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Frank Zappa「Zappa '88: The Last U.S. Show」レビュー

 フランク・ザッパが1988年に行ったラストツアーにおける、アメリカでの最後の演奏(1988年3月25日)を収録したライブ盤「Zappa '88: The Last U.S. Show」がリリースされた。SpotifyやYouTube等でも聴けるので未聴の方はぜひどうぞ。

 1988年バンドの演奏は、ザッパの生前の作品においては

「Broadway The Hard Way」(1988)
(新曲・社会的なメッセージ性の強い曲中心)
「The Best Band You Never Heard In Your Life」(1991)
(代表曲・歌モノ中心?)
「Make A Jazz Noise Here」(1991)
(インスト中心)

の三枚のアルバムに割り振られた上で発表されていたが、それらは言うなればザッパが企図する通りに再構築された疑似的なライブ盤であり、「生」のライブの様子を伝えるものではなかった。ザッパの没後にはその「生」のライブ盤もぽつぽつとリリースされるようになってきたが、1988年バンドについては今まで手つかずであり、今回のリリースはまさにエポックメイキング……とまでは言いすぎだが、1988年バンドのフルセットのライブを公式盤で聴くことを長年望んできた身としては正直普通に嬉しかった。失礼な言い方だけど、ザッパ家は今回ファンから求められているものを素直に出してきた感がありますよね。

 ……まあ、フランク・ザッパの息子であるドゥイージル・ザッパが参加した「Stairway To Heaven」と「Whipping Post」が別日の演奏(前者は3月23日、後者は3月16日)に差し替えられているという、ザッパの遺族間の確執を匂わせるような編集が行われていたりもするのだが……その辺のノイズめいた事柄は一旦脇に置いておこう。

 1988年バンドの特徴といえば、何と言ってもホーン隊5人を擁する総勢12人のメンバーによるゴージャスな演奏である。ザッパが大編成のバンドを率いた事例は一応過去にもあり、1976年12月のクリスマスコンサートにおける特別編成のメンバーも同様に12人(ナレーション担当のドン・パルドは除く)だったが、少なくとも練度の面では約4ヶ月にも及ぶリハーサルを行ってきた1988年バンドの方に軍配が上がるだろう。普通これだけの大所帯となると、歌モノはともかくアンサンブル重視の曲を合わせるのは相当大変なように思われる(しかも彼等が演奏するのは他ならぬザッパの曲だ!)が、「Inca Roads」のような難曲でも猛烈な勢いでこなしていく様には心底惚れ惚れする。もちろんただ普通に演奏するだけではなく、主にザッパ本人による悪ノリ、特に必然性を感じないシュールなSEの挿入、皮肉っているのか本気でやっているのか微妙なラインを突いてくるカバー曲など、ザッパ・バンドならではのユーモアもたっぷりと含まれている。

 1988年バンドを語る上ではレパートリーの幅広さも欠かせない。1988年バンドのレパートリーはライブで披露された曲だけでも100曲以上あり、実際にはさらに多くの曲を用意していたというのだから啞然とする他ない。当然そのセットリストも日によって全く異なる。近年のKing Crimsonもライブごとにセットリストを変更するというアグレッシブな姿勢で話題となっていたが、流石にここまで来ると若干引いてしまう。

 本作の収録曲にしても、「Love Of My Life」のような最初期の曲から、The BeatlesLed Zeppelinといった往年の名バンドのカバーまで、実に様々な曲を取り上げている。個人的には少しカバー曲の割合が多すぎるような気もするが、この辺はザッパのサービス精神の発露として好意的に受け取っておくべきか。中でも最大の目玉は「The Beatles Medley」だろう。これはタイトル通りThe Beatlesの曲をメドレー形式で演奏したものだが、歌詞が当時性的スキャンダルを起こしていたテレビ伝道師のジミー・スワガートを糾弾する内容に改変されているのが特徴である。長らくブートレグ(海賊版)でしか聴くことが叶わなかったが、今回のリリースによって遅まきながら日の目を浴びることとなった。冷静に考えると別にThe Beatles自体をディスっているわけではないのだが、よく許可が下りたなと思う。また、ジミー・ペイジのギターソロを何故かホーン隊で完コピしていることで有名な「Stairway To Heaven」は、「The Best Band You Never Heard In Your Life」のテイクではレゲエ風のアレンジだったが、ここでは比較的原曲に忠実な(?)演奏となっており、これも一聴の価値あり。変なSEは相変わらずてんこ盛りだが。

