イケメンカフェなるもの

こないだ近所の居酒屋で店員さんにお勧めされて飲んだ、陸奥八仙という日本酒がとてもおいしかったので、探しに西武池袋の地下のお酒屋さんへ行ってみた。
関東以外の地域のお酒も扱っていたので、東北地方のコーナーを何度も見てみたけれど、どこにもなかった。
試飲して、おいしいものを買おうかと試飲スペース近くをうろうろしてみたものの、お酒屋さんに慣れていないのと試飲しているお客さんの年齢層が高いのに尻込みして、陸奥八仙は通販で買おうと、試飲を諦めてお店を出てきてしまった…。

せっかく寄り道したのに、これだけで帰ってしまうのはもったいない!と思い、もう一件どこか行ってみようと考えた。
そうだ、池袋といえば、最近気になってた「イケメンカフェ」なるものがある!!
サンシャイン通りへ、めいどり~みんの客引きのメイドさんを目印に、スピンズの入ったビルの上の階を見上げると、「イケメンカフェ 聖ジュリアーノ学園」の看板が…。

あれ、前からあんな看板だっけ…?

とおもいつつ、エレベーターへ。このエレベーターは制服キャバクラの入口の目の前にあるので、乗るのが非常にハードル高い…。制服キャバクラに消えていくサラリーマンの後ろ姿を横目に眺めつつ、無事に乗り込む。

最上階。上っている途中めいどり~みんの店内BGMが聞こえた。目的の階についてエレベーターをおそるおそる降りると右手に茶色いドア。中に入ると、ライブをやっているようで店内は薄暗く、目の前のレジに待機していた男の子が「おはよー」と私に声をかけた。

ライブ中なので、詳しいことは後で説明しますと、席に案内された。メニューを渡され、目の前のステージでは男の子たちがカラオケ音源でライブを繰り広げていた。
照明の暗さも音響の感じも、全員着席で聞かなきゃいけない鑑賞形式も、それは、まるで、カラオケ…!
歌詞を覚えてない人(?)は譜面台に楽譜のようなものを置いて歌っていた。一人一曲歌っては下がる形式なのだけれど、ABCとかラルクとか宇多田ヒカルとか、私でもわかるJ-popが多くて聞きやすかった。
スタンディングで聞きたいなー、と、曲に合わせて少し身体をゆらし、曲の間にサンドイッチと紅茶を頼んだ。
しばらくして頼んだものがきた。紅茶は、小声でジェスチャーを交えて
「三分計ってくださいね」
と砂時計を置いていかれた。砂時計にはキャストの誰かからの落書きがなされていて、その黒いマッキー一発書きの、何かのキャラクターと思しき雑な絵のそのかんじが、学生時代クラスメイトの男の子のノートの落書きを見つけたようななつかしさがあった。

紅茶はパックのものと侮っていたら意外と香りがよくて美味しかった。セイロンティーだったかな。
サンドイッチは、外がトーストのように美味しく焼けていて、パンも香ばしく、中のシナモンアップルも美味しかった。初見のコンカフェって食べ物に期待できないとおもって無難そうなパンのメニューを選んだけど、飲み物も食べ物も意外と結構おいしかったから、また行く機会があったらもっと冒険して色々飲み食いしてみたい。

ライブが終わって、ゆっくり食事していると、顔なじみらしきキャストとお客さんが親し気に話していた。

正直、なんかもっとイケメンやモテをはき違えたような勘違い系の男の子が一杯在籍してそうな偏見があったのだけれど、実際はみんな痛いほど自分の立ち位置や役割を自覚している男の子たちだった。コンカフェで働く女の子と驚くほどあまり性差を感じなかった。彼らは一般の男の子たちよりもむしろずっと、コンカフェで働く女の子達に近いメンタリティーを持っているように感じた。男子男子してる子もいたけど、どことなくガーリーな精神性を持ってるかんじの子が多い気がする。見た目に気を使うかんじとか。人との距離の測り方に繊細なところがあるかんじとか。

サンドイッチをかじっていると、前髪をくちばしクリップで留めた派手髪の男の子が話しかけにきてくれた。目を見ると茶色いカラコンをしている。髪も肌もつるつるで、眉も綺麗に整ってて、まつげがくるんと綺麗なカーブを描いていて、会社に行ければいいという格好と髪と顔をしていたその日の私は、ああ、もっとがんばらなくては…とおもわずおもってしまった。

