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フランク・ザッパの非公式ライブ録音を聴く

 フランク・ザッパは偏執的なファンを多く抱えているからして、非公式のライブ録音も多く出回っている。この記事では、自分がネットの辺境で聴いた録音の中で良かったものの感想を書いていく。選定基準は以下の通りで、一般(限りなく狭い界隈だと思うが……)には「名盤」とされているものも取り上げていない可能性があることに留意されたい。逆に、ここに取り上げられていない中で聴く価値のある録音があればぜひご教示いただきたい。

・音質が良く、音の定位も安定しているか
・ライブの全貌、あるいは大部分を捉えているか
・ザッパ史において貴重と評価出来る録音であるか
・「資料的価値」を超えて何度も聴ける録音であるか
AUD:オーディエンス録音
SBD:サウンドボード録音
FM:ラジオ録音
min:収録時間
ex) A:音質(参考程度)


1967 09 30 Stockholm, Sweden

FM 40min A+

 オリジナル・マザーズ期の録音。この録音を収録したブートレグ(海賊版)が「'Tis The Season To Be Jelly」というタイトルで出回り、ザッパによるブート潰しを目的とした「Beat The Boots」シリーズでも取り上げられたため、知名度はかなり高いと思われる。年代こそ古いがFM録音だけあって音質は良い。

 この日はセットリストが面白く、前半はオリジナル曲にザッパが敬愛するストラヴィンスキーやオールディーズ、当時のヒット曲を交えて演奏している。何しろオリジナル・マザーズなので演奏は大分牧歌的……というかヘロヘロで、特にThe Supremes「Baby Love」のコーラスはかなり笑える。ツアーにはあまり参加しなかったとされるレイ・コリンズのボーカルも聴ける。後半は「King Kong」と「It Can't Happen Here」のメドレーで、最後はノイズを垂れ流して終了。

 余談だが、この日ザッパはかなり体調が悪かったらしい。そう聞くと冒頭のMCも何だか元気がないような気がする。


1968 10 26 Paris, France

SBD 50min A+

 セットリストは見慣れた曲ばかりだし、インプロヴィゼーションの途中という半端な位置から始まる録音ではあるが、60年代にしては音質が非常に良い。もっとも、今となっては同じく1968年の公式ライブ盤「Road Tapes, Venue #1があるので貴重さは幾分下がったかもしれないが……。

 20分以上の「King Kong」では第二テーマ(公式盤では「Ahead Of Their Time」で聴ける)も演奏している。きちんと検証はしていないが、恐らくこの部分は1968年9月~10月のツアーで付け足されたのではないかと思う。


1968 11 08 Fullerton, CA

SBD 75min B+

「Our Man In Nirvana」という名前のブートが出回ったことで有名な録音(「Beat The Boots」シリーズでも取り上げられている)。音の定位は中央に固まっておりほぼモノラルに近いが、この時期のサウンドボード録音は音が極端に左右に寄っていることが多いので、こちらの方がかえって聴きやすいような気もする。「Sleeping In A Jar」と「King Kong」の途中でカットが入る。

 特筆すべきはワイルド・マン・フィッシャーがゲストで参加していることで、例のパラノイアじみたパフォーマンスを聴くことが出来る。マザーズのメンバーとの絡みはなく独り舞台だが、尺を5分半程度に収めていることもあり結構楽しく聴ける。当時のアングラ路線をひた走るマザーズのステージの様相を垣間見ることが出来るという点において貴重な録音だと思う。

 フィッシャーは実際に精神を病んでおり、ザッパとの関係は彼の愛娘ムーンに瓶を投げつけたことによって終わりを迎えたという。何とも後味の悪い話だが、過去の関わりまでもが無価値になることはないと思いたい。