 ザッパのオリジナル曲の中では「Packard Goose」が出色の出来。間奏部の「Royal March From "L'Histoire du Soldat"」と「Theme From The Bartok Piano Concerto #3」は「Make A Jazz Noise Here」にて既出だが、曲全体が公式盤に収録されたのはこれが初となる。ザッパが"Music is THE BEST!"と高らかに宣言し、その後にザッパのルーツの一つであるストラヴィンスキーとバルトークの曲が奏でられるという展開は、ベタと言えばベタだがやはり感動的で、1988年バンドの最良の部分が表れた名演だと思う。「Peaches En Regalia」も大編成ならではのダイナミックな演奏が素晴らしい。ホーン隊が入っているということで、全体的には1976年のサタデー・ナイト・ライブでのパフォーマンスを彷彿とさせるものがあるが、後半で素っ頓狂な演奏に切り替わる所は「Tinsel Town Rebellion」収録の「Peaches III」っぽくもあり、ある種折衷的なアレンジになっているのがエモい。

 そんなわけで、自分は本作をとても楽しんで聴くことができた。ザッパの没後の作品はどうしてもコア寄りのファン御用達になってしまいがちな印象だが、このライブ盤はザッパについてあまり詳しくない人でも十分楽しめる作りになっていると思う。「俺はビートルズをふざけた感じでカバーする奴はマジで絶対に許せないぜ」という人には不向きかもしれないが、ザッパはメインストリームの音楽を皮肉りつつも結局パロディをこなせるほどには関心を抱いているツンデレ野郎なので、どうか寛大な心で聴いて欲しい。

 今回は収録曲の個別解説も書いたので暇な人は読んでください。


Disc 1

01. "We Are Doing Voter Registration Here"

 MC。1988年のツアーはアメリカ大統領選挙と同年に行われたということもあり、ザッパはライブを見に来た観客に対して選挙人登録を行うよう呼びかけていた(アメリカでは選挙人名簿に自己申告で登録しなければ選挙人名簿には登録されず、投票資格が生じない)。内容をきちんと聞き取ったわけではないが、多分このMCでもそれに関連することを言っているのだと思う(曖昧)。


02. The Black Page (New Age Version)

曲の初出:「Zappa In New York」(1978)
1988年バンドによる演奏:既出(「Make A Jazz Noise Here」)

 ザッパの代表曲にして屈指の難曲。曲名の由来は楽譜が音符で真っ黒になっていたからだとか。この曲は当初ドラムソロのために作曲されたが、後にバンド演奏版(「The Black Page #1」)が作られ、さらにディスコ調にアレンジされたバージョン(「The Black Page #2」)へと発展し、ライブの定番レパートリーとなった。他にも1981~1982年のツアーではザッパが凝っていたレゲエのリズムが取り入れられたりもした(「On Stage Vol. 5」等で聴ける)が、このツアーではニューエイジ風のアレンジに一新されている。

 上記の通り、このアレンジは既出なので流石に新鮮味はないが、初めて聴いた時は、ドラムソロの時点では複雑怪奇であったフレーズが綺麗なメロディになっていることに驚いた記憶がある。ザッパの面白さの一つとして、同じ曲であってもメンバーやアレンジの違いによって全く異なる表情を見せるという点が挙げられるが、「The Black Page」はまさにその象徴と言っても過言ではないと思う。


03. I Ain't Got No Heart

曲の初出:「Freak Out!」(1966)
1988年バンドによる演奏:初出

 ザッパのキャリアの中では最初期にあたる曲。「俺には与えられる心なんかない」という、デビュー当時のザッパのイジケ具合がよく表れた歌詞が面白い。1980年頃からは懐メロ枠的に次曲とセットで演奏されることが多かった。ここでは「Tinsel Town Rebelion」のテイクと同様に、スピーディーなテンポで演奏されている。


04. Love Of My Life

曲の初出:「Cruising With Ruben & The Jets」(1968)
1988年バンドによる演奏:初出

 これもかなり古い曲。Queenの同名の曲とは無関係。「Greasy Love Songs」には1963年に録音されたテイク(にオーバーダブを施したもの)が収録されている。アレンジはどの時期でも大体同じような感じだが、1980年頃のツアーではカットされていた"Don't make me, don't make me, don't make me lonely"と繰り返す部分が再現されており、「Cruising With Ruben & The Jets」のテイクにより近い演奏となっている。


