5月25日

そうしてガーデン観察日記を書くことが決まり、ご帰宅日記の単語がガーデンさんとの会話の中で出ると、隣の席の女の子が何故かご帰宅日記のことを知ってくれていた。吹き出してしまいながらなんで知っているのか尋ねると、
「写真の時もここにいて…。」
「あの写真撮った時いたんですね!?ここに?」
ご帰宅日記を買ってくれたお客さんがガーデンさんに持たせた写真を撮った時、彼女もここにいたらしい。
その子のチェキ帳がカウンターに置いてあったので、
「見てもいいですか?」
と見せてもらいながら話していると、私も知っている学校の学科に通っていたり、共通の友達がいたり、なるほど世間は狭かった。と、手の話から、ガーデンさんが手フェチの人の話をはじめた。
「あ、私も知ってますその人。」
ガーデンさんも出勤したドしずで私の隣の席にいたのがその人で、その時手を撮らせて欲しいと、手を写メで撮ってもらったことがあったのだ。
(活字でこう淡々と書くとほんとにアレなかんじが…)
そして、その人がいかに本物の手フェチかというのを私とガーデンさんの二人がかりで説明した。ダメ押しでその人が作っているらしき「手フェチの人のためのブログ」というブログを彼女に見せた。
「そういえば、さっき見せてもらったチェキ帳にも載ってましたよ。手フェチの人。」
そう言うと、
「えっうそ!」
彼女がチェキ帳に視線を落とした。
「イベントの、お客さん含めた全員集合チェキ…。あ、これ!」
と指さすと、
「ほんとだ。」
ガーデンさんもカウンター越しにそのチェキを覗き見た。
「この右から二番目の…。」
「へえ~~。」
「なんかほんとにチェキの時も私の手に視線が行ってる写真もあって、これは違うけど…。なんかおやゆびがいいんだって。おやゆ美人って。…なんか、フェチとかってあります?」
とガーデンさん。
「いや、私も手は好きだと思ってたけど、ここまでを見せられると、これに比べたら全然別に…ってなりますね。」
「確かに。私も人の髪好きだなとおもっていたけど、ここまでじゃない!」

去年の秋ぶりに見たパン焼き機、あの時は手をかざして「あったかい」と言っていたけれど今日はそれをつけると暑くてたまらなかった。羽織ったパーカーを一瞬脱いだ。

しばらくすると、ばたばたとお客さんがチェックして出て行くタイミングがあった。その中にやたらガーデンさんとマリーさんに指示を出し
「昔はね…」
とシャドウの昔話をする人が一人いて、「ゴールデン街古参で指示厨のシャドウヲタ…。」と勝手に設定していたけど、よくよく話を聞いていたら、シャドウのマスターだったらしい。

お店がお客さんも含めて女の子だけになった。すると、シャドウのドアが開く時の特有のきしむ音がして、お客さんが入って来た。この間、ガーデンさんにご帰宅日記を持ってきた時にもいらっしゃったお客さんだった。
それと入れ違いぐらいのタイミングで、マリーさんがシャドウの上の階の珍呑に行ってしまった。


なんの話の流れだったか、しずさんについての話が出て来たので、ふと気になってたことを聞いた。
「そういえば、ガーデンさんとしずさんはどこでお友達に?」
「大学も学科も一緒で。で5年生になっちゃった人って少なかったから『一緒にごはんとかどう?』みたいなかんじで自然と…。」
『一緒にごはんとかどう?』の言い方もだったし、さっきから時折感じてことが急に腑に落ちた。
「そっか、付き合いが長いから時々しずさんとリアクションの感じとかが似てるのかな。」
すると、ガーデンさんの表情が少し曇った。
「そうそれ、人に似せてしまいがちな癖自分でもわかってて、直そうとしてて、これでもだいぶ良くなってきたんだけど…。」
それを契機に、なんで人のリアクションを寄ってしまうのか、でも中身は全然違うよねって話を3人でしながらも、でも結局どうしてふとしたときに喋り方が似るのかについては誰も明確な回答が出せないまま一瞬の沈黙が挟まり、
「…あれ、なんでこんな話になったんだったっけ。」
ガーデンさんが少し変になってしまった空気を清算するようにそう言った。
「あ、私が最初に、ガーデンさんとしずさんはどこでお友達になったのか聞いたから…。」
と答え、
「ああ、そっか。」
とガーデンさんがうなずいた。
会話のかたわらで、誰かの文体や喋り方、選ぶ単語や、方言、癖がふと自分に移っていることに気づいた時を思い出していたけれど、確かにじゃあその理由は?って言われると明確な答えは出てこなかった。
ただ嫌いな人には似ないだろうな、とはなんとなくおもった。

こないだ私が来た時にもいたお客さんが来たので、こないだ私が帰った後の話を少し聞かせてくれた。
「気に病んでたんだよね、づらちゃん(ガーデンさんのこと)、なんか何にも面白いことできなかったし、もう来てくれないだろうなって。」
「うん。」
とガーデンさんが頷くのを見て驚いた。
「いやいやそれは私がそのままガーデンさんにおもってたことで!つまんないって思われただろうなあと…。」
それぞれ同じ不安を相手に抱いていたのが不思議だった。

さらにご帰宅日記の話から、ここにいる三人のお客さんはみんな誰かしらを推したり他人に興味や好意を持ったりしてるね、という話から、
『私はアイドルを好きになるとしても、自己投影して好きになることばっかりで、アイドルそのものに興味を持つことがあんまりない。時々アイドル現場行ってファンの女の子見て、ああ、あの子はきっと自己投影型だなーとかいうの見ちゃう。そういう子は大体容姿からして自分が推してるアイドルの片鱗を自分も持ってる。自分もそういう子達側だから、ここにいる三人はすごいなー、自分と違うなーとおもう』
というような話が聞けたのが面白かった。
自己投影型の「好き」と、そうじゃない「好き」、かあ。


一番最初に会った時は、敢えて断絶だとも思わないぐらい断絶で、ガーデンさんの発する色も温度も全然感じることも感じようとすることもなく終わってしまったけど、シャドウでのガーデンさんは間違いなく自分の色で空間を作っていて、それは曖昧で冷たくも熱くもない、遠赤外線のような照射されるとほのかに温かい、なんだか今まで触れたことのない空間だった。

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