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深遠なる"Avant-Prog"の世界にダイヴせよ

 1970年代中盤以降、プログレッシブ・ロックはパンク・ムーブメントの到来によって衰退の一途を辿っていったが、それでも酔狂なミュージシャンはいるもので、プログレというジャンルに属する音楽は未だに発表され続けている。その中でも自分が特に好きなのが「アヴァン・プログ / Avant-Prog」だ。Wikipediaの項目は英語版の直訳でやや分かりにくいが、簡潔に言えばカンタベリー系RIO系の影響下にある、プログレの中でも特にアヴァンギャルドな音楽」を指すジャンルがアヴァン・プログである。このジャンルに括られるバンドは数ある新鋭のプログレバンドの中でもとりわけディープな連中で、「変わった音楽を聴いてみたい」と思っている方にはうってつけといえよう。今回はそんなアヴァン・プログの中から自分の好きなバンドをいくつか紹介していこうと思う。

 Bandcampに作品があるバンドについては最新作のリンクを貼っている。中には全編無料で試聴可能なアルバムもあるので、もしこの記事を読んで少しでも気になったバンドがあればぜひリンク先から聴いていただきたい。


Thinking Plague

 アメリカのアヴァンロックバンド。同時期に活動していた5uu'sMotor Totemist Guildなどと共に北米レコメン系の中核を成す重要グループ。その音楽性はレコメン系の始祖であるヘンリー・カウ / Henry Cowの後進バンド、アート・ベアーズ / Art Bearsの影響下にあり、シリアスにして重厚な曲展開やコケティッシュな女性ボーカルを特徴とする。この路線は90年代から現在に至るまで度重なるメンバーチェンジを経ているにも関わらずほぼ不動であり、従って作品の安定感はかなりのもの。最新作は2017年作の「Hoping Against Hope」。本作でも変わらず緻密かつ奇妙なアンサンブルを構築している。


5uu's

 Thinking Plagueと並ぶ北米レコメン系の雄。時期によって作風がかなり違い、ニューウェイヴ調のアヴァンロックからチェンバーロックに移行していく第1期(「Point Of Views」)、トリオ編成で「レコメン・ハードロック」とでも言うべき独自の音楽性を志向した第2期(「Hunger's Teeth」「Crisis In Clay」)、実質的にドラマーのデイブ・カーマンのソロプロジェクトと化し、アート・ベアーズ直系の極めて硬派な音楽性に変貌を遂げた第3期(「Regarding Purgatories」「Abandonship」)に大別される。このうち主に評価が高いのは第2期で、主要メンバーが三人とは思えないほど異様に密度が濃い演奏と邪悪なエネルギーに満ち溢れた楽曲はこの界隈でも屈指のクオリティを誇っている。ベーシストのボブ・ドレイクのハイトーンボーカルはイエス / Yesジョン・アンダーソンを彷彿とさせる所もあり。現在は活動していない。


Far Corner

 アメリカのジャズロックバンド。キーボードトリオにチェロを足したシンプルな編成で、ジャズロックにチェンバー要素を混ぜ込んだような音楽性を志向する。ハモンドオルガンが活躍するためエマーソン、レイク&パーマー / Emerson, Lake & Palmerを思わせる瞬間もあり、所謂「暗黒チェンバーロック」は苦手という方でも聴きやすいバンドだと思う。最新作はバンドにとって11年ぶりの作品となった2018年作の「Risk」。これまでの作品で散見されていた冗長な場面をバッサリと削ぎ落とし、約60分に渡ってエネルギッシュな演奏を貫き通す意欲作。


Schnellertollermeier

 スイスのロックバンド。トリオ編成で、執拗なリフレインを主軸に据えた謎めいた音楽性を持つ。この辺りの音楽はもはやプログレの文脈では語り切れず、自分の語彙の少なさ故に適切な紹介が出来ないのが歯痒いが、ミニマル・ミュージックにも通底する曲調は聴いていて単純に心地良い。モノクロめいた色彩の音なのに案外聴きやすいのが不思議でもある。最新作は2017年作の「Rights」。ポリリズミックなリズムの饗宴に思わず酩酊してしまう傑作。なお、特徴的なバンド名はメンバーのファミリーネームを繋げたものである。


Yugen

 イタリアのアヴァンロックバンドにして現代プログレの最高峰の一つ。このバンドの作品は十数名以上のミュージシャンによって制作されており、複雑極まりない楽曲が一糸乱れぬアンサンブルで奏でられる様は圧巻の一言。フランク・ザッパのファンとしてはヴィブラフォンが前に出る場面が多いのも見逃せない。最新作は2016年作の「Death By Water」。目眩がするほどアヴァンギャルドな作風の中にあって叙情的な場面がふと現れる構成が素晴らしい傑作。とにかく1曲目「Cinically Collect」のテンションが尋常ではないのでこの曲だけでも聴いて欲しい。ちなみにバンド名の由来は日本語の「幽玄」らしい。