05. Inca Roads

曲の初出:「One Size Fits All」(1975)
1988年バンドによる演奏:既出(「The Best Band You Never Heard In Your Life」)

 ザッパのプログレ的な側面を代表する名曲。ライブ盤「Roxy & Elsewhere」の元となった1973年12月のRoxy公演の時点ではラウンジ・ミュージックっぽい(?)アレンジだったが、1974年7月頃から「One Size Fits All」のテイク(1974年8月27日のライブ演奏がベーシックトラックになっている)と同じアレンジになり、この時期のバンドの代名詞的な曲として多く演奏された。1979年のツアーでも取り上げられたが、この時はキーボードソロ以降の演奏がカットされていた。このツアーでは1974年と同様に、最初から最後まで完奏されている。なお、後半のソロパートはアルト・サックス奏者のポール・カーマンの演奏がフィーチャーされている。

 この頃のザッパのギターソロは、例えば1979~1980年頃の気迫に満ちたソロと比較するとややとりとめのない場面も散見されるが、バンドの一糸乱れぬ演奏はそれを補ってなお余りあるものだと思う。ポール・カーマンのサックスソロもなかなかの熱演。エンディングのカマしも個人的には好き。

 細かい話だが、本作のテイクも「The Best Band~」のテイクも、ギターソロ後の"Did a vehicle come from somewhere out there"の部分でアイク・ウィリスがつっかえ気味になるのが気になる。もしかして早口は苦手?


06. Sharleena

曲の初出:「Chunga's Revenge」(1970)
1988年バンドによる演奏:初出

「Chunga's Revenge」の最後を飾った名曲。扱いとしては「Chunga's Revenge」と同じスタジオ盤である「Them Or Us」にも再度収録されるなど、ザッパのお気に入りの曲でもあったようだ。1981年のツアーからはレゲエのリズムが取り入れられ、このアレンジは前述の「Them Or Us」や「On Stage Vol. 3」等で聴ける。このツアーでもレゲエ風のアレンジを踏襲。大編成ならではの分厚い演奏が感動的で、ザッパのギターソロも良い。


07.  Who Needs The Peace Corps?

曲の初出:「We're Only In It For The Money」(1968)
1988年バンドによる演奏:既出(「The Best Band You Never Heard In Your Life」)

 初期の怪作「We're Only In It For The Money」収録曲。1970年に再結成したマザーズのライブでインストとして演奏された後は長らくセットリストに載らなかったが、このツアーで十数年ぶりに引っ張り出された。まずこんな相当初期の曲を持ってくることが面白いし、個人的にはこういう意外な選曲をもっと見せて欲しかった。曲のアレンジも良く、ボビー・マーティン、マイク・ケネリー、ザッパが代わる代わるボーカルを取る流れが賑やかで好き。あと、ザッパのボーカルパートで他のメンバーが"Hey dude!"と掛け声を入れる所が妙にカワイイ。


08. I Left My Heart In San Francisco

曲の初出:「The Best Band You Never Heard In Your Life」(1988)
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 アメリカの歌手、トニー・ベネットのヒット曲のカバー。と言ってもここでは前曲のコーダとしてさわりだけ演奏されている。ボビー・マーティンが大袈裟に熱唱し、バンドがコケる。


09. Dickie's Such An Asshole

曲の初出:「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 3」(1989)
1988年バンドによる演奏:既出(「Broadway The Hard Way」)

 ここからは政治的な曲のコーナー。この曲が初めて披露されたのは1973年のツアーで、ウォーターゲート事件について歌われている("Dickie"とはニクソン元大統領のこと)。「On Stage Vol. 3」のテイクではジョージ・デュークとザッパによるソロがかなりの尺を取っていたが、ここではザッパがギターソロを弾くのみでコンパクトな演奏となっている。


10. When The Lie's So Big

曲の初出:「Broadway The Hard Way」(1988)
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 このツアーで初めて披露された新曲。歌詞の中でアメリカの宗教右派や共和党の政策を批判している。テレビ伝道師にしてキリスト教プロテスタント保守派の指導者の一人であるパット・ロバートソンへの言及もあり。

