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何処よりか出ずる

 「ヤバイ…どうすればいいの…」初めに静寂を破ったのは梨花の声だった。赤く染まった地面は未だにジワジワとその領土を広げ、その中心に倒れる布津は素人目で見ても手遅れだと分かる。

 僕が最初に心配したのは自分の将来の事だった。くだらないいざこざで誤って人を殺してしまっただけで僕は人生を棒に振ってしまうのだろうか。布津の事はそこまで好きじゃなかった、だから今やったことに特に罪悪感は感じていない。ただ少し申し訳ないとは思っている。

 「東次!あんたがやったんだからしっかりと親に言いなさい!」「いや、僕はこの事は言わないよ。」「もしチクったりしたら君たちも一緒にやったって言う。」「はぁ…?」隅で震えていた裕也は耐えきれずに嘔吐した。

 「だからこの事は秘密にするんだよ。僕らの、僕ら仲良しグループの共通の秘密。布津は今日僕らと一緒に遊ぶ約束をしていたけれど、結局来なかった。」僕はこの状況を前にして少しわくわくしている。「秘密基地のことももちろん秘密だよ。基地は壊して何も無かったことにする。ばっちいから死体になんて触りたくないし、動かすなんて論外。もし見つかった時の為に僕らの痕跡は消しておきたいからね。」大人も世間もみんな騙して、僕らだけの秘密を、僕らだけが知る真実を作り出せるなんて!

 「でもいずれは山に出入りしてたことがバレるわよ!?上手く行かないんだから私達を巻き込まないで!」「爺ちゃんが話してた昔話があるんだ。」それは、誰にも言ってはいけないと家族にも秘密で僕にだけ、爺ちゃんが教えてくれたとある鬼のお話。証拠がそこにある。だからきっとこれは真実になる。「擂鳴山に鬼が出る。僕らが怪異を作るんだ。」

 

 怪異は肉付けされていく。空虚な実態を伴って、ぐわんぐわんと肥大していく。犠牲は噂に現実感を与え、どんどんと人の間に広がっていく。そしていつの間にか、実態が現れる。新たな犠牲を伴って。擂鳴山に鬼が出た。

【続く】

photo by 群馬よいじゃねぇ

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