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【長崎県】黒瀬観音堂

場所:長崎県対馬市美津島町黒瀬
時代:統一新羅(8世紀)、高麗末期(12世紀)

対馬を訪れたのは2021年12月。古代から大陸文化の橋渡しをしてきた中継点として、長い歴史を感じることができる場所なので、長年行きたいと思っていた。しかし対馬までの交通費を考えると、それまではつい海外に足が向いてしまっていた。コロナがきっかけで国内旅行を考えたところ、今なら韓国人の旅行者もいない対馬を選んだ。往路は福岡空港からの空路、帰路は厳原港からジェットフォイルで博多までという行程。とても小さい対馬空港でレンタカーを借りて、北から南まで各所の史跡巡りをして楽しんだ。

黒瀬観音堂外観
黒瀬観音堂の案内板

黒瀬観音堂というのは、美津島町黒瀬にある古い仏像を安置しているお堂である。黒瀬は入り江になっている海辺の小さな集落で、対岸には古代の朝鮮式山城である金田城跡(7世紀後半)が見える。お堂の建物は新しくしっかりした造りで、扉の鍵は近所の人が保管している。仏像を拝観したいので、対馬市役所の文化財課に問合せして、鍵の管理人さんを紹介していただいた。管理人さんには直接電話して、拝観日時を打合せして訪問。管理人さんによれば、黒瀬はとても小さい集落なので、私が着いたことは車の音でわかったそうだ。
残念なことに対馬は韓国から近いがゆえに、また田舎ゆえ寺社の防犯管理が甘いので、韓国人の文化財窃盗団の標的になっていた。同じく対馬にある観音寺というお寺で盗まれた仏像が韓国内で押収された事件があったが、これで返還されるかと思いきや、韓国の浮石寺という寺の住職が、これはその昔倭寇によって略奪されたものだというトンデモ主張をした挙げ句、返還すべきでないという理不尽な未だ未解決の一件があったことからも、厳重な防犯保管体制が望まれる。かといって自治体の予算も限られているため、ここの管理人さんのような地元の有志の方のご協力があって、こうして拝観することができるのである。

堂内に安置された仏像2体
銅造如来坐像 (8世紀)
銅造菩薩坐像 (12世紀)
左:仏像の台座など、右:復元された仏像

さて、堂内には2つの仏像が安置されていて、ひとつは統一新羅時代(8世紀)に制作された銅造如来坐像(国重要文化財)で、もうひとつは高麗末期(12世紀)に制作された銅造菩薩坐像(町指定有形文化財)で、どちらの像も高さ50cmほどの小さめの仏像である。仏像に詳しいわけではないので専門的な話はできないが、古い方の如来坐像はいわゆる一般的な仏像であるが、もうひとつの菩薩坐像はいかにも朝鮮仏といった一風変わった風貌をしている。像の表情や服装、冠も独特で、おそらく日本国内では対馬の他に例がないのではないかと思う。ちなみに対馬に現存している朝鮮仏は、だいたい100体ほど確認されているらしく、それらは京都や奈良の有名寺社の仏像と違って、地域集落の人々に根ざした信仰の中で代々守られてきたものである。

黒瀬対岸の金田城
黒瀬観音堂の位置 (対馬中部)


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