 なお、このテイクは2016年にリリースされた編集盤「Frank Zappa For Presindent」にて既出である。


11. Jesus Thinks You’re A Jerk

曲の初出:「Broadway The Hard Way」(1988)
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 このツアーで初めて披露された新曲。フロ&エディ期を連想させるシアトリカルな曲調が特徴的。曲の中盤でエリック・バクストンというザッパの熱狂的なファンがモノローグを暗唱しており、この部分は「Broadway The Hard Way」にも使われた。ちなみにこのパートは本来アイク・ウィリスが担当していたが、彼がモノローグをなかなか覚えられなかったため、ツアーの途中からはカットされたらしい。


12. Sofa #1

曲の初出:「One Size Fits All」(1975)
1988年バンドによる演奏:既出(「The Best Band You Never Heard In Your Life」)

 ライブ前半の最後を飾るのはこの名曲。スタジオ版の初出は「One Size Fits All」だが、実際には1971年のツアーの時点でボーカル付きで演奏されていた。1976年12月のクリスマスコンサート以降はインストとして取り上げられている。ここではホーン隊を活かした豪華な演奏が印象的。


13. One Man, One Vote

曲の初出:「Frank Zappa Meets The Mothers Of Prevention」(1985)

 1988年のツアーは二部構成となっており、前半が終わった後にこの曲を流していた(他の曲の場合もあったかな?)。ブートレグだと大抵ここでカットが入るが、公式盤なので最後までしっかり収録されている。別にそこまでありがたみがあるわけでもないが。


14. Happy Birthday, Chad!

 MC。この日はチャド・ワッカーマンの誕生日ということで、バンドと観客でハッピーバースデーの歌を歌っている。


15. Packard Goose Pt. I

16. Royal March From "L'Histoire Du Soldat"

17. Theme From The Bartok Piano Concerto #3

18. Packard Goose Pt. II

曲の初出:「Joe's Garage」(1979)
1988年バンドによる演奏:既出(16-17のみ、「Make A Jazz Noise Here」)

 ロックオペラの大作「Joe's Garage」収録曲。スタジオ版の間奏は長尺のギターソロで占められていたが、このツアーでは代わりにザッパが敬愛するストラヴィンスキーの「兵士の物語」より「王の行進曲」、バルトークの「ピアノ協奏曲第3番」のテーマが演奏されている。この二曲は「Make A Jazz Noise Here」に収録されているが、実際にはこれらは「Packard Goose」の間奏として演奏されていたというわけだ。

 先に述べた通り、個人的にはこれが1988年バンドを象徴する曲だと思っているので、本作にこの曲が収録されていることを確認した時点ですでにかなり満足していた。実際聴いてみてもやはり良いなとしみじみ思う。


19. The Torture Never Stops Pt. I

曲の初出:「Zoot Allures」(1976)
1988年バンドによる演奏:既出(「The Best Band You Never Heard In Your Life」)

 ディスクを跨ぐが、ここから「The Torture Never Stops Pt. II」までは組曲仕立てとなっている。この曲は時期によって様々なアレンジが存在するが、このツアーでは突然アップテンポになったり、ザッパの大見得にホーン隊が合いの手を入れたりと、いかにも1988年バンドらしいシアトリカルな内容となっている。


20. Theme From "Bonanza"

曲の初出:「The Best Band You Never Heard In Your Life」(1988)
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 1959年に制作されたアメリカのテレビドラマ『ボナンザ』のテーマのカバー。位置付けとしては次曲への繋ぎといったところで、一瞬で終わる。


Disc 2

01. Lonesome Cowboy Burt

曲の初出:「200 Motels」(1971)
1988年バンドによる演奏:既出(「The Best Band You Never Heard In Your Life」)

 いつになっても再発されないサントラ「200 Motels」収録曲。「The Best Band~」のテイクでは(Swaggart Version)とある通り、歌詞がジミー・スワガート(この人ザッパに悪く言われすぎでは)を風刺する内容に置き換えられていたが、ここでは普通に演奏されている。


02. The Torture Never Stops Pt. II

 再び「The Torture Never Stops」へ。ザッパの長尺のギターソロから始まってボーカルパートに移行し、大団円のエンディングを迎える。


03. City Of Tiny Lites

曲の初出:「Sheik Yerbouti」(1979)
1988年バンドによる演奏:既出(「Make A Jazz Noise Here」)

 何となく色々なライブ盤に収録されている印象のある曲。アレンジも大体同じような感じで、特筆すべきことはあまりない。強いて言えば、ギターソロに入る前に「ホイ!」と掛け声が入るのが好き。「Shut Up 'N Play Yer Guitar」収録の「Variations On The Carlos Santana Secret Chord Progression」(「City Of Tiny Lites」のギターソロの抜粋)にも同じ掛け声が入っていたけど、妙に印象に残るんですよね。


04. Pound For A Brown

曲の初出:「Uncle Meat」(1969)
1988年バンドによる演奏:初出?

