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白仙山

自分の足音だけが響く暗闇。

歩く度に自分の居場所が判らなくなりそうな霧の立ち込めた道は緑道だったはずで、気がつけばどこかの森に迷いこんでいた。

「……匂いが変わったと思えば、どんなことでしょうねぇ」

時折、迷いこむことがあると云われていたがまさか自分が体験するとは思ってもみなかった。

霧のもやっとした水と土の匂いから、土と緑の匂いが強くなったと思った時には違う場所へと迷いこんでいた。


「……全て白い」

木々も、動物も、霧が少し晴れて見えたものは全てが純白だった。仙人が住まう山の一つと記述があった山のようだ。

「うつくしい」

うつくしい、と心から思った。

帰れないのでは、なんて思うことは不思議となく。幻想の世界を歩き回り、観察し、どれくらい時間がたっただろうかと思った頃気がついた。

「腹がへってないし、喉もかわいてないな」

俗物から離れた世界にいるような不思議な感覚と、どこまでも白いこの世界に少しだけ畏れを抱いた。

人間が迷いこんでいい場所なのだろうか。心臓がヒヤリとしたが、戻ることもできない。

「……とりあえず寝るか」

疲れてもいないが寝たら戻るかもしれない。不思議の国のアリスのように、一時の夢幻かもしれない。まぁ、それにしてはリアルな感覚なのだが。

寝て覚めて

真っ白な世界は一面銀世界。

寒さも感じないのには「やはりか」と思った。起き上がれば知らない間にくっついていた白い獣たちが転がる。


少し移動して今度は川縁で眠りについた。一緒についてきた獣たちが共に寝る。すこしかわいい。

「おやすみ」

獣の耳がピルルと片方だけ動いた。

次に起きた時

白い霧が以前より明るく、緑の匂いが深くなっていた。

「……これは、帰れないのか」

仕方無い。とあきらめた自分は川で顔を洗おうと水面に顔をだして驚いた。

自分の髪や肌が世界とおなじ純白になっていた。瞳はかろうじて色があるが、元々の色ではなく、灰色のような色だった。


世界に気に入れられた、と思えばいいのか。


純白の山は岩も、木々も、空も、獣たちも純白で美しい。人間である自分の異質さをも凌駕する圧倒的なナニかがある。

坐するだけで、在るだけで、すべてが畏怖し崇めるモノ。神、仙境、異界、すべてでありすべてではないのかもしれない。

白い世界はどこまでも霧深く、人間の世界よりも呼吸易く、すべてを拒むような純白で迷い混んだ異質を包容し、時が来ればその命を容易く奪うのだろう。



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