1970 03 07 Los Angeles, CA

AUD 70min A-

 オリジナル・マザーズが解散した後、ザッパが「Hot Rats」という名前のバンドを率いてギグを行っていた時期のライブ。ザッパ以外のメンバーはドン・シュガーケイン・ハリス、イアン・アンダーウッド、マックス・ベネット、エインズレー・ダンバー。オーディエンス録音でカットも多いが、何しろこの時期の録音はたった二つしか出回っていないため、非常に貴重な内容である。聴き所はやはりハリスの豪快なバイオリンだろう。

「Sharleena」は「The Lost Episodes」に収録されているバージョンと同じアレンジで、ハリスのボーカルも聴ける。聴き慣れないタイトルの「Twinkle Tits」は途中で「The Little House I Used To Live In」のフレーズが引用されるなど、どことなくプロトタイプ感のあるインスト。

「The Hot Rats Sessions」でこの時期のライブが出てこなかったということは、やはり公式の録音は残っていないのだろうか。出来ることならぜひライブの全容を聴いてみたいが……。


1970 05 15 Los Angeles, CA

AUD 100min B/A-

 上記の「Hot Rats」期を経て再結成したマザーズの録音だが、この時のメンバーはレイ・コリンズ、ドン・プレストン、イアン・アンダーウッド、ジム・モーターヘッド・シャーウッド、ジェフ・シモンズ、エインズレー・ダンバー、ビリー・ムンディという公式盤ではお目にかかれない面子。ここに元The Turtlesのハワード・カイランとマーク・ボルマンが合流して、70年代前半のフロ&エディ期(タートル・マザーズ期)へと繋がっていく。

 この録音の目玉は何と言ってもロサンゼルス・フィルハーモニックと共演した「200 Motels」である。これはザッパの曲をメドレー形式で50分以上に渡って演奏したもので、オーケストラの演奏をバックにレイ・コリンズが歌う「Duke Of Prunes」(歌の入りをミスっているが)など、他では聴けないような珍しい演奏が目白押し。残念なことに二箇所カットがあるが、ザッパのファンなら必聴だと思う。

 この日のライブはザッパが録音出来なかったという話をどこかで小耳に挟んだような覚えがある(曖昧)。本当なら非常にもったいないと思うが、それなりに聴ける音質で録音した観客がいたことがせめてもの救いか。ザッパが生前ブートを嫌っていたことを思うと皮肉な話ではあるが……。


🆙1970 11 14 (E) New York City, NY

SBD 45min A+

 フロ&エディ期の録音。「Beat The Boots」シリーズで取り上げられたブート「Freaks & Motherfu*#@%!」「Tengo Na Minchia Tanta」の元音源。音質自体は問題ないがミックスがかなり特殊で、音が極端に左右に寄っている。具体的にはボーカルが左、ドラムがやや右(?)、ツインキーボードがそれぞれ左右、ギターは最初の方は左だが「Pound For A Brown」から右に移る。最終的にはボーカルとギターがそれぞれ左右に位置するので割と良い感じになるのだが、癖の強い音源ではある。

 選曲は歌モノ中心で、フロ&エディのボーカルの調子が良く聴いていて気持ち良い。ただしアーリー・ショーということもあり演奏時間はかなり短く、最後は「King Kong」のテーマのみを演奏して終わる。


🆙1970 11 14 (L) New York City, NY

SBD 70min A+

 フロ&エディ期の録音。「Beat The Boots」シリーズで取り上げられたブート「Freaks & Motherfu*#@%!」「Tengo Na Minchia Tanta」の元音源。こちらはレイト・ショーだがミックスは上記のアーリー・ショーとはまた異なっており、ボーカルが右、ギターが左、ドラムが左、キーボードは最初の方は右だが「Little House I Used To Live In」から左に移る(その後もキーボードは右からも聴こえるので、ツインキーボードを左右に割り振ったのか)。要するにアーリー・ショーと概ね逆に入っている。「Do You Like My New Car?」の途中にカットがあるが、何分寸劇なのでリスニング力に乏しい日本のファンとしてはあまり気にならない(笑)。

