①のように視線をさえぎる様子はありませんし、②のプレーをしようとしているというよりは「プレーをしようとしない」ために避ける動きがあったように見えるため、③ の相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる行為があったとみなされたと考えられます。

ボールはレヴァンドフスキ選手の間近を通過していますし、ジャンプするという行動でGKのプレーの可能性に影響を与えたと判断されることが多いです。

このシーンは教科書通りのオフサイドシーンだといえると感じます。

37:00 ティグレス10 アンドレ=ピエール・ジニャック選手へのマネジメント

このシーンではジニャック選手がバイエルン19アルフォンソ・デイヴィス選手に遅れてジャンピングアットする形になり、そのときにジニャック選手の手がデイヴィス選手の顔付近に入っていました。

このシーン、笛が遅れて吹かれたことやジニャック選手自身としては接触が小さかったことなどから、なぜ反則なのかといった雰囲気で不満をオストヒッチ主審に示しました。

やられた側のデイヴィス選手からすると、顔に入っているので、非常に「不快感」の大きいファウルです。

このようなやった側は軽微でファウルに不満を持ちがちで、やられた側は顔という不快指数の高めな部位に手が当たる反則は非常にセンシティブですし、マネジメントの腕が大切になるシーンです。

サッカーのマネジメントで重要だと考えているのが、間をとることです。このシーン、不満を示しているジニャック選手に対してオストヒッチ主審は非常に丁寧に対応をしています。

最初は話半分で聞き流そうとしていましたが、しっかり止まって話を聞いてほしいとうながしたところ、ジニャック選手も真摯に向き合ってくれ、最後はオストヒッチ主審のことを軽く触って「分かったよ」という意思表示をしています。

不満を持っている相手に強い態度に出る必要はないシーンでしたので、丁寧にマネジメントをしたことは非常に効果的でしたし、勉強になりました。

オストヒッチ主審はマネジメントが本当に巧みで、勉強になるシーンがたくさんありました。来年のカタールワールドカップにも注目です。

41:16 警告 ティグレス29 ヘスス・ドゥエニャス選手(遅延行為)

40:44にボールがアウトしました。そんな中スローワーのドゥエニャス選手は30秒ほど投げずに、ゆっくりと休むようなしぐさを見せていたためすかさず警告をオストヒッチ主審は示しました。前半で同点のシチュエーションでは厳しすぎる気もしますが、さすがに30秒投げないのは長いので妥当といえば妥当でしょう。

中継映像の関係で、投げるまでどういうマネジメントが行われていたかは不明です。

まとめ

オストヒッチ主審の試合は初めてみましたが、世界にはこんなに優れた審判員がいるんだと世界の広さを感じました。

ポジショニングは本当にお手本通りで、大事な時に非常に良いポジションにいる理想的なポジショニングでした。PA内での判定もよくあり、今後勉強したい動きです。

そして、何より一級品なのがマネジメントでした。適切なタイミングで、適切な間を作り、選手を落ち着かせ、審判としてもやりやすい環境を整えていました。本当にうまいマネジメントです。

そして、判定も前半には違和感のあるシーンがありませんでした。

ポジショニング・判定・マネジメントが完璧だと何も文句のつけようがありません。本当に勉強になりました。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。


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