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盲ろう者の田畑さんとなにかの本を作ろうと思っている件 その5

これまでの経緯は下のリンクからどうぞ

いよいよ、田畑さんとお会いする日です。(でも、今回も前置きが長いよ)

その4で、iPadを買い換える決意をしました。調べたら、数千円にしかならないけど下取りに出せることがわかったので、出すことに。でも使ったオンラインのお店が、宅配便の容れ物が届いてからそれに入れて送って査定してクーポン券にしてくれる……まで時間がかかるやつだった。というわけで、お会いする約束をした日に、手元にiPadがない状態に……。ああ、計画性なさすぎ。
大きめのタブレットがないと不安になったので、KindleFireをもっていこうかな。でもこれで文字を書いたことないや。えーと、アプリ、アプリ……と、えーと、反転させるのってどうするんだ? 
あ、そうそう、名刺を持っていった方がいいなあ。
JBBYのバリアフリー児童図書の選定の機会に『凸凹あいうえおの手紙』(別司芳子著)読んだとき、主人公が点字を書く場面があって、それで練習用の小型の点字器があるのを知って、そんなふうに簡単にできるのなら自分でも点字を打ってみたいと思って、ネットでさがして買っておいたのです。以前からパソコンで作った自分の名刺に点字を入れたいなあと思っていて、でもあんまり名刺交換することもないので、そのままでした。

いま全国を巡回している「世界のバリアフリー児童図書展」が国際子ども図書館で展示されていたとき、点字の表が置いてあったので、それをもらってきていたのです。(2020年度の開催予定は次のリンクにあります)

ということで、ネットの情報なども参考にして、練習してみました。打ち間違えても修正できるのでよかった。打ってみたけど、ひとつ問題が。それは、この書き方で合っているのかどうか、初心者の自分ではわからない(笑)。

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多少間違っていても、だんだん覚えていけばいいや、コミュニケーションをとりたいと思っている姿勢を示すのだ、とポジティブに開き直ります。写真は白紙ですが、実際はいつもの名刺の表面に、点字を打ったものを用意しました。とりあえず一枚だけ。慣れてないので一枚で力尽きた。手話通訳さんも来る予定なので手話通訳さんの分も作ろうかと思ったけど……。

待ち合わせの目印を事前にLINEで送って欲しいと言うことだったので、はっきり目立つ派手な色のバッグとジャケットを写した写真をお送りしました。田畑さんからも写真いただきました。白杖持っている時点ですぐわかると思うんだけど。

はい。ということで、やっとお会いする場面です。
待ち合わせ場所は横浜駅の某所です。
田畑さんが先にいらしてました。やはりすぐにわかりました。女性の手話通訳さんが……あ、二人いらした。そうか、交代しながらなんだ。わざわざすみません。

本日の目的は、初めましての会食です。11月下旬でコロナの感染者数が再び伸びてきたときなので不安はあったのですが、9月初めにM先生にメールで引き合わせていただき、これからコラボの本の計画を立てるにしても、一度会っておかないと、先に進めません。待っていても終息しそうにないし。一度延期していたので、とりあえず一回は会っておかないと、この計画が立ち消えになってしまうかもしれない。なので、決行しました。
みんな、しっかりマスク着用で。(触手話だから口元を見せなくてよいみたい)

田畑さんが触手話で、どこでランチをするか。なにが食べたいかを聞いているようです。手話が第一言語のネイティブの方は、手話、速いなー。文字でコミュニケーションとれるなら、手話はそんなに覚えなくても大丈夫かなあと甘い考えでいたので、わたしにはまったくわかりません。

