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The Real Chopin〜プレイエルと18世紀オーケストラで聴く若き日のショパン

今夜はオペラシティで、「The Real Chopin ×18世紀オーケストラ」を聴きました。素晴らしかった。
オリジナルのプレイエルと、ピリオド楽器のオーケストラにより、ショパンのピアノと管弦楽のための作品を、東京は2夜で全曲やるという意欲的なコンサート。
それもソリストはユリアンナ・アヴデーエワ(2010年ショパンコンクール優勝)、川口成彦、トマシュ・リッテル(第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールの2位と1位)という豪華な顔ぶれ。

今回私は、全6作品が若き日のショパンにおいてどのような意義があり、どのような位置付けとなったのか、そんな「プログラム解題」の文章を販売プログラムに寄稿しました。いたく光栄。

チラッ


さて、今ちょっと忙しくて時間がないのですが、以下に忘備録として急ぎ感想を書いておきます。

今夜のプログラムは
モーツァルト:交響曲第40番
藤倉大:Bridging Realms for fortepiano(川口)
ショパン:ポーランドの歌による幻想曲 op.13 (川口)
ショパン:演奏会用ロンド「クラコヴィアク」 op.14(リッテル)
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11(アヴデーエワ)

op.13と14はモダンピアノとモダンオケで聴く機会なんてほとんどないのだけれど、これらの作品こそピリオド楽器でやらないと、たぶん、ほとんど面白くない。魅力は半減かも。
ピリオド楽器オーケストラの、あの胸がザワザワとするような弦楽器の表現力や、管楽器のほとんど突発的とも言える鮮やかな表情の移り変わりは、音楽的な小回りが効く(モーツァルトも素晴らしかった!)。
そしてプレイエルの甘く、粒だちのよい音色(楽器はタカギクラヴィア所蔵の1843年製プレイエル)とのアンサンブルは、奏者たちの力量が十分なこともあって、音量も音色もとにかく驚くほどバランスがよくて楽しかった。

op.13を演奏した川口さんは、まるでツヤツヤの気泡が立ち上るような、シャボンのように透明感のある音色が素晴らしく、滑舌の良さがあり、オーケストラと一体化しつつも、常にピアノの音色の輪郭がはっきりしていた(音量の問題ではない)。とにかく明るくエレガントな表現で、ときどき笑顔を見せながら演奏する姿も、希望に満ち溢れた若き日のショパンのことを思わせてくれて。それはもう楽しいやら切ないやら。

op.14を弾いたリッテルさんはレガートがとにかくうまい。ユニゾンのメロディーもアルペジョやスケールなどのパッセージも、グラデーションをうまく作り出す。クラコヴィアクのリズム表現がまた巧みで、跳躍・重力・重心が自然に感じられるダンサブルなリズム感。またそこに18世紀オーケストラがピタッと合わせるところがスゴい。スゴい集団だな!と驚きました。ピリオド楽器は弦楽器のザワザワ感もいいけど、木管の際立った響きもいいですね。ショパンはファゴットをわりと活躍させるので、今日のアンサンブルでもファゴットのエッジが効いていて、実に素敵でした。

アヴデーエワさんはさすがの貫禄と引き出しの多さ。プレイエルからもっとも多彩な音色を引き出していたのは彼女。でもその意味では、一番モダンピアノの演奏に近い印象を持ちました。(素晴らしいけれど、う〜んモダンピアノとモダンオケでもいいかな、と思う感じ)。

op.13および14と並べて聴くと、やはり協奏曲第1番には、ショパンが国際的な活躍を視野に入れた熱量を、いかに込めて作曲しているかを実感しました。それで逆説的に、op.13や14のエンタメ的で民族的、ピアニスト主役感のハンパなさ、みたいなところで、けっこうキュンとくるんですよね。屈託のない、少年ぽさを残した元気なショパン。その後に待ち受けるポーランドの波乱も、祖国喪失も、激しくも虚しく終わる恋も、そして胸の病も、何も知らなかったころのショパン......嗚呼!

The Real Chopin、これは本当にいい企画...
残念ながら明日は伺えないのですが、明日は「お手をどうぞ」やアンスピや協奏曲2番をやりますよ!行ける方はぜひ!!

ところで、川口さんがお弾きになった藤倉大さんのフォルテピアノのための独奏作品がものすごい幻想美にあふれた、インパクト大の作品でした。日本初演。もう一回聴きたい。川口さんの演奏で。あ、明日はアヴデーエワが弾くのか!それも聴きたい!

バッハのように、楽器のことなどほとんど無頓着に創作される、ある種形而上的な音楽もよいけれど、やはり特定の楽器のテクスチュアから自然に響き出すような音楽の魅力たるや、恐るべしです。

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