「音楽で描く世界地図 〜アンセムプロジェクト Road to 2020」を聴いて

日時:2018年2月20日(火)13時半開演
場所:東京オペラシティコンサートホール
演奏:山田和樹 指揮、東京混声合唱団、ピアノ 萩原麻未

久々の合唱の演奏会。とても楽しかったです。
人の歌声、それも大勢の人の声が合わさって生み出される音楽の魅力をたっぷりと味わえたひとときでした。合唱の豊かで繊細な響き、ピアノの柔らかく細く美しい音色、そして指揮の身振りの綺麗なこと。みんな楽しそうだった。

第一部は「音楽で描く世界地図」、地球上の各地域から七ヶ国の国歌と愛唱歌が選ばれて、音楽の翼に乗って地球の旅に出かけました。第二部は「ヤマカズ&東混 夢の旅へ 〜愛唱曲集より〜」、子どもの頃から知っている曲がほとんどで、それぞれの歌に思い出があり、懐かしかった。

第一部の最後に演奏されたコモロ連合国の歌「ライオンは寝ている」を、最後のアンコールで団員の方たちが客席に降りてきて聴衆に混じって歌ってくれたのがとても嬉しかったし、超絶楽しかったです。ありがとうございました。歌の終わりには森の様々な響きを模した音声が会場に広がって、演奏会の締めくくりが、同様に自然の音響を声で表現した第一曲目、オーストラリアの「コンダリラ」(滝の精)の冒頭と円環状につながった気がしました。
また第二部最後の二曲、「心の瞳」と「翼をください」はとても綺麗で感動しました。「翼をください」のサビ部分や最後の伸ばされた音の響きが澄んでいながらあたたかく、また「心の瞳」の出だしは透明な音質がすーっと揃っていて、あの響きを宝物のように記憶の中にしまっておきたいな。

曲によって歌い方から声の出し方、声質までがガラリと変化し、それによって違う世界が現れるのが面白かった。例えばアメリカ合衆国国歌を歌う時はあえて声質や音程を揃えず、微妙にずらしたりする。そうすることによって独特の響きが生まれ、多くの声がぶつかることで大勢の人が歌っているように聴こえるし、それぞれ独自の背景を持ち様々な環境にある人々が歌っていることが感じられて、アメリカ合衆国という国の成り立ちや特色、個性や気質が想像される。アルゼンチン共和国の国歌やピアソラの「天使の死」もまた独特な歌い方で面白かった。国歌はいかにもラテン系の人々が例えばサッカーの試合などで歌っているような雰囲気、ピアソラは声に色がついているというか、ひねりが加えられたような発声だった。

一曲目「コンダリラ」は声が会場の上下左右色々なところから聴こえ、森の中にいるかのような感覚。ホーメイに似た、倍音を多く含む声をはじめ喉や口から多様な音響が生み出され、とても面白かった。オーストラリアのアボリジニの音楽に着想を得た作品だそう。そして二国目にインドネシアに行ってくれた!国歌はやさしい歌いぶりで明るく響き、聴いていてとても嬉しく幸せな気持ちになりました。それからシェーファーの「ガムラン」、これは客席の左右と舞台上の二手、合計四箇所に分かれての演奏。ゴングの音を模した低音の響きが綺麗だった。人の声のような、楽器の音のような、不思議な音響。音程も平均律ではなくガムランのペンタトニックに近く、アカペラでよくこの音程が取れるなと思いました。

歌い方によって各曲の作品世界を表現する手法は第二部でも同様に用いられていて、例えば一曲目の「気球にのってどこまでも」は音節の輪郭を明瞭に発音し、活き活きとした感じを表すのに対し、次の「瑠璃色の地球」は言葉の輪郭が柔らかくなって音と音のつながりに重点がおかれているよう、発音もより深く聴こえ、それによって広がりや奥行きのある世界が感じられた。気球で手拍子で参加させてもらえたのは楽しかったです。

三曲目が終わった後のMCで山田和樹さんが「第二部のプログラムは気球、そして瑠璃色の地球、三善晃さんの地球へのピクニックときて」と言ったので、今日は地球をテーマにした曲を並べましたとか(第一部は世界各地の歌だったし)、何かかっこいいことを言うのかなと思ったら「これはみんな “きゅう” で韻を踏んでいるんですが」とふざけたことを言ったのでずっこけて笑ってしまった。すみません。でもその後で坂本九さんの歌った「上を向いて歩こう」「心の瞳」をやったので本当にきゅう尽くしだったのである。(アンコールは武満徹さんのやはり地球をテーマにした「○と△の歌」だったし。○も “きゅう” だ)それからオズの魔法使いの「虹の彼方に」も歌われましたが、虹も球ではないけれど円だし、虹の七色は第一部の七ヶ国と数的に呼応するなあと思いました。

山田和樹さんの、団員に対する要求の高さ、そしてそれに応える団員の方たちの音楽的能力の高さと熱意はすごいと思ったし、お互いへの深い信頼があるからこそできることなのだろうなとも思いました。また、MCでも世代を超えて受け継がれていく歌があることの大切さを仰っていて、そのような歌を絶やさず歌い継いでいくことへの使命感なども背景にあってのこのプログラムなのか、と心を打たれました。小さい子からお年寄りまでが一緒に歌えて、歌うことによって心が通いあったり楽しくなれて、人の数だけその歌にまつわる思いがある、そんなふうに様々な人が共有できる歌がたくさんあったら素敵だな。

指揮者の山田和樹さん、団員の皆様、ピアノの萩原麻未さん、みんなとても素敵で格好良かったです。幸せなひと時をありがとうございました。


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