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29arts|虫めづる姫君《新制作》(東京文化会館)

2月6日(日)、東京文化会館小ホールにて、Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム 虫めづる姫君《新制作》を観覧してきました!
平安時代に書かれた『堤中納言物語』に収められている「虫めづる姫君」のお話を、クラシック音楽と舞踏で表現する舞台です。

Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラムとは?

2021年より始まった東京文化会館のプログラム。クラシック音楽×異分野のコラボレーションによる新しい舞台作品を制作、小学生・中高生を対象に「初めての劇場体験」として提供するものです。
初回は、人形劇俳優の平常さんとチェリストの宮田大さんがコラボレーションし、シェイクスピア「ハムレット」を上演しました。
今回の会場にも小学生くらいのお子さんの姿が見られましたが、趣向が凝らされた特別なプログラムは、大人の劇場デビューにも良いのではないでしょうか。

舞踏とは?

「舞踏」とは、1960年代に誕生した日本独自の舞踊スタイルです。舞踏のダンサー(踊り手?)は、体を白く塗って性別や年齢、人種といった属性を取り払い、空っぽの袋のような状態になります。そこから外から風を受けたり、内部に満たされた水が揺らめいたり、内外からの影響を受けて「動かされる」ように体を動かします。
(白塗りがデフォルトなんだ……)

動画コンテンツでは、演出・振付・舞踏を担当する我妻恵美子さんと、同じく舞踏で出演する塩谷智司さんが説明と実演をしてくれています。
動画内で、音楽を担当した作曲家・ピアニストの加藤昌則さんが「怖い舞台と思われているようで、買い渋りがある」「(舞踏の塩谷智司さん、阿目虎南(燦然CAMP)さんのチラシ写真を指差し)ウォンテッドみたいな、道を歩いていたら絶対職質に合うような」と身も蓋もないことをおっしゃっていますが、笑顔の塩谷さんがだんだんと無表情になり、空っぽになってゆらゆらと動かされているさまは必見です。

音楽は?

《新制作》となる本作は、どこかで聞いたことのあるクラシックの名曲をアレンジした音楽と、今回の舞台のために加藤昌則さんが作曲したオリジナル音楽で構成されていました。
例えば、グリーグ『ペール・ギュント』第1組曲 より「山の魔王の宮殿にて」は、オバケや怪物が迫ってくるような恐怖を感じさせる楽曲で、映画などにも使用されています。ラヴェルのバレエ曲「ボレロ」はフィギュアスケートで頻繁に使われます(私はNHK教育テレビ「クインテット」の歌で覚えました)。J.S.バッハやベートーヴェン『メヌエット』も、なんとなく聴き馴染みのある三拍子の穏やかな曲です。
オリジナル音楽は、「舞踏音楽I〜IV—虫めづる姫」と挿入歌の「手まり歌」の5曲。「手まり歌」はシンプルなメロディで、一度聴いたらすぐに歌えてしまうくらい覚えやすい曲です。パンフレットには、歌詞と楽譜が掲載されています。

出演者の上野由恵さん(フルート)と笹沼樹さん(チェロ)は、東京文化会館が主催する東京音楽コンクールの受賞者で、本館での公演や上野公園内の音楽イベントでも長らく活躍しています。受賞だけでなく長期間にわたって活動機会をもらえるのはいいですね。

脚本は?

演劇ユニット「ブス会*」を主宰、AV監督としても活動するぺヤンヌマキさん。舞台だけでなく、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』の監督や『来世ではちゃんとします』の脚本など、テレビドラマでも活躍しています。
現代日本を強かに生きる女性の姿を描き続けてきたぺヤンヌマキさんが、身だしなみを気にせず、美しい蝶ではなく毛虫やカタツムリを愛する姫君を、どのように表現するのでしょうか。

ロビーのパネル解説。QRコードから動画も観られました

虫めづるワンダーランド

ストーリーは9つの場面で展開されます。

1 変わり者の姫  姫君登場!
2 侍女のお小言  侍女プンプン
3 草陰  姫君しょんぼり
4 虫はともだち  虫の精登場