食堂のおばちゃん
住んでる学生寮の食堂のおばちゃんが、ある時からおじちゃんになった。
何も言わず。
最初は、夕食だけおじちゃんになった。朝はおばちゃんなのに。
そしてついに、朝夕おじちゃんになった。
7月という中途半端な時期に。
何の告知もなしに。
停電の際も、エレベーターの定期点検の際も、告知があるのに、食堂のおばちゃんがおじちゃんになるのは告知されない。
世の中ってだいたいそんなもんだ。
機能が変わらない場合、だいたい告知されない。
いつの間にか、あの子は眼鏡を変えてるし、いつの間にか、あの子は彼氏を変えている。告知なしに。
とはいえ、私にとっておばちゃんからおじちゃんに変更されることは、機能が変わったのと同義だ。
私の野菜嫌いを知っているおばちゃんが、私の野菜嫌いを知らないおじちゃんに変わる。
困る。
困る。
やっと訓練し終えたのに。やっと芸が身についたのに。またもや最初から。セーブデータ全飛び。最悪だ。
また今日から、野菜をあからさまに残す日々。
彩り豊かな食事を、緑一色にして返却する日々。
そういえば、おばちゃんたちは今どうしてるだろうか。
どこかに連れていかれてしまったのだろうか。
クビになってしまったのだろうか。
それとも、別の現場で働いているのだろうか。
もしかして
ここで私はニヤリと笑う。
そして、頭を振って思いついた可能性をかき消す。
今日だって、私のプレートには大量のキャベツがのっていたじゃないか。
おばちゃんだったら、「ちょっと減らしとくね〜」と1回じゃ到底聞き取れないような特徴的な滑舌で言うはずだ。
いやいやそんな。
管理人が、食堂のおばちゃんを全員おじちゃんに性別だけ変えてしまっただなんて。
そんなわけないじゃないか。
そう思っていると、前から魔法使いカンリニンが歩いてきた。
私の性別は変えられないように。
私は「おはようございます」と明るく挨拶して足早に部屋へと戻った。
私の住む3Fの女性フロアが男性フロアになる日が近い。
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