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銀座で遅い昼食を。(熱海旅行に 11)

隣のハイカラな感じの60~70代ぐらいの女性がしきりに誰かと電話しているなあ…と思っていたらほどなくして、リーゼントにふわふわの羽根がついたド派手な革ジャンを来た、60~70代ぐらいの男性が来て内心ぎょっとするも平静を装う。
とたんに杉くんとの会話が5割ぐらいしか入って来なくなった。どうしても耳は隣の話に周波数を合わせるし、視界の端に脱ぎ置かれたふわふわの羽根つきの皮ジャンが気になる…。
二人はどうやら友人?のような間柄だった。でも全然お年寄り感はない。
あいつは最近病気を患っているらしい、あいつは老人ホームにこの間入ったらしい、など、話している話題は年相応だったけれど、終始バブルってこんな感じのトーンだったのかなあという世界観で繰り広げられていて、全然枯れた感じとか、お年寄りの茶話という感じはしなくて不思議だった。

しばらくして頼んだものが来た。さっそく食べる。パンの焼けた匂いが鼻腔をついて、ああ、そういえば結構お腹がすいていたな、と気づいた。
さっそくかじってみると、ソースとお肉の味、食感に加えて、たくあんの食感。
意外とたくあんは主張が激しくなく、なるほど確かにこういう風に食べると食感はピクルスっぽくも感じる。

「おいしい。」

旅先で地元の名産品を使ったものを食べられるのってうれしいものなんだな…と初めて知る。

元々は私は福岡に住んでいたけれど、別に普段そんなに明太子なんか食べなかったし、地元のものを食べる喜びなんて全然知らなかった。

私は食後の紅茶を、杉くんはアイスコーヒーを飲んでいた頃。
「食べたら眠くなってきた…。頭痛いかも。」

「え、大丈夫?じゃとりあえずアカオに戻って夕飯までやすもっか。」
「そうさせてもらっていい?せっかくの旅行なのにごめんね…。」

飲み物を飲み終えたらバス停へ引き返すためにまた川沿いを歩いた。
歓楽街で、身なりもそこそこの50代ぐらいの男性たちが、ソープの店名が書かれた看板の前にいるちょっとガラの悪そうな男性に品よく
「このへんで遊びたいと思っているんだけど、いいお店ないかな?」
と話しかけていた。

お金で性を買うということは、堅気じゃない人達だけの話でなく、普通の人生送っている人にとっても普通のことなんだ…、少なくともあの男の人達にとっては。

彼らの横を静かにすり抜けた。

杉くんとの間に少し、なんとなく気まずい沈黙が流れた。

でも私はその沈黙の中で、どうして私は他の誰でもなく今杉くんと一緒にいるのか、一緒にいたいのか、わかった気がした。



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