 内容は演奏時間が長い分アーリー・ショーよりも充実しており、特に前半の「Little House I Used To Live In」と「Holiday In Berlin」のメドレーは聴き物。「Holiday In Berlin」はボーカル付きの演奏で、ボーカルパートの後に「Inca Roads」のギターソロ以降のメロディの原型が奏でられ、さらにギターソロの終盤では「Easy Meat」のリフが提示される。「What Will This Morning Bring Me This Evening?」はザッパとフロ&エディのモノローグから曲に入っていく展開がシアトリカルで格好良い。後半は「Fillmore East - June, 1971」でも聴ける「グルーピーとヒットソング」を巡る寸劇。


1971 12 04 Montreux, Switzerland

AUD 90min A
Frank Zappa and the Mothers were at the best place around
But some stupid with a flare gun burned the place to the ground
 - Deep Purple「Smoke On The Water」より

 フロ&エディ期の録音。この日はライブ中に会場が火事になり、Deep Purple「Smoke On The Water」の歌詞のネタになったことで有名。残念ながらカットは多いし音の定位もコロコロ変わるが、ザッパ史というよりロック史における文化遺産と言っても過言ではない貴重な録音である。時期的にはツアーの終盤で、演奏のノリは非常に良い。

 火事が起こった後の様子も録音されており、ザッパが観客に対して出口に避難するようアナウンスしているのが聞こえる(ちなみに観客の一人が避難中に「これもザッパのジョークかと思ったよ」とぼやいているらしいが、自分には該当箇所が聞き取れなかった)。


1973 06 25 Sydney, Australia

SBD 130min A/A-

 1973年上半期のツアーの録音。現在はこの時期のライブを収録した公式盤「Road Tapes, Venue #2が出ているが、この録音はトランペット奏者のサル・マルケスが参加している(同年8月のツアーには不参加)のが特徴。「Inca Roads」の途中でカットがある(オーディエンス録音はあるが音質が劣悪)のと、「Farther O'Blivion」のドラムソロの途中から音質がワンランク下がるのがやや難だが、約2時間に渡ってインスト中心の超絶演奏を楽しめる好録音である。

「Over-Nite Sensation」収録の「Fifty-Fifty」はリッキー・ランセロッティのヘヴィメタル風のボーカルが印象的な曲だが、ここではインスト形式で演奏されている。「Yellow Snow Suite」は言わばプロトタイプで、「St. Alfonzo's Pancake Breakfast」が高速で再演されたり、その後にザッパのムーディー(?)な語りが入るなど、「Apostrophe (')」に収録されている完全版とは様相が大分異なる。今では公式盤「The Crux Of The Biscuit」で6月24日の演奏を聴くことが出来る。ちなみに「Father O'Blivion」のボーカルはサル・マルケスが取っていて、がなるような歌い方が格好良い。


1973 10 26 Austin, TX

SBD 80min A+

「Roxy」期の録音。ザッパの非公式録音の中でも音質・内容共に最高峰の一つと言える代物で、この時期のバンドがザッパの全キャリアを通して最強だと思っている自分などは否が応でも興奮せざるを得ない。「Dickie's Such An Asshole」(この日が初演、当時の曲名は「San Clemente Magnetic Deviation」で「Dickie's~」はサブタイトル扱いだった)の途中でカットがあったり、サックスとトロンボーンの定位が定まらなかったりと気になる点もなくはないが、この内容なら十分許容範囲内。


1974 05 12 South Bend, IN

AUD 145min A-

「Elsewhere」期の録音。この時期はマザーズ10周年記念ツアーということで、セットリストの後半で初期の曲を演奏しており非常に珍しいのだが、残念ながら現在まで一公演丸々の公式リリースはなく、非公式録音の質も良くない。その中で比較的聴けるのはこの日(音質の悪さで悪名高いブート「Unmitigated Audacity」の元音源)と5月1日、5月8日だが、

