はじまりの合図がいま

秋生まれだけれど、春がこの上なく好き。

厳密に言うと、もうすぐ春がくるという気配を感じることがとてつもなく好き。あたたかくなったかと思えば急に寒くなったり、前に進んでいるのか後ろに進んでいるのか分からない時もあるけれど、それでも少しずつ春はやってくる。

生ぬるい風といっしょに、甘い花の香りがすると大学に入学した頃を思い出す。高校生の頃からずっと実家を出たくて県外の大学に進学した。初めてのひとり暮らしにワクワクが止まらなかったはずなのに、3日も経つとホームシックにかかった。まだ入学式の前だったので誰も知り合いはいない。付き合っていた人は地元に残っていた。わたしはほんとにひとりだった。

狭い家にいてもすることがなくて、日も暮れた頃になって大学の周辺を散歩することにした。その日はほんとに生ぬるい風が吹いていた。例年よりも遅く咲いた桜が街灯に照らされて、今まで見たどんな夜桜よりも綺麗だった。

ほんとに幻想的な光景なのに、誰にもその美しさを伝えることができない寂しさに、桜を見上げながら涙がこぼれた。

寂しくて途方に暮れたけど、その一方で「ああ、今から始まる」確かにそう思ったことを今でも覚えている。

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暦の上では今日は立春。今年も好きな季節がやってくる。大学の入学からもう8年が過ぎていることに驚きを隠せない。

あの頃思い描いていた理想の自分とは掛け離れている。いや、掛け離れ過ぎている。未来予想ではそろそろ結婚をしていたはずだし、2020年の東京オリンピックの頃には子ども産んでおきたいなんて、友達と騒いでいた。結婚して子どもを産むという未来が当たり前だと思っていて、それ以外のことなんて何も考えていなかった。

誰かにとっての普通や当たり前は、わたしにとってのそれとは違うものなんだと最近やっと理解した。理解してから、生きていくのが少し楽になった気がしている。

それにしても、まさか仕事を辞めて海外に行くなんてあの頃には想像もしていなかった。あの頃想像していた未来は全く実現していないけれど、今のほうが何倍も生きている喜びを感じてるよ。そう昔の自分に言いたい。

またわたしはひとり、歩き出す。今は期待と不安がぐるぐると渦を巻いている。「なんとかなるよ」と「そう甘くないよ」が交互にやってきては、わたしを惑わせる。ちなみに最近は「そう甘くないよ」が優勢。

だけどまた今から始まる。そんなに甘くなくたってここからまた新しいスタート。人生はその気になれば何度だって始められる。

そう思わせてくれる春がやっぱり好きだな。
今日はそんなことを思った日。


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ちなみに・・・南半球に行くので日本は春でもあちらは秋。
今年のわたしに春はお預けみたい。



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