 これもライブ盤で頻出の曲。初出の「Uncle Meat」では長閑な雰囲気の曲だったが、1975年のツアーからはプログレ風の切り返しを多用したソリッドな曲調にアレンジされ、ソロ回しの呼び水として長く演奏された。ここでのソロ回しはホーン隊→キーボード→ドラムの順番で、その後はドシャメシャな展開になる。最後の方でギターを弾いているのはマイク・ケネリー?

 ちなみに、「Make A Jazz Noise Here」収録の「When Yuppies Go To Hell」と「King Kong」のソロの一部はこの曲の間奏から取られている。


05. The Beatles Medley

 The Beatlesの名曲「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」「Lucy In The Sky With Diamond」「Strawberry Fields Forever」のメドレー。そういえば三曲ともジョン・レノンが書いた曲ですね(「Norwegian Wood 」は一部ポール・マッカートニーが書いているらしいけど)。前述した通り歌詞が改変されているが、「Lucy In The Sky With Diamond」に載せて"Louisiana hooker with herpes"(ルイジアナのヘルペス持ちの娼婦)とか歌うのヤバすぎでしょ。それでいて演奏自体は結構真面目という。


06. Peaches En Regalia

曲の初出:「Hot Rats」(1969)
1988年バンドによる演奏:初出

 1976年のサタデー・ナイト・ライブでの演奏の動画が出回っていることで、ザッパのファン以外にも広く知られている(と自分は思っている)名曲。2019年にリリースされた「Zappa In New York 40th Anniversary Deluxe Edition」のテイクも同じく大編成の演奏で素晴らしいが、個人的には僅差でこちらの方が上回るか。


07. Stairway To Heaven

曲の初出:「The Best Band You Never Heard In Your Life」(1988)
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 みんな大好きLed Zeppelinの名曲のカバー。「The Best Band~」のテイクとは違いレゲエ風のアレンジではないが、シリアスな演奏を期待すると普通に外すので注意されたい。なんか鳩時計みたいな音も聞こえるし。ただ、ホーン隊によるジミー・ペイジのギターソロの完コピの前にさらにギターソロが入っているのはトッピング全部乗せみたいな展開で格好良い。


08. I Am The Walrus

 The Beatlesの中期の名曲のカバー。この曲は特に歌詞を変えたりせず、至極真面目にカバーしている。それにしてもアイク・ウィリスは歌が上手いなあ。ザッパは「歌詞が下品だからボーカリストがなかなか集まらない」とかぼやいていたらしいけど、何だかんだでどの時期も良い人材が揃っていますよね。


09. Whipping Post

曲の初出:「Them Or Us」(1984)
1988年バンドによる演奏:初出

 The Allman Brothers Bandの代表曲のカバー。ザッパは1974年9月22~23日にフィンランドはヘルシンキでライブを行ったが、そこで観客に「Whipping Post」をリクエストされた(「On Stage Vol. 2」にこの時のやり取りが収録されている)。当時ザッパは曲を知らなかったのでリクエストには応えられなかったが、後にバンドに加入したボビー・マーティンがこの曲を歌えることが判明したため、1981年のツアーから「次にリクエストが来た時に演奏できるように」とセットリストに加えられた。オリジナルはライブだと20分以上にも渡って演奏したりするが、流石にそこまでは再現せずに手堅くまとめている。


10. Bolero

曲の初出:「The Best Band You Never Heard In Your Life」(1988)
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、あのラヴェルの代表曲のカバー。1980年代のザッパお得意のレゲエ調にアレンジされているが、後半はしっかりと盛り上がる。しかし本当に何でも演奏しますねこのバンド。


11. America The Beautiful

曲の初出:「Frank Zappa For President」(2016
1988年バンドによる演奏:既出(同上)

 アメリカの愛国歌のカバー。そういえば、去年のアメリカ大統領選挙ではバイデン氏がレイ・チャールズによるカバーを使用した動画をTwitterに投稿していましたね。ザッパのことだしこういう曲は絶対カマしてくるだろうなと思っていたが、ライブを締めくくるに相応しい感動的な演奏となっている。

 なお、このテイクも「When The Lie's So Big」と同様に、「Frank Zappa For President」にて既出。

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