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プログレ雑記 Vol. 1

「Exiles」=キング・クリムゾン説

My home was a place by the sand
Cliffs and a military band
Blew an air of normality

 キング・クリムゾン / King Crimsonの楽曲「Exiles」はタイトル通り「放浪者」について歌った曲だが、この放浪者とはキング・クリムゾンというバンドのメタファーではないかと思っている。

 根拠となるのは上記で引用した最後の歌詞である。これを雑に訳すと「私の家は砂浜の近くにあった / 断崖 / 軍楽隊はいつもの調べを奏でていた」といった具合だが、"air of normality"は「普通の音楽」とも解釈出来る。それはすなわち、アートロックやプログレが音楽シーンに登場する前の、ラジオで流れるような耳触りの良いポップソングの隠喩ではないか。そう考えると、"military band"も型に嵌ったバンドを形容しているように思えてくる。となれば、そこから決別して旅を重ねてきた放浪者とはまさしく「先進的なロック」を追求してきたキング・クリムゾンそのものではないだろうか。

 「Exiles」が収録されている「Larks’ Tongues In Aspic」はリーダーのロバート・フリップが自分以外の全メンバーを入れ替えて制作した最初のアルバムであり、ここからバンドは孤高の領域へと突入していくこととなる。「Exiles」の作詞者はこの時期のキング・クリムゾンの歌詞を書いていたリチャード・パーマー・ジェイムスで、彼はバンドのメンバーではないのだが、メンバーの大半を振り捨ててなお活動を続けるキング・クリムゾンの求道者めいた姿から、何らかのインスピレーションを得た可能性も皆無ではないように思う。


「Tarkus」が意味するものについて

 エマーソン、レイク&パーマー / Emerson Lake & Palmerの2ndアルバム「Tarkus」のジャケットには表題曲のイメージとしてアルマジロ型の戦車が描かれており、しばしばパロディの対象となっているが、タルカスがこのような機械獣めいた姿をしていることにはそれなりの理由があると考える。

 内ジャケットのイラストにおいて、タルカスは自分と同じ機械獣を次々と屠っていくが、唯一生身の身体を持つマンティコアには敗北を喫し、目を刺されて海へと逃げ帰っていく。ここで重要なのは、マンティコアが生身の身体を持っていることである。思うに、タルカスを始めとする機械獣は人間が築き上げた科学文明の象徴であり、マンティコアは自然の象徴なのではないか。アルバムが発表された1970年という時代を鑑みると、機械獣の頂点に立ったタルカスをマンティコアが退けるという展開は、どんなに人間の強欲が調和を乱しても、最後には自然が打ち克つのだという一つのメッセージだったのではないかと思う。そう考えれば、後にELPが立ち上げたレーベルの名前が「Manticore Records」なのも納得がいくではないか。

Had you talked to the winds of time
Then you'd know how the waters rhyme
Taste of wine

 また、「Tarkus」の歌詞は恐らくメンバーのグレッグ・レイクの古巣であるキング・クリムゾンの1stアルバム「In The Court Of The Crimson King」を下敷きにしている。例えば上記で引用した"Had you talked to the winds of time"という歌詞は「I Talk To The Wind」を想起させるし、他にも"Will you know how the seed is sown?"という歌詞は「Epitaph」の"Between the iron gates of fate / The seeds of time were sown"を受けての表現のように思われる。形骸化した儀礼や荒廃した世界を描いているのも同じだ。故に、レイクがライブで「Tarkus」の演奏中に「Epitaph」を引用するのも単なるファンサービスというだけではなく、そこには確かに必然性が存在するのである。


「If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You」と「Freedom Jazz Dance」

If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You / Caravan

Freedom Jazz Dance / Eddie Harris

 パクリ云々という矮小な話がしたいわけではないが、キャラヴァン / Caravanの楽曲「If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You」エディ・ハリスのスタンダード・ナンバー「Freedom Jazz Dance」のイントロと似ているように思う。もっとも前者は7拍子で後者は8拍子だが、変拍子の鬼として知られるトランペット奏者のドン・エリスは「Freedom Jazz Dance」を7拍子に変えて演奏している。

Freedom Jazz Dance / Don Ellis

 ……似ているのでは?

 キャラヴァンを擁するカンタベリー・ロックシーンはジャズの影響下にあることがしばしば指摘されるが、この曲もその一例であるといえるだろうか。しかしキャラヴァンは「Freedom Jazz Dance」という曲それ自体よりも、むしろドン・エリスの積極的に変拍子を取り入れるプログレッシブな姿勢にこそ影響を受けたのではないかと思う。妄想に過ぎないが。

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