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新婚旅行の練習をした話

去年の八月、初めて旅行をしてきた。
初めてというのは、『どこに行って、どこに泊まって、何をするのかを初めて自分で全部決めた旅行』という意味で。

わたしがまだ小学生の頃、家族旅行は定期イベントのようなものだった。それくらい頻繁に行っていたように思う。
主に記憶に残っているのは福井県のとある旅館。そこには毎年お盆休みの時期に泊まりに行っていたこともあって、旅館の女将さんに許可をもらい、その敷地内でよく家族でバーベキューをさせてもらっていた。
わたしや弟が大きくなるにつれて予定も合わなくなっていって、それ以外にもいろいろと事情があって、今では家族全員で旅行には行かなくなっていった。

そんな中、去年の七月に入籍したわたしは、その年の秋頃に予定している新婚旅行について悩んでいた。
“旅行”ってなんだ?
自分の中にある旅行の記憶を、一生懸命に手繰り寄せる。
子供の頃に父親にすべて任せていたもの以外には、社会人になってから母親と温泉に一泊したもの、友人にすべて宿や行先を決めてもらっていたもの、そして、七年付き合って入籍した夫とまだ遠距離恋愛をしていたとき、数ヶ月に一回行っていた京都。
京都は旅行というよりも夫と会う目的のために行っていたから、実は観光もそんなにしたことがなかった。
もともと家にいるのが好きな性格で、用事がなければ休日は全く家から出ない生活を送っていたわたしは、このときになってようやく「自分には旅行の知識も経験も少ない!」と慌てだしていた。
一生に一度の新婚旅行。長めに休暇を貰えるように会社に申請もしていた。さて、まずどこに行こうか、とぐるぐる考えているとき、横から母親にぽそっと言われた。

「新婚旅行に行く前に、適当にどこか行ってみたら?」

それは、新婚旅行の練習をするってこと……!?
聞いたときはびっくりしたものの、確かにそうかもしれないな……とすぐに考え直す。何事も練習は大事だ。
練習のためにも、まずは旅行雑誌を買わなければ。
わたしは何事も形から入る人間なのだ。そうして書店へ行き、あまり今まで見たことがなかった旅行コーナーを眺める。色んな雑誌があるなぁ。どこがいいかなぁ、近場がいいよなぁ、としばらく考えて、何冊か手に取って中身を見てみる。どこも楽しそうだな……。

そういえば、まだ遠距離恋愛していた頃は定期的に水族館にデートに行ったなぁ。

二人でいつだったか「新江ノ島水族館に行きたいね!」と話していたことを思い出し、それならばと行先を決めた。
鎌倉だ。
神社・仏閣にあまり興味がないわたしは、鎌倉ってなんか大仏とかあった気がするなぁ程度の知識しかなかった。ただ、旅行雑誌を見てみると『食べ歩きスポット』『海岸沿いのお散歩コース』等、水族館以外にも楽しそうな情報が書いてある。なんか良さそう!

そして雑誌に載っているホテルを予約して、新江ノ島水族館から始まる一日の予定を自分で考える。
本当に大変だった。一日分の予定を全部立てるのって大変! 小学生の頃は何も知らなかったけど、わたしの父親ってすごいのでは?(もちろんそれをサポートしていた母親も)
楽しい気持ちと大変な気持ちが半分ずつ。
初めて立てた予定は、あまり時間に縛られないように行きたい店をピックアップしながら、その場でできそうならしてみたいことをいくつか書き出す、といった曖昧なものになってしまった。
「それでもいいんじゃない?」と夫に言われたので、まぁ、それでよしとした。

そして、初めて旅行に行ってきた。
新婚旅行の練習旅行は、大成功だった。本当に楽しかった。

新江ノ島水族館は想像よりも広くて見応えがあった。クラゲのエリアが本当に綺麗で、パンフレットやTwitterで紹介されるだけあって人もけっこう多かった。でも綺麗で、居心地がよかった。
夫がいろんな魚について説明するのも、結婚前のデートから変わらない。楽しく聞いているのだけれど、なぜか水族館を出ると頭からすっぽりと抜けてしまう。忘れてしまったわたしは、また同じ説明を夫にしてもらい、その度に「へぇ~!」と楽しそうに聞くんだろうなぁ。