5月1日:音質はそこそこ、演奏のカットもなく比較的聴きやすいが後半の初期曲メドレーの冒頭でノイズが目立つ
5月8日:サウンドボード録音だが音質自体は中の下レベル、曲単位でカットがあり「I Ain't Got No Heart」と「I'm Not Satisfied」が聴けない
5月12日:パリパリ音質、慣れると割と聴けるが二箇所でカットあり

と、どれも一長一短という具合である。今回は「Hungry Freaks, Daddy」の演奏が一番格好良いという理由で5月12日を挙げたが、他と比べて抜きん出て良いというわけではない。公式の録音は残っているはずなので、とにかくこの時期については公式盤を待ちたい所である。もっとも自分は5年前から同じことを言っているのだが……。

 この頃の「Camarillo Brillo」のアレンジは後の時期(1975年4月のツアー以降)とは異なり、"And so she wandered through the door-way~"でテンポが落ちず、ボーカルパートの後にジョージ・デュークのキーボードソロがあった。


1974 09 25 Göteborg, Sweden

SBD 105min A-/B+

「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 2」は1974年9月22~23日にフィンランドはヘルシンキで行われたライブを収録したアルバムだが、その二日後に行われたライブの録音。音質は良くない(この時期のサウンドボード録音は全体的にシュワシュワしている)が、慣れれば聴けないこともないという絶妙なライン。録音は「Stinkfoot」の途中から始まり、「More Trouble Every Day」の終盤で切れる。

 この日はセットリストが非常に珍しい。後に「Sleep Dirt」に収録される「Flambay」がライブで演奏されたのは、ザッパの全ての活動時期を通してこの一回だけとされている。ちなみに演奏の内容も、曲のイントロとして「Zoot Allures」のテーマ(これも初披露)が奏でられ、ナポレオン・マーフィー・ブロックがボーカルを取るというユニークなものとなっている。その他にも「Can't Afford No Shoes」(当時は「Ralph Stuffs His Shoes」という曲名だった)、「Po-Jama People」といったライブでは見慣れない曲が並んでいる。以上の点からザッパ史的にも価値ある録音であり、ぜひ公式で出して欲しい所だが、時期的に「On Stage Vol. 2」と被っているのがネックか。


1974 11 17 Philadelphia, PA

SBD 150min A/A- 

「One Size Fits All」期(「Helsinki」期)の録音。この録音は何と言っても脂の乗り切った1974年バンドの演奏を約2時間半に渡って聴けるのがウリで、「On Stage Vol. 2」でもまだ食い足りないという自分のような中毒者にはうってつけといえる。「St. Alfonzo's Pancake Breakfast」からはシュワシュワ音質になってしまうのが玉に瑕だが、何しろボリュームがボリュームなので致し方ないことだろう。

 この時期のサウンドボード録音の中では、11月27日も音質こそ劣るが長時間の演奏を聴くことが出来る。この時はベーシストのトム・ファウラーが骨折していたため、代役としてJames "Birdlegs" Youmansがベースを弾いている。ちなみに11月23日はMike Urso(ロックバンド「Rare Earth」のベーシスト)が弾いているが、演奏は……流石に急には覚えられなかったか。


1975 05 23 El Paso, TX

SBD 90min A

「Bongo Fury」期の録音。この時期は何と言ってもキャプテン・ビーフハートが参加しているのが最大の特徴だが、実はライブにおいて彼の出番はそこまで多くなく、全体を通して聴くとむしろインストの方が印象深かったりする。音質は荒々しいながらも分離が良く意外とストレスフリーで聴けるが、「Florentine Pogen」の途中で切れてしまうのが少し残念。ちなみにこの日はオリジナル・マザーズのメンバーであるジミー・カール・ブラックがゲストで参加しており、二曲で彼のボーカルを聴くことが出来る。

「Apostrophe'」のライブ演奏は今の所公式盤では聴けないので、初めて聴いた時はかなり新鮮だった記憶がある。ちなみにこの曲は1984年のツアーでもライブのオープニングで演奏されていたりする。「Pound For A Brown」は「Zappa In New York」等で聴けるアレンジで、ビーフハートもハープでソロ回しに参加している。「Apostrophe'」もそうだが、普段は裏方に徹している印象の強いトム・ファウラーがベースをバキバキに弾いていて格好良い。


