『ラークシャサの家系』第5話

◇「アニオタとドルオタ」

  ”ドーン・・・シューッ! ドーン・・・シュッシューッ!!・・・”

 溶けたアルミ合金を、注射器のようなピストンで金型へ押し込む。しばらくすると、金型がホットサンドメーカーのように開いて、固まったアルミ合金の製品が出てくる。秒単位で制御された機械は、同じ動作をひたすら繰り返す。ダイカストマシーンの前には、出来立てほやほやのアルミ製オイルパンがどんどん増えていく。

人間が”やめろ”と指示を出すまで永遠に・・・


 さて、鴛海がビンゴと騒いでいた”すごい発見”だが、
「キダっち、これ見てよ。このサイト。」
「ん?なにこれ?”あなたの恨み晴らします 必殺 オニベンジャー”?なにかの戦隊ものみたいなサイトだけど。」
「うん。このサイトね。ここのリサイクル業者のサイト、ちなみにこのリサイクル業者は、あの6人のリーダー格、小久保の親が経営している会社なんだけどね、それをこうして・・・こうすると、どう?スマホをひっくり返した時だけ表示されるアイコン、”マジックアイコン”って言うんだけど、ここからアクセスできるんだよ。で、開いてみると・・・」
「うっ・・・なんだこれ?」

 あの6人がオニベンジャーと名乗り、個人的に恨みのある人間を裁くというベタなサイトなんだが、どう見ても犯罪まがいの所業が、ご丁寧に写真付きで掲載されている。まるで狩りに出かけ、獲物を捕獲した時のような誇らしげな6人の表情。それに反して被害者たちの哀れな姿。よく見ると、これらはどれも証拠不十分と言うことで、この6人が保釈された案件だ。いずれも動機不明で被害者との接点もないとの理由だ。

「で、この最後に更新されたページ見てよ。これだけオニベンジャーが2人になってて、獲物があの6人なんだよ。」
「んん?どういうこと?っていうか、この2人は、ひょっとして・・・」
「うん。そう、おそらく今回、犯行に及んだアチュートの2匹。でも顔がうまく写ってないから、ちょっとこのままでは難しいね。」
「なんかチャカチャカチャカって、加工とかできないのかよ? 科捜研で”あみちゃん”がやってるみたいな。」
「まぁあれはドラマだからね。でもね、ちょっと待ってくださいな。」
”パチンッ” ”ジジジジジジ・・・・”
「おぉ・・・できるんじゃん。鴛海さん、今回、大活躍じゃないの?」
「さっどうだっ!」
「でもさっ、これダレよ? 顔が割れたところで、こいつらはオレたちと違って、なにも管理されてないから、ほぼノーヒントだろっ!」
「あとはひたすら足で稼ぐっ!」
「だれがっ?」
「キダっちと七瀬。」
「あのね・・・」

 まぁそれでも犯人の面は割れた。全く何も情報が無いよりもマシだが、もう少し手掛かりが欲しいところだ。二人の風貌は、とてもこんな凄惨な犯罪を犯すようなタイプではなく、どちらかというと”○○○48”とか”○○坂46”を追っかけていそうな・・・
 おっ?オレ、今イイこと思いつかなかったか?それだな・・・
「ねぇ・・・鴛海さん、これさおそらくアイドル系かアニメ系じゃない?」
「ちょっとまってて、こういうのは茂木さんだよねぇー。」

”ガチャ、ピ・ピ・ピ・・・プルルル、プルルル・・・”
「あっ茂木さん?すぐ来れる?うん、ちょっと見て欲しいものがあって。うん。了解、わかった。うん。じゃお願いします。」
「なんだって?」
「うん。少し片づけしたら来るって。」

「なるほどねぇ、なるほど・・・それでは、結論から言おう。まずは、アニオタかドルオタかだが・・・これはドルオタだな。一見すると、このように服装に対する無関心さはアニオタなのだが・・・決定的な事実を君たちは見落としておるっ!。」
えっと、茂木さん、何かスイッチが入りましたか?
「まず、被害者たちの死亡推定時刻、それと、この写真の投稿時刻だ。死亡推定時刻は22時から23時!それとこの写真の投稿時刻は23時37分!この時間が意味するところだ!・・・キダ君、君はこれをどう考察するっ!」
「えっと・・・そんなことより早く教えていただきたいのですが・・・」
「この22時から24時という時間はだなっ・・・アニメファンとしては絶対、絶対外せん時間なのだよっ!しかもこの日は木曜日!今季の木曜日、しかもこの時間帯を外すなんて、アニメファンとしては万死に値するのだっ!」
「だからどういうことなのでしょうか?」
「まだ、わからんのかっ!この”うつけ”がっ!!」
「ひぃー!なんかよくわからんけど、なに?この人!?」
「この日はだなっ!今季、最大にして最高の期待作っ!”俺の彼女が転生したら隠しダンジョンでスローライフ シーズン2”の4話一気放送の日なんだぞっ!しかもこの日は神回中の神回と予想された”魔王誕生”編が含まれるんだぞ!・・・アニオタがそんな日を見逃すわけがっ・・・がぁーっ・・・ないっ!」
「あー、はい。で、ドルオタってことね。で、何のドルオタなんでしょうか?」
「もういいのか?もういいのかっ?この推理はもういいのかっ!?」
「そこはOKです。次の何のドルオタかをお願いします。」
「うむ。まずはこの2人が着ておるトレーナーなのだが・・・ここにヒントがある。」
「はぁ・・・」
「これはだな・・・浦和を拠点とするアイドルグループ”あひる坂46”が、昨年、春に行った限定ライブで販売した”あひるっ子トレーナー”なのである・・・」
「はぁ・・・と言うことは、どういうことなのかなぁ?」
「この”あひるっ子トレーナー”は、あひる坂のメンバーそれぞれに1枚づつ作られ、応募に当選したもののみが手にすることができるという”究極の推しメングッズ”なのだ。見たところ、このトレーナーのメンバーは、野川桜子と松下玲子か・・・」
「えっ!茂木さん、こんな不鮮明な画像で分かるんですか?」
「うーん。なんとなく私の勘ですがね・・・」
「茂木さん、画像解析かけますね。」
「おぉ鴛海氏、かたじけなし。」

”ジジジジジジ・・・・”

「ほら見たことか!やはり、このトレーナーのデザインは、野川桜子と松下玲子であったか!・・・」
「?!」
「?!・・・」
 画像が鮮明になったところで何もわからん・・・
「キダっち、これ見て、これ・・・公式サイトにある推しメングッズ。確かに野川桜子という子と、松下玲子って子のデザインだよ。」
「じゃ、このトレーナーが当選した人間を調べれば、何かしらのヒントが得られるな!?」


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◇第6話へつづく

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