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水族館のあと、江ノ島まで歩いたが八月だったこともあって日差しがかなり強かった。日傘があって助かった。予約しないで行った海鮮丼のお店は二時間待って、ようやく食べることができた。暑さと空腹で思わずむっとしたけれど、海鮮丼を前にするとわたしの機嫌も直って、夫はホッとしていた。
なぜ予約しなかったのかというと、水族館を何時に出るのか予想ができなかったからだ。ご飯を食べる予定を後に入れておかなければ、ひとつの水槽前で同じ魚をずっと眺めているし、なんなら平気で夜まで水族館にいられるのだ。

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遅めの昼食を済ませて、江ノ島電鉄に乗った。
鎌倉駅まで乗ってしまってもよかったけど、「夕方の海沿いを歩くのもいいな。そういえば旅行雑誌にも、『海沿いのお散歩コース』が載っていたっけ」と、そんなことを思い出し夫に途中下車を提案すると「いいね」と言ってくれたので、七里ヶ浜駅で降りた。

あんなに強かった日差しは落ち着いていて、それでも日向を歩くと少し暑かった。海が見えるところまで行ってみると、潮風が気持ちよくて思わず「おー!涼しい!」と声を出していた。

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ただのサンダルで砂浜を歩くと、足が深く砂を踏んで、サンダルごと砂だらけになっていた。それでも何だか楽しくて、しばらくそこで波を見たり砂を踏んだりして過ごした。
そして稲村ケ崎駅まで海沿いを歩いて、その頃には疲れもピークに達していたため再び江ノ島電鉄に乗った。
鎌倉駅で降り、時間を見るともう夕食のために予約したお店の時間が迫っていた。昼食が遅かったこともあって、「お腹そんなに空いてないね」と笑いながらお店に入ったけれど、美味しくてぺろっと食べてしまった。
鎌倉って本当に、お魚(特にしらす)が美味しい。

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夕飯を食べた後は予約していたホテルに向かった。
思っていたよりも静かで落ち着いたフロントと、部屋へ向かうときに開いたフロアの扉がSF映画みたいな扉の現れ方をしてテンションが上がった。うまく言語化できないが、面白かった。宿泊者以外の侵入を許さないような感じで。
ビジネスホテルとして存在しているらしいそのホテルは、そこそこの値段でもかなりの満足感があった。ちょっとしたソファがあって、テレビも結構大きくてだらだらと過ごせて最高だった。
部屋の窓は大きくて、そこから夜の鎌倉が見える。「なんか夜の鎌倉ってお洒落だね~」なんて適当な感想を言いながら外を眺めるのも楽しかった。

朝は割とすっきり起きられた。旅行先だと落ち着かなくて眠りが浅い時もあるのだが、いい具合に疲れていたのでちゃんと眠れた。
あとは帰るだけ。
でも帰る前に、せっかくだから小町通りで食べ歩きなんてしてみたいよねと夫と話し合い、軽く小町通りを歩いた。

甘いものを中心にいろいろと食べて、暑かったし遅くなる前に帰ろうということで電車に乗って帰った。
なんだかちょっと名残惜しかった。旅行から帰るときってなんでこんなに寂しくなるのだろう。
帰りの電車の中では何度も二人で「楽しかったね、また行きたい!」と話した。自分でいうのもあれだが、わたしが計画した今回の旅行は始まりから終わりまで楽しかった。自分で計画を立てたからか、達成感もあった。旅行ってこんなに楽しいんだ、と思った。
途中から、新婚旅行の練習だということも少し忘れていたくらいだった。

これがわたしの夏の思い出。多分、一生忘れない。

実はこの新婚旅行の練習をしたという日記、家に帰ってきてから大体一週間後に書き始めたもので、本当なら去年のうちに公開するつもりだった。
でも書きたいことが多すぎて、楽しかった気持ちが溢れて、文が踊りすぎていた。
結果、書き終えるのに一年もかかってしまった。
夏の思い出を、一年越しとはいえ夏に書き終えることができてよかった。

新婚旅行についても、いつか書けたらいいな。


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