1976 02 03 Osaka, Japan

Aud 120min A/A-

 伝説の大阪公演。「Black Napkins」(「Zoot Allures」)、「Hands With A Hammer」「Zoot Allures」(「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 3」)、「Ship Ahoy」(「Shut Up 'N Play Yer Guitar」)はこのライブから取られている。オーディエンス録音だが、ギターが左、ボーカルが右に位置しているためステレオ感があってかなり聴きやすい(サウンドボード録音と誤認して紹介している文章を見たことがある)。ザッパが生涯ただ一度来日した際の貴重な記録の一つということで、この手の非公式録音に抵抗がないなら聴いて損はないと思う。

 公式盤に多数のテイクが採用されているだけあり、演奏の熱気は相当なもの。観客のノリも良く、「Hands With A Hammer」(「Chunga's Revenge」のドラムソロ)では「テリー!」と叫ぶ若い女性の声が聞こえる。70年代というと入ってくる情報も今より大幅に制限されていたと思うが、そんな中でもザッパは確かに受容されていたのだと思うと少し感傷的な気分になる。


1979 02 12 Manchester, UK

SBD 135min A+ / AUD 150min B+

 ウォーレン・ククルロ在籍時の録音。この時期のライブは公式盤では「Tinsel Town Rebellion」や「On Stage」シリーズで聴くことが出来るが、一公演丸々の公式リリースは現在までないため、当時のセットリストを追体験出来るという点において貴重な録音である。音質は一部乱れる所もあるが概ね公式盤並で、演奏も素晴らしいの一言。アンコールの途中からはオーディエンス録音に切り替わるが、これだけ内容が良ければ些細な問題に過ぎないだろう。

「Inca Roads」のギターとドラムの絡みはまさに神がかり的。「Shut Up 'N Play Yer Guitar」のギターソロは氷山の一角に過ぎないということか……。「Jumbo Go Away」や「Wet T-Shit Nite」の難解な間奏も軽々と演奏しており、バンドの力量を鮮やかに見せつけられる。アンコールの後半は怒涛のインプロ合戦で、音質こそ大分落ちるものの熱気に満ちた演奏が聴ける。


1979 03 31 (E) München, Germany

SBD 90min A- / AUD 115min A-

「1979 02 12 Manchester, UK」と同じ時期の録音。サウンドボード録音だが所々に歯抜けがあり、一部の曲やアンコールはオーディエンス録音でしか聴けないが、「City Of Tiny Lites」の間奏で「Outside Now」の7拍子のリフが奏でられたり(ベースがリフを弾き始める場面の緊張感が凄い)、「Easy Meat」に「Catholic Girls」が組み込まれていたりと、いかにも過渡期といった感じの演奏があるのがポイント。ちなみに「Joe's Garage」収録の「Outside Now」のギターソロはここから取られている。


1980 05 24 Rotterdam, Netherlands

FM 110min A+/A

 一時的にバンドを脱退していたヴィニー・カリウタの代わりとして、デヴィッド・ローグマンというドラマーが在籍していた時期(カリウタは同年10月~のツアーで復帰)の録音。音質はちょっと分離が良過ぎるきらいもあるが、総じて非常に良い。ザッパを含めて六人という少人数編成で、カリウタも「スタント・ギター」ことスティーヴ・ヴァイも不在という微妙な時期ではあるが、逆にそのシンプルさが新鮮だったりする。短い準備期間でバンドに加入したローグマンに気を遣ったのか、セットリストは歌モノ中心。80年代のバンドを支えたアイク・ウィリスとレイ・ホワイトのコーラスワークもさることながら、アーサー・バロウのベースがメロディアスで良い。


