見出し画像

おまんじゅうだと思ったんだ

ありんごです

人の望みは際限がないとはよく言ったものだ。手に入れられないと欲しくなり、手に入れてももっと欲しくなる、そういうことなんだろう。

私は今日お腹が空いていた。透明な袋に入った白くて丸いおまんじゅうがテーブルの上にある。手を伸ばさずにはいられない。でもその前においしいおまんじゅうにはおいしいお茶がほしい。

私はやかんを火にかけた。ぴーぴーと声をあげるから、茶葉を入れてあるポットに注ぐ。ほうじ茶が出来上がる。香り立つ。

湯呑みを出して嬉々として蒸らしながら待つ。いい塩梅になったので湯呑みに注ぐ。席につく。おまんじゅうに手を伸ばす。ふくろがかさりと音を立てる。思っていたより重い。大きなおまんじゅうだ!と嬉しくなる。

持ち上げる。その瞬間異変が起きた。冷たい。硬い。これはなんだ?なんなんだ?

私はショックで取り落としかけた。私がおまんじゅうだと信じて疑わなかったその丸いものは、白くて丸い素朴な細工のされたせっけんだったのだ。

でも、それでも、その欲望がどんなに強く、絶望がどんなに深くても、せっけんには罪はないのだ。私はテーブルにせっけんを安置して、ほうじ茶を飲んだ。香り高いほうじ茶。

食べるはずだったおまんじゅうがなくなってしまっても、ほうじ茶は美味しいし、あの高揚感を味わえたのだからよしとしよう。


ありんご


サポートいただけるととっても嬉しいです😊 いただいたサポートは、いつ死んでも良い、かつ、まだまだ生きたいと思えるような人生の実現に使わせていただきます!