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あみだくじで家を失った話

先日ベルリンでの家探しでの出来事。よくベルリンと検索をすれば真っ先に出てくるのが「住宅難」という現状。この問題は日本にいた頃から認知はしていたが、現地に来て更に体感する事になった。今回はそんな家探しで起きたあまりにもショックな出来事を。

私は毎日朝5時に起きて、MixBや現地日本人の掲示板、ドイツの賃貸会社のサイト数件やFacebookコミュニティを幾つもチェックして、それは時に夜中2時まで手当たり次第にメッセージを送り続ける生活を続けている。初めは1日50〜70件のメッセージを送っていても連絡がこなかったのだが、ある法則がある事に気がつき、その法則を活用した後は20件に1通は返信が来るようになった。

その法則については次回詳しく書くとして、私が最終的に内覧までこぎつけたのはたったの2件のみ。そのうちの1件は家賃も手頃で手数料も少なく、緑豊かな公園や家族連れが集まる美しい街で、是非ここで住みたいと思った。そこは日本人の大家さんで、ドイツに幾つも不動産を抱える音楽家の方でした。当日の内覧が決まったのは結構直前の話で、「本日の夕方16:15から来れますか」というメールが来ていたのでチャンスは無駄にしたくない、絶対ここで決めたい(早く安心したい)という思いで30分かけてPrenzlauer Berg地区へ向かった。

予定時刻よりも早めに着いたので、近所のカフェで少し待っていることに。

この地区はどちらかというと移民が多く、特にヨーロッパ系移民が多く感じた。ベルリンでも旧東ドイツに位置する場所にあり、未だにナチス時代に建てられたプラネタリウムカトリック教会や廃墟などが街の至る場所で見受けられる。それに共存するように都市開発は進み、今は色鮮やかなブティックが連なる並木道を新米パパ・ママや大学生が行き交う健全なエリアである。

予定時刻ちょうど、私は住宅のベルを鳴らす。窓から女性の大家さんが顔を覗かせ「扉をあけて中庭まで進んでください」と言われたので、言う通りに中庭の中央で待っていた。

階段を上がった3階部分に賃貸の部屋があり、そこを開けるともう一人、私と同性同年齢の女性が座っていた。私以外に内覧希望をしている人の存在は聞いていなかったので少々不安ではあったが、隣に座って大家さんの説明を聴いた。アピールポイント等を聞かれたのでここで絶対決めたいと思っていた私は「将来ドイツに来て目指す夢」や「この地域に来て素晴らしいなと思ったところ」などをプレゼンし、自分でも落ち着いて話せたなと思っていた。もう一人の女性は特にドイツに来た理由は無く、勉学で来ているわけでもないそうで、ただこれから探すとのこと。

各プレゼンが済んだところで、大家さんはさっきまでのプレゼンの内容はまるで聞いていなかったかのように、「ごめんね、決められないから"あみだくじ"で決めてもいい?」と言った。私は、内心「え?!」と思ったが、相手が隣にいる以上、大家さんの言う通りにするしかなかった。簡易に作られた直線のあみだくじで、私は手前の線を選ぶ。まるで、人生の分岐点を簡易なゲームで決められているようで、本当にザワザワが止まらなかった。

結果私は外れ、もう一人の女性に家が決まり、あっけなく取引は終了した。

「あ〜!ごめんね〜、せっかく来てくれたのに」笑いながら大家さんともう一人の女性は、一言放った後に契約の話に切り替わった。私は最後まで笑顔でそのアパートを離れ、角を曲がったところで悔しくて泣きそうになった。

言い方は悪いかもしれないが、人となりでしっかり住む人を見極めて欲しかったし、売り手市場とはいえ、借りる側の気持ちをなんだと思っているんだろうという腹立たしさと、「あみだくじ」という公平だけどゲーム感覚で決められた事に虚しさが勝り心が折れた。

余談だが、そんな落胆している私に、家が決まった女性から「私たち同じ歳なんだから連絡先の交換をしましょうよ」と、申し訳なさも無く言われてしまったので、その場では交換したが速攻でブロックをした。自分の余裕のなさにも嫌だだったし、色んな感情が渦巻いてその日は一日中人間の形はしていられなかった(笑)。

ベルリンに到着してから次々と洗礼を受け、一番不安視していた住居問題も、ショッキングな展開になり、本当はブログで残す事は恥ずかしいからしたくないなと思ったが、読み返す為にも残そうと思った。


現在は他の大家さんからの賃貸契約も決まり、ようやく住民登録ができる家も確保出来る手前まで来ているので取り敢えずは良かったかなと思う。家が決まれば語学スクールに通い、銀行口座も開設できるし、現地でも働ける。予想していた家賃とは大幅に予算オーバーしているけど、この2〜3年で2、3倍に高騰しているのは事実。3年前に来ていればもっと選択肢はあったのかもしれないが、今私が契約を決めた場所は、立地と比べればかなりいい条件らしい(バルコニー付、部屋は14畳、エレベーター完備)。
今思えば、あみだくじで決めてくるような大家さんがいる家に決まらなくて良かったのでは?と思えるようになった(無理やり)が、やっぱり人生、タイミングだなと思った。

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