1981 11 17 New York City, NY

FM 160 min A

 通称「Ritz」公演。アル・ディメオラがゲストで参加していることで有名な録音。FM録音で音質は上々(ただし全体的にミックスが左に偏っているきらいがある)だが、その代わり一部の曲が短縮されるなど編集が行われているのが難点(一応オーディエンス録音でその部分を補ったバージョンもある)。「Clowns On Velvet」はディメオラが猛烈にギターを弾きまくる壮絶なインストで、公式で発表しなかったのが不思議なくらいの出来(正確には「Thing-Fish」でバッキングのみ使われているが……)。


1984 11 03 (E) Stony Brook, NY

SBD 95min A+

 1984年バンドは積極的に非公式録音を漁るほど好きなわけではないが、この録音は音質が公式盤レベルで非常に良い。「The Illinois Enema Bandit」の途中で切れるが、そこまでがほぼ完璧なので許せる。時期が時期なので基本的には安定した演奏を繰り広げているが、「Ride My Face To Chicago」ではレイ・ホワイトが歌の繰り返しの回数を盛大に間違えていて笑える。


選外

1973 05 ?? Unknown Date And Location

SBD 70min A

 現在まで具体的な演奏日が明らかになっていない(時期としてはサル・マルケス在籍時にあたる)という曰く付きの録音だが、音質は意外と悪くない。ルース・アンダーウッドのパーカッションの定位が左右に行ったり来たりするなど気になる点もあるが、十分最後まで聴ける。それだけに、「Zomby Woof」の頭が切れていたり、「Dupree's Paradise」のギターソロの途中でカットが入ったりするのが惜しい。

 演奏の内容は「1973 06 25 Sydney, Australia」に比べると全体的にゆったりとした印象。「Zomby Woof」はザッパがボーカルを取っている。「Farther O'Blivion」は「Road Tapes, Venue #2 」のテイクだと25分弱に渡って演奏が繰り広げられているが、ここでは「Be-Bop Tango」のテーマが演奏された後にそのまま「Cucamonga」のテーマへと移行し、8分程度であっさりと終わる。


1978 02 15 Berlin, Germany

SBD 155min A

「Sheik Yerbouti」収録の「Rat Tomago」と「The Sheik Yerbouti Tango」の元となったライブだが、音質が全体的にのっぺりしており、ミックスも左に偏っている感じがするのであまり聴くことがない。個人的にはこの時期のライブにそこまで傾倒していないので、公式盤「Hammersmith Odeon」で事足りてしまうというのもある。


1978 09 03 Saarbrücken, Germany

SBD 75min A-

「Beat The Boots」シリーズで取り上げられたブート「Saarbrücken 1978」の元音源。公式盤では殆ど取り上げられていない時期のライブを荒々しいながらもそう悪くはない音質で聴けるのがウリだったが、「Chicago '78」が出た今となっては大分貴重さが薄れてしまったように思う。とはいえ個人的にはアイク・ウィリスがボーカルを取る「Village Of The Sun」を聴き倒したこともあり、結構好きな録音である。


1992 09 17 Frankfurt, Germany

FM 100min A+

 ザッパが晩年にアンサンブル・モデルンというドイツの室内楽団と行ったコンサートの初日。FM録音で音質はほぼ問題ないが、曲の合間にコメンタリーが挟まるのが難点(その都度飛ばせば良いのだが)。この日はカメラが入っており、YouTube等で映像が見られるので、正直な話そちらを見た方が良いと思う。アンコールの「G-Spot Tornado」(当時のコンサートではアンコールで「G-Spot Tornado」が再度演奏されていた)は映像版には収録されていないので、こちらが全くの無価値というわけではないが……。

 この録音の曲の中で「The Yellow Shark」に収録されていないのは「Overture」と「Amnerika」(後に「Civilization Phaze III」にシンクラヴィア版が収録)。前者は文字通りコンサートの序曲で、神秘的な雰囲気の中で各楽器が音を重ねていく。後者はザッパにしては珍しく感傷的な響きを持つ名曲。曲が終わった後に「None Of The Above」へとシームレスに繋がる展開がスリリングで格好良い。

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