手話通訳さんが田畑さんの手話を読み取り、わたしに口頭で伝えます。どこでランチと言われて、わたしがまず思ったことを正直に書きますと、盲ろう者の田畑さんにとって食べやすいものがなにかわからないので、うっかり難易度高い食べかたの物を言ったらまずいよなー、ということでした。まだ初対面だし、おたがいちゃんとしたところを見せたいじゃん? だからといって、なんなら食べられるんですか、とは、いくらなんでも聞けない。
数年前に社会福祉士試験の受験資格のために行った実習先の施設で、視力のない方が食事をするところは見ていて、始めに配膳の位置関係がわかれば問題なく食事されていたのは知っていたのですけど。
事前のLINEで、わたしは蕎麦が苦手で、田畑さんはカレーやからいもの、熱いものが苦手なのは伝え合っていましたが。そのとき、田畑さんはマグロとホタテが好きと書いていたので、今日はお寿司かな、お寿司なら手で食べてもいいし……とわたしは勝手に思っていたのです。でも、田畑さんの気が変わったのかもしれないなあ。そんなことをだまってモヤモヤ考えていたら、手話通訳さんが「どうぞふつうにどんどん話してください、手話で伝えますから」とおっしゃってくださいました。遠慮しているか戸惑っていると思われたようです。いえ、わたしは人見知りで、仕事で喋る役まわりになったときでもない限り、普段からあんまり人としゃべらない人なんですよ。でもわたしがしゃべってそれを手話通訳してもらわないと、田畑さんには言葉だけでなくわたしの考えや表情が全く見えないわけですよね。存在がなくなったのと同じで、不安ですよね。
言語化しなくては!! 
いまここで、実は人と会話するのが昔から苦手で……なんて言うわけにはいかないので、考えて、いいました。
横浜のお店は詳しくないので、田畑さんがよく行くお店がいいです、と伝えていただきました。
田畑さんは手話通訳さんにもランチはなにがいいですかって聞いてます。田畑さんのお好きなものでいいですよとか、そんなやりとり。

で、お寿司屋さんに。(やっぱお寿司だった~)

でも、わたしが思っていたほど田畑さんは横浜駅周辺を詳しいわけでなく、行きつけの店があるわけではないようです。このとき、田畑さんが横浜市内のどこにお住まいなのか知らなかったので、待ち合わせ場所の近くが生活圏なのかと思っていたのです。

横浜駅の東口のほうにお寿司屋さんがあったとおもうので、ということで、移動します。移動支援が必要なのかなと思う間もなく、田畑さんは平らな場所では白杖を床につかないでひとりでどんどん歩いて行きます。20代学生だから元気なんだなあ。大丈夫なのかな。ちょっとぶつかりそうになる前に、手話通訳さんが知らせていました。でなければ、直進してきた相手が寸前で田畑さんの白杖を見て、わっと左右によけていく。
モーゼ……。
田畑さんの後にいると歩きやすいかも。

エスカレーターに乗っているとき、田畑さんが笑いながら一人で手話をしていたのを見てしまった。独り言? 
手話通訳さんが、手話が第一言語の方は独り言も手話でするから、相手に通訳していいことなのかわからないことがあると、あとでおっしゃっていた。なるほど。

田畑さんが向かったのは、ポルタの案内の受付窓口。受付で、お寿司屋さんの場所を聞きます。田畑さんが触手話をするのを通訳さんが受付の女性に口頭で伝えます。受付の女性が口頭で答えた言葉を通訳さんが田畑さんに触手話で伝えます。それを繰り返す。肯くなどの簡単なやりとりも、通訳さんは必ず田畑さんに伝えます。通訳さんすごいな~。
ちょうど良いお店が見つかって、受付の女性に行き方を教えてもらいます。周りの人が「つれてってあげる」のではなくて、案内図の道順を通訳さんが田畑さんに触手話で説明して、田畑さんが理解して自分で行けるように伝えてました。これは大事なことだなあ。
お礼を言って受付を離れるとき、受付の女性が一瞬手を動かしました。あ、手話だ。

ずんずん歩き出した田畑さんを追いかけながら、通訳さんに「さっきの受付の人のこの動きはなんですか」と聞いたところ、「ありがとうございます、だと思います」とのこと。へえ。田畑さんには見えてなかったようだけど、最後の一言だけでも手話で返してもらえると、同行者としては嬉しいものだなあ。

長くなったので、今回はこのへんで一区切り。



支えられたい……。m(_ _)m