 なお、Yugenが所属するレーベル「AltrOck Productions」には才能溢れるバンドが多く集まっており、このレーベルからアヴァン・プログを探求していくのも一つの手だろう。


Loomings

 Yugenの人脈と繋がりがあるバンドとしてはNot A Good SignSkeなどが挙げられるが、このLoomingsはYugenのパーカッション奏者を中心に結成されたバンドである。1stアルバム「Everyday Mythology」はまだ音が未整理な印象だったが、2019年作の2ndアルバム「Hey Weirdo!」ではこのバンドの持ち味である男女混声コーラスやヴィブラフォンが適切に配置され、ケオティックな展開がやや減退した代わりに親しみやすさを得た好作品に仕上がっている。個人的にYugen人脈のバンドはシンフォニックな要素が強い傾向にあるのが玉に瑕なのだが、そんな中でLoomingsの奇妙なノリの音楽性は異彩を放っており好ましいと思う。恐らくまた数年後になるのだろうが、次作の発表にも期待している。


miRthkon

 アメリカのアヴァンロックバンド。二管をフィーチャーしたいかにもアメリカらしいごった煮音楽で、屈折してはいるものの比較的分かりやすく格好良い音楽性を志向しているため、アヴァン・プログの入門にも適したバンドだと思う。「Banana」という曲ではその名の通り「バッナナー!」と歌うなど、ザッパめいたギャグ要素もあり。最新作は2013年作の「Snack(s)」。骨のある内容であることは前提の上で個人的な意見を述べると、この界隈はとにかくメインストリームの逆を張るバンドが多いので、ストレートな音色で弾きまくるギターや若々しい男性ボーカルといった要素がむしろ新鮮だったりする。


Humble Grumble

 ベルギーのアヴァンロックバンド。アッパーかつユーモラスな音楽性が特徴で、特に「変さ」にかけては他のアヴァンロックバンドの追随を許さない。そしてこの手の音楽をあえて志向するだけあり、メンバーの技量も並ではない。最新作は2013年作の「Gizzle It Up!」。3曲目「Accidentally In San Sebastian」の47秒からの展開が奇天烈過ぎて笑えるのでぜひ試してみて欲しい。バンドは現在も活動しているようなので、そろそろ新譜にも期待したい所。


Homunculus Res

 イタリアのカンタベリー・ロックバンド。一見矛盾しているようだが、カンタベリーという地に縁がなくともカンタベリー系の音楽性を受け継いだミュージシャンは現代にも存在しており、Homunculus Resもそうしたバンドの一つである。とはいえ彼等は既存のバンドのエピゴーネンに終始しているわけではなく、シチリア島出身らしく爽やかで透明感のある豊かな音楽性を確立している。最新作は2018年作の「Della Stessa Sostanza Dei Sogni」。キラーチューンこそ見られないが、楽器の音色や緩急の効いた展開など随所にセンスの良さが感じられる逸品。


Setna

 フランスのジャズロックバンド。架空の言語「コバイア語」を用いた呪術的なパフォーマンスで知られるバンド、マグマ / Magmaの影響下にあるグループは「Zeuhl系」と称されており、彼等の音楽性もその流れの中にあるが、カンタベリー系の叙情性にも通じるZeuhl系の「静」の面をフィーチャーした楽曲はフォロワーの中でも確かな存在感を放っている。最新作は2013年作の「Guerison」。上記の動画でも演奏されている「Triptyque I」は終盤高まっていくヴォカリーズがあまりにも美しい名曲。

 ちなみにバンドの公式サイトではザッパのカバーメドレーが無料でダウンロード出来るので、興味のある方はぜひ一聴されたい(ダウンロードページはこちら)。


PoiL

 フランスのアヴァンロックバンド。巷では「フランスのサムラ・ママス・マンナ / Samla Mammas Manna」とも称されているらしいド変態のキーボードトリオで、異様としか形容しようのないコーラスが強烈な印象を残す。2018年にはniというバンドと合体した「PinioL」として作品を発表するなど、現在進行系で精力的に活動しているのも頼もしい。最新作は2019年作の「Sus」。1曲目「Sus La Peira」の激しく繰り広げられる演奏がスッと引いて謎めいた囁きコーラスに突入する展開はブッ飛ぶこと間違いなし。


Nicotina Es Primavera

 アルゼンチンのジャズロックバンド。バンドのバックグラウンドはよく把握していないが、トランペットとフルートをフィーチャーした豊潤な音楽性はプログレファンにもアピールするはず。清涼感溢れるクリアなサウンドからはカンタベリー系のミームを感じなくもない。最新作は2018年作の「Perder Planetas」。個人的に即興はあまり得意ではないのでそうした展開が続くとややダレてしまうが、構築されたパートの素晴らしさが帳消しにする。2曲目「Huesos Jueves」で演奏が走り出す瞬間が非常に格好良い。

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