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『I’m in COMA.』

ここはどこだろう。飾り気のない白い壁に囲まれた部屋。
そこに一つだけ置かれたベッドで、ぼくは眠っていたようだ。

体に力が入らない。

頭が痛い・・・記憶がはっきりしない。

ぼくは誰だっけ?

同じ夢を何度も見ていたような・・・

 ベッドの横には、見たことのない、おそらくテレビのようなもの。ずいぶん薄い。
 体に取り付けられている機械には、映画で見たような鮮やかな文字。

ぼくの知っている世界ではない。

ここはどこ?

 部屋の外が騒がしい。
・・・と思ったら、何人かの人間がどやどやと部屋に入ってきた。全員マスクをしていて表情が見えない。

「間島さん、言葉がわかりますか?」

間島さん?

この青色の服を着た人たちは何?
この服?Tシャツ?なんていう服?

背中には・・・に?ほん?せき・・じゅう・・じ?

日本赤十字病院?
この人たちはお医者さんと看護婦さん?

「間島さん、信じられないかもしれませんが、あなたは42年も眠っていたんですよ。何か覚えておられますか?」


 ぼくは42年ほど前の大晦日にバイト先の居酒屋で突然意識不明になり、そのまま眠り続けていたらしい。

 なんとなくその時のことは覚えているが、なんとなくであり、なんとなく気を失った気がする。そう言えば、家族・・・はどうしているんだろうか?

「あの・・・ぼくの・・家族は?」

「えぇ・・残念ながらご両親はすでに亡くなっておられまして・・・妹のさくらさんは・・・」
 そう話すお医者さんらしき男性の横にいた女性がマスクをとる。その顔は何となくではあるが、母の面影が残る年老いた女性。そして心配そうにぼくを見つめる。

「さくら・・か・・・」
 おもわず妹の名前を呼ぶが・・・なんだか意識がフッと・・・

ピーーー-------・・・・・・



1979年12月31日 月曜日 愛知県小牧市藤島町梵天・・・

居酒屋「ダイコンの花」

「おい!優っ!たらたらやってんじゃねぇよっ!マモちゃんがどうしてもって言うから雇ったんだからっ・・・最低限の働きはしてくれよぉ・・・」

「すみません・・・すぐ、すぐやります・・・」

 そうぼくは40を過ぎても、碌に仕事もしていなかったので、父の幼馴染の秀さんが経営する居酒屋でアルバイトすることになった。でも生まれつき要領が悪くて、何をやってもうまくいかない。
 今日一日だけでも数えきれないほどのお皿とグラスを割ってしまった。でも、秀さんは父の頼みだからといって・・・

 そっか、ぼくは気を失った時、すでに46歳だったんだ。
 それから42年・・・88歳・・・か・・・そりゃね・・・


ピーーー-------・・・・・・

「・・・2022年2月23日午後18時49分、間島優さま、ご臨終です・・・・・・・」



おわり


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