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【感想】『すばらしき世界』 | この世は誰にとってのすばらしき世界なのか?

 定期的にかったるい映画を観に行きたくなる衝動に駆られる。

 かったるい映画っていうのは、頭カラッポにして観てられるドッカンバッコンのバトル物とは対局にあって、心をぐちゃぐちゃにされて、観終えたあとに爽快感とかもなく、むしろ疲れる。そんな映画を指す。

 そういう映画ってだいたい予告編で「っぽいな」って目星がつく。そして、実際に観てみるとその目星は当たることが多い。

 今回観てきた『すばらしき世界』は、まさにそれで、予告を観たときから「あ〜。これはかったるそうだ。観に行こう」と狙っていた作品だった。

 ちなみに前回のこの衝動を抑えるのに観た映画は『ジョーカー』だったりする。

 結論を書くと、映画『すばらしき世界』は当たり作品で、とてもオススメできる良作だった。こういうガツーンと当ててくる作品があるから、邦画もやめられない。もちろん見事にかったるかった。わたしのかったるい映画観たい衝動はしばらく満足しただろうと思う。

 あらすじは公式サイトの予告におまかせして、以下つらつらと感想を。ネタバレも多少含むので、まだ観てない方はご注意ください。

役所広司演じる三上

 まず役所広司が本当にすばらしかった。

 短気、不器用、でも純粋で実は人懐こく、どこか可愛らしさまで感じる三上という男を完璧に作り上げていた。

 この作品から社会の残酷さ、生きづらさがリアルに伝わってきたのは、役所広司が作った三上というキャラクターがリアルだったからだと思う。まるで三上が現実に存在する人間のように感じられた。

 出所後、人生をやり直すために奮闘するもなかなかうまくいかずイライラしている三上を観て、こっちも不安になるし、他社の優しさに触れてうれしくなる三上の笑顔に、こっちまでうれしくなる。

 そんな感じで劇中はずっと三上の浮き沈みに心を振り回される。三上を通して、理不尽な世の中や人の幸せとかを色々考えさせらた。

三上の周囲のいい人

 本作では多くの人が三上を助けてくれる。この人達の存在がまた心を温めてくれる。

 身元引受人なってくれた弁護士先生とその奥さん。近くのスーパーの店長。生活保護の相談に乗ってくれるケースワーカー。そして、三上を番組として取り上げようとしていたTVディレクター。

 みんながみんな、最初から三上を心から助けようしていたわけじゃない。スーパーの店長は、三上の前科や風貌を理由に、証拠もないのに三上を万引き犯だと疑うしし、TVディレクターなんかは、完全に番組のためのネタとしか見ていなかった。

 でも、みんな三上の人間性に触れていくなかで、最終的には心の底から力になってあげようとする。

 だけど、それでもやっぱり三上の人生はうまくいかない。職は見つからないし、職探しを有利にするための車の免許も取れない。取るお金もない。

 社会に復帰できない焦りから周囲の優しさや言葉を真摯に受け取れなかったり、三上から助けを求めるときに限って、相手にも余裕がなかったりする。

 結果的に「結局、大事なときに助けてくれない。うまくいかない」と三上はラクな方向(元の反社会勢力)に逃げてしまうのだけど、この一連の流れを観ててわたしは『進撃の巨人』のアルミンの言葉を思い出した。

良い人か…それは…その言い方は僕はあまり好きじゃないんだ
だってそれって…自分にとって都合の良い人のことをそう呼んでいるだけのような気がするから
すべての人にとって都合の良い人なんていないと思う
ーアルミン『進撃の巨人』より

 マクロな目線で見れば、三上の周囲の人間は十分すぎるほどいい人だと思う。刑期を終えたとはいえ、人を殺めた元犯罪者に対して、見返りなくやさしくできるかというと、自分がだったら多分できず距離を取ってしまうだろう。

 でも、そんないい人達にもそれぞれ立場やその場の状況、それぞれの人生がある。常に自分の思うように動いてくれる人なんているわけはない。そんな当たり前のことなんだけど、この映画を観ててあらためて感じさせられた。

 物語の終盤に向けて、周囲の助けや三上の気持ちの変化が噛み合っていくことで良い方向に向かっていく。三上は仕事を見つけられたし、自分にも人とのつながりがあることを実感していく。

 理不尽だし、残酷だし、生きづらい世の中だけど、これだけの人のやさしさに触れることができたことが三上にとっての『すばらしき世界』だったんじゃないかと、わたしは感じた。

結局だれにとっての『すばらしき世界』だったのか?

 本作のラストもまた、色々意見が分かれるところだと思うが、わたしとしては、やりきれなさや悔しさを感じる終わり方だった。

 他者とのつながりを持ちはじめ、まっとうな形で社会に貢献できるようになった三上にとって、やっとすばらしき世界が広がってきたのに。

 でも、他の人の感想を見てみると、自分とは異なる意見があってなかなか興味深かった。その意見を簡単にまとめると以下の感じ。

 たしかに三上は社会に溶け込める兆しをみせていたが、そのために今まで貫き通してきた価値観、すなわち弱いものが不当な扱いを受けていたら、暴力を使ってでも立ち向かっていたような仁義とか筋みたいなものを封印した。

 それができるようになったゆえに物事はうまく回りはじめたのだが、一方で、三上はそのギャップに苦悩を感じていた。そこまでしないと生きてけない"すばらしくない世界"から解放され、あたらしい"すばらしい世界"にすすめた、という意味では三上は幸せだったのではないか?という意見だった。

 なるほどなぁ。こればっかりは本当のところはわからないけど、たしかにこの意見を聞いて納得した部分もある。

 「誰にとっての"すばらしい世界"だったのか?」ってだけで一日考え続けられてしまう。

さいごに

 残酷で、生きづらくて、クソみたいな世の中だけど、いい面もあるよね。ってなんとなくみんな感じている感覚じゃないだろうか。

 そのなんとなくの感覚を三上という男をベースに、濃密に映画という形でメッセージ化したのが本作だと思う。

 さいごに、旧知の極道組長の奥様が、反社会的勢力に戻りかけた三上を止めてくれた際にかけた言葉を。

娑婆は我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うもなか。やけど、空が広いち言いますよ。

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