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盲ろう者の田畑さんとなにかの本を作ろうと思っている件 その6

続いてます。前の記事はこちらで

では、回転寿司屋さんに入ったところから。
まず注文をしなくてはなりません。手話通訳さんが、田畑さんの食べたいものを手話で訊ねます。通訳さん、時々もう一人の方にも確認しながら、読み取ります。交代制とはいっても、待っている人は別のことをしてるわけじゃないんですね。手話通訳さんを初めて間近に見たので、全部が新鮮でした。
通訳さん同士のやりとりから察すると、どうも田畑さんは「お寿司」が食べたいのではないらしい。マグロのお刺身とホタテのお刺身を頼みたいようでした。え、それだけ? 他には? あれれ、お寿司屋さんでお刺身しか注文しないということは、食べられるものにかなり制限があるのかも、と気がつきました。実はわたし、今年、保育士資格試験を受けようと筆記科目の「子どもの食と栄養」の参考書を読んでいたので、モグモグ期とかカミカミ期のこととかが、ふと思い浮かんだのでした。離乳期後半にホタテって書いてあったなあ、と。オーダーが終わって改めてあいさつをしたとき、田畑さんは小さいときは胃瘻で栄養をとっていた、と手話通訳さんを介して教えてくれました。そうかそうか、田畑さんのことは視覚と聴覚の障害がある方という認識しかなかったのだけれど、いろんなご苦労があってここまで来ている方だったんだ……。

で、点字を入れていった名刺を渡しました。そのあとで、手話通訳さんにも名刺を渡そうとしたら、「いただけないのです」とのこと。そういうルールがあって、あくまでも通訳に徹しなければならないのですね。
田畑さんからは、手話を覚えて、試験を受けて手話通訳者になってくださいと言われました。えええ。そんな簡単に覚えられるものではないでしょうに。無茶でしょ? 思わず、手話通訳のかたに、「大人になってから手話を覚えたのですか?」と質問していまいました。
すると、「田畑さんに、いま通訳に質問されたことと内容を伝えて、質問に答えてよいか確認して、許可があったら答えます」とのこと。ああ、そういうルールなのね。きっちり線引きがあるのは、安心だ。そういえば、昔なんかの本で読んだことがある。友だちと通訳が楽しそうに話してて聞こえてない本人が取り残されるというパターン。そういうことのないように、ちゃんとしてるのですね。専門家だなあ。かっこいいぞ、手話通訳士。
そして田畑さんから許可が出たので、答えていただきました。今回の手話通訳さんは二人とも40歳ぐらいから始めたとのこと(現在はわたしより少し年上かな?)。大人になってからでも手話は覚えられますって。
あ~、そうなのか。じゃあわたしでも……覚えられるかなあ……。英語とか全然覚えられなくて、語学は向いてないと思っているんだけど。あ、でも書字障害が手話の場合どうなるのか、ちょっと知りたい気もしたよ。

筆談もできるようKindlefireを持って行ったのですが、一度しか使いませんでした。書いて読んでもらう時間を考えると、やはり、手話のほうが話が早い。特に、田畑さんは手話が第一言語だから、文字から読むより手話のほうが良いのだろうなあ。
手話を覚えないと、わたしにとっても不便なのだった。大人になってから覚えて手話通訳士になってる人がいるのなら、わたしも少し覚えるか……。自信ないけど。

ところで、はじめてお会いするこの機会に、本を持って行きました。作家だと伝えてあるけど、どういう本を書いているかご存じないと思うので、怪しい者ではないと知っていただくためにも、著作物をお渡ししようと。ちゃんと本を出しているとわかれば、田畑さんのご家族の方も安心でしょう。視覚障害のあるかたに本を渡すってどうなのか。でも、こういう仕事をしていますということで、読む読まない読める読めないは別として、お渡しします。なにを持って行くか迷いました。そのときの新作でなく、『きみの存在を意識する』にしました。この本は、目で読めなくても、すでに点訳とデイジーの音訳になっているはずだから、サピエ図書館などを利用していただく。

田畑さん、受け取ってくださいました。

食事のあと、お店を変えて話をしようということになりました。が、田畑さん、突然、行きたい場所があるといいだしました。書店だって。エレベーターに乗って、通訳さんと四人で書店に移動します。お店にはいると、田畑さんはわたしに待っていて、といいます。秘密にしたいから待っていてください、と、何度も。
一瞬、わたしの本が本当に書店で売っているか調査をするのではないか、という不安が(笑)。(わたしの本や、YAは店頭にないことの方が多いので……)
でも、違いました。田畑さん、通訳さんと相談して、わたしにプレゼントする本を買いに寄ってくださったのです。本をあげたから、お返しに。それが、こちらの『手話入門』。

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わあああ、手話の本、プレゼントされちゃった!!! 
これは手話を覚えないわけにはいかないwww。

はいはい、覚えましょう。覚えます。覚えますよ。時間かかると思うけど。うだうだしてて、すみませんでした!

喫茶店にいるうちに本を見て、帰りにお別れするときに「また会いましょう」を手話でやってみました。通訳さんには見えていたけど肝心の田畑さんに見えてなくて、通訳さんが「梨屋が手話で『また会いましょう』と言っている」と手話通訳してくださった。(ややこしい)

ということで、宿題をいただいて、帰って参りました。

(ある程度の)手話ができるようになる。
翌日から、いただいた本と本についていたDVDで勉強です。
田畑さんと次にお会いする日が決まっていたので、それまでにあいさつと自分の名前ぐらい手話で名乗れるように。

すぐにくじけないように、目標を作ろう。とりあえず、手話検定みたいなのを受けることにしたら、続くかな……。
手話検定と言えば……。児童文学作家の森埜こみちさんは手話ができるらしい。突発性難聴になる主人公の『蝶の羽ばたき、その先へ』という本にも手話が出てきますね。

以前Facebookに手話のことを投稿していらしたのを覚えていたので、森埜こみちさんに、手話を覚えることになりましたと連絡してみました。そうしたら、な、なんと手話の本のお下がりをいただいてしまいました! ありがたい~。DVD付きのお高い本ばかりだ~っ。ありがとうございます。がんばります~。覚えねば~。

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そんな11月の下旬でした。


支えられたい……。m(_ _)m