見出し画像

頼む、話を聞かせてくれ

「できれば直接話を聞きたいです。家に行ってもいいですか?」仕事のシーンでこんなメッセージを送るのは初めてだ。今日はそんなお話。

友人が新しくお店をオープンすることになり、そのホームページのコピーライティングを任せてもらった。大切な門出をお手伝いできてとてもうれしい。早速オンラインで打ち合わせと取材をしよう、ということになった。

迎えたヒアリング当日、zoomに見知った顔が写って笑顔で取材がスタートする。が、どうにもうまく話が聞き出せない。メモを取るために用意していた紙は白紙のままで、時間が淀みなくさらさらと流れていく。そうこうしているうちに、約束していた1時間半が終了。十分にヒアリングができなかったので別の日に追加取材をさせてもらえないかお願いをした。

ああ、大反省。初回の打ち合わせとはいえ、オンラインだったとはいえ、どうにか仕切り直せなかったのか。フリーランス仲間が、ライターとクライアントになった途端に妙な距離ができて、その距離が縮まらないまま時間が過ぎてしまった。次は同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。ともかくも、まずは物理的な距離を取っ払いたい。そこで冒頭のメッセージを送った。


昨日、彼女の自宅で追加取材をした。彼女は「頼む、話を聞かせてくれ」と扉を叩いたライターを招き入れ、隣に座って話をしてくれた。2時間半の取材で取ったメモはA4用紙7枚分。真っ白だった紙は、線が引かれたり、ぐるぐる丸で囲まれていたり、矢印が引っ張られていたり、体温が通った2人の思考のあとが鮮明に残っていた。これなら大丈夫。ありがとう。


ほくほくした気持ちで車を走らせながら気づいた。そうだった、合わせるのは目線じゃない、目の玉だ。相手と目線を合わせても、その人が見ている世界は見えない。目の玉を重ねて、その人自身が見ている世界の輪郭を捉えるまで、じりじりと粘るのがライターの役どころではなかったか。「もうひとつ、もうひと掘り」と、食い下がる。「コレだ」と思える宝を掘り当てるまでは帰るべからず。

延長戦を許してくれた彼女に感謝して、大切にメモを開く。さあ、ここから先はわたしのターン。

この記事が参加している募集

ライターの仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?