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Caravan「Caravan」レビュー

カンタベリー・ロック(カンタベリー系)の概要については、「カンタベリー・ロックシーンを整理する」を参照してください。
1st Album
Release Date: 1968
Personnel:
Pye Hastings - Guitar, Vocals
Dave Sinclair - Keyboards
Richard Sinclair - Bass, Vocals
Richard Coughlan - Drums
+
Jimmy Hastings - Flute (4)

 キャラヴァン / Caravanソフト・マシーン / Soft Machineと同じくワイルド・フラワーズ / The Wild Flowersを母体とするバンドであり、この二つのバンドは言うなればカンタベリー・ロックの「第一世代」として礎を築いた存在と位置付けられる。実際、「カンタベリー・ロックシーンを整理する」にてカンタベリー・ロックの音楽性の例の一つとして挙げた「ロックとジャズの融合」は両バンドが共通して取り組んでいた試みであり、そうした挑戦的な姿勢をシーンの初期から示したことの意義は非常に大きいといえよう。もっともキャラヴァンの音楽性はソフト・マシーンに比べれば大分ポップ寄りだが、彼等が自分達のポップセンスを大事に守りつつ活動を続けてきたからこそ、カンタベリー・ロックシーンは衒学的な音楽に堕すことなく普遍的な魅力を持ち得たのだということは今一度強調しておきたい。

 さて、そんな彼等の記念すべき1stアルバム「Caravan」だが、この時点ではまだバンドの個性は確立されておらず、その作風は「プログレ前夜」を思わせるオルガンロックといった趣である。恐らくレコーディングにあまり予算がかけられていないのか、輪郭がぼやけたような音質であること、また全体的に曲のフェードアウトのタイミングが少し早いこともそのイメージに拍車をかけているように思う。

 メンバーの演奏もやや手探り感があり、パイ・ヘイスティングスの軽やかなボーカルにはキャラヴァンらしさを感じるが、デイヴ・シンクレアのキーボードプレイは後の息をするかのように魅力的なフレーズを繰り出す境地にはまだ至っていない。リチャード・シンクレアは後に3rdアルバム「In The Land Of Gray And Pink」ハットフィールド・アンド・ザ・ノース / Hatfield And The Northにおいてノーブルな歌声を聴かせてくれるのだが、本作品では一歩退いた立ち位置にあり、「Policeman」や「Grandma's Lawn」で少し頼りなげなボーカルを披露するに留まっている。

 とはいえ、自分はこのアルバムが凡庸な作品であるとは思わない。先ほどはシンクレアのキーボードプレイを発展途上の段階にあると述べたが、その音色はすでに叙情的な響きを湛えており、「Place Of My Own」や「Grandma's Lawn」といった曲では彼のデリケートな感性がよく表れたオルガンロックを堪能することが出来る。また、「Cecil Rons」におけるホラーテイストな演奏は後年の作品では殆ど聴かれないものであり、彼等の試行錯誤の跡が見えて面白い。そして最後を飾る「Where But For Caravan Would I?」はキーボードソロを大きくフィーチャーした9分の大曲で、この後の路線へと繋がる要素も垣間見える。全体的にダイヤの原石感がある内容であり、最初に聴くアルバムとしてはあまりお勧めしないが、他の作品を通過した後にルーツを探るという意味で聴くのであれば十分に楽しめる佳作だと思う。

PICK UP

04. Love Song With Flute
 タイトル通り、パイ・ヘイスティングスの兄であるジミー・ヘイスティングスのフルートをフィーチャーした佳曲。美しいフレーズを紡いでいるだけに、フェードアウトで終わってしまうのが惜しい。
 ジミーは特定のバンドに在籍してこそいないが、キャラヴァンのみならずソフト・マシーンやハットフィールド・アンド・ザ・ノースといったカンタベリー系のバンドの作品に多く参加しており、その演奏のセンスも相まってカンタベリー・ロックシーンにおける影の立役者的な立ち位置にあるといえよう。

05. Cecil Rons
 不気味な雰囲気を漂わせるサイケロック。この路線の曲は後の作品だと5thアルバム「For Girls Who Grow Plump In The Night」「C'thlu Thlu」くらいか。正直バンドのキャラには合っていないと思うが、サビのメロディは中毒性がある。

08. Where But Caravan Would I?
 本作品唯一の大作。シンクレアのキーボードソロは音色こそシンプルだが決して一本調子にはならず、むしろ万華鏡のように豊かな色彩を感じさせるのが素晴らしいと思う。エンディングの謎めいたリフレインも格好良い。

2nd→

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