友咲(ゆうさく)くんという名前のその男の子は、この聖ジュリアーノ学園の一期生らしく、初見のお客さんにも慣れた様子で、このお店の世界観や普段の様子を説明してくれた。
「最初の頃、表の看板見て音楽教室だと思って来ちゃうお客さんとか時々いて…。」
「あ、そういえば表の看板前は『イケメンカフェ』じゃなくて『聖ジュリアーノ学園』って書かれてましたよね。気のせいじゃなかったんだ。」
だとか、学園がコンセプトだから、iphoneでオーダー取るんだってことや、キャストは「男子生徒」と呼ばれることとかを教わった。

会員証を作るにあたって、名前をどうする?ということになり、
「じゃあ、『ありま』で。」
と他のコンカフェの初訪問の時と同じように伝えたところ、
なんでありま?と聞かれたので、いつものように、本名の苗字だし、どこのコンカフェでもありまで作ってるし、あと学生時代もずっと「ありま」って呼ばれてたから、元々呼ばれなれている、と言うと、
「えーでも呼ばれ慣れてないんだったら逆に下の名前とかどう?そういう現実じゃなかったことを楽しめるのがこういう場所なんだしー」
と、下の名前を推されたのでこのお店に限って下の名前にした。
そもそもツイッターのハンドルネームとコンカフェで呼ばれる名前を一致させたいから苗字を使いはじめたのだけれど、いつからかコンカフェにはまりすぎないための、また向こうからこちら側に踏み込ませすぎないための予防線として使ってるところもあったから、彼のように悪意なく強制でもなく、あくまで提案として、北風と太陽でいうところの太陽のように、下の名前をコンカフェネームにするよう促したっていうのは、上手だなあとおもった。

「好きなゲームって何かあります?」と聞かれたところから、バイオやその他漫画の話や舞台の話をしたりした。このへんの話題の振り方も、池袋って場所柄もあるかもしれないけど、ヲタトーク的な話題を振られたので、ああ、ほんとにあんまり女の子が働くコンカフェと変わらないなーとおもった。こういう感じで派手髪カラコンでなおかつヲタクトークができる男の子って、私はなんだかインターネットにしか生息していないものだと思い込んでいた。
初めてオフラインでこういうタイプの男の子に出会った。

初回のお客さんは2ショットチェキが無料で撮れるということだったので、友咲くんとのチェキをお願いした。女子用の制服があるんですよ!とジャケットとリボンを着せられた。その着せてくれる時や撮影する時の距離感とか雰囲気が、当たり前かもしれないけどやっぱり同性の女の子と撮る時とは全然違くって、ああそうか、私は女性客で、そしてここは男の子が働くコンカフェだった…、ということをその時はじめてちゃんと思い出した。ボタンを留めてくれる指の爪が短くて少しささくれているのが男の子っぽかった。私は初めて男の子とチェキを撮った。

なんていうか、同じコンカフェでもやっぱり女性客向けの場所だと、距離や接触という概念に対して男性向けのコンカフェより若干緩い気がした。秋葉原のメイドカフェやコンカフェってもっと距離や接触に対して潔癖で厳格だから。そういう場所で私は育ってきたので、ちょっと面食らった。

お会計はテーブル会計ではなくレジでお会計だった。帰り際お会計をすませて「ごちそうさまでした」とお店を出ようとすると、
友咲くんが発光度100%の明るさと爽やかさで
「かなこちゃん、ここは学校だから、『また明日』って挨拶するんだよ」
と言ったので、
おずおずと「また明日。」と声をかけると、友咲くんもお会計をしてくれた男の子も「また明日!」と笑顔で手を振ってくれた。


いつもコンカフェに行くときは、「どちらかというと男性向け、でも女性も歓迎です!」という感じでお客さんの男性率の高い中自分の異質感に少し肩身狭い気持ちを感じながらお店にいるのが常だったから、「お客のメイン層の中に自分が含まれている」「自分の異質さ0%」の空気がこんなに安心感があるものだとは知らなかった。

開店1年ということで、世界観もある程度出来上がりつつしかしまだまだ発展途上、これからこのお店がどうなっていくか全然予測がつかなくてわくわくするという、私が最も好きな土壌のあるお店だった。それから、この1回の訪問で「コンカフェで働きたいとおもうような男の子」に対して無意識に持っていた偏見が瓦解した。

ジュリアーノ訪問以来街を歩くたびに、コンカフェで働くことによって居場所や救いを勝ち得るタイプの男の子が潜在的にたくさんいるような気がしてならない。
もっと流行ればいいのにとおもう。

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