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医療現場の行動経済学

医療現場の行動経済学〜すれ違う医者と患者〜(大竹 文雄、平井 啓 著)

行動経済学的特性

・現状維持バイアス:まだ大丈夫と判断する。今の治療を継続したがる。
・現在バイアス:今は決めたくない。決められない。
・プロスペクト理論、損失回避:リスクへの意思決定。確実性と損失回避から成り立つ。低い確率を高めに見積もり、高い確率を低めに見積もる。後遺症が1%発生するという話を過大に感じてしまう。自信過剰には男女差があり、男性の方がより自信過剰になる。利得を得る場合と損失が発生する場合は、同じ金額でも損失の方が大きく感じる(損失回避)
・社会的選考:他人の満足が自分の満足も感じる利他性、恩を返す場合は互恵性、不平等回避などがある。私たちは偏った意思決定を行う。

限定的合理性

・サンクコストバイアス:続けてきた治療をやめるとこれまでが無駄になると考える
・意志力:疲れていると意志力が落ちる
・選択過剰負荷:選択肢が多すぎる場合、決められなくなってしまう。
・情報過剰負荷:情報が多すぎると正しい決定ができなくなる
・平均への回帰:極端に平均から離れた結果の場合、次は平均に近くなる可能性が高い。
・メンタルアカウンティング:同じお金であっても、ギャンブルなのか給与なのかで使い方が変わってしまう

ヒューリスティックス

・利用可能性ヒューリスティック:医学的に証明されている治療法よりも身近で目立つ情報(新聞広告など)を信じる現象。ヒューリスティックは近道による意思決定という意味。
・代表性ヒューリスティック:典型的なイメージにもとづいて判断を行う
・アンカリング効果:最初の提示が基準になる
・極端回避性:松竹梅のメニューは真ん中を選択してしまう
・同調効果:隣人や他人の行動に合わせてしまう

医療行動経済学と健康行動との関係

リスクを嫌う人は一般的に積極的な健康行動を取りやすいが、健診受診については不明確。せっかちな人や先延ばしにする人ほど健康行動をとらない。意思決定上の癖を利用して行動を促すナッジの活用。

がん治療での適切な意思決定

バイアスを理解することが役立つ。情報が多いと判断を誤るため選択を適度に減らす。現実にはありそうになくても説明が具体的であると、説得力が増して聞こえる。

がん検診の受診率を上げるには

損失フレームを利用して、今年検診を受けなければ翌年に検診キットが送付されませんというメッセージ。

子宮頸がんの予防行動が進まないのか

利用可能性ニューリスティック、周りが受けていないことに影響される同調効果。

高齢患者への決定支援

高齢者は経験や情報から決定にバイアスがかかりやすい。高齢者は身体能力の低下から周囲からの援助が必要なケースが多く、治療を受けるかどうかを自ら意思決定をする必要が増える。しかし、決めることが難しい。そのため適切な決定支援が必要。

なぜ医療決定パターンに違いが出るのか

医師は常に合理的判断ができているわけではない。女性医師は男性医師に比べてガイドラインに沿いやすく、担当患者の死亡率も低めである。

他人を思いやる人の方が看護師に向いているのか

共感しすぎる人は辞めてしまう。そのため患者に釣られて寄り添いすぎるのは良くない。思いやりがある人が看護師に向いているように思えるが、利他性が強すぎると成立しないケースがある。患者が嫌がっても必要な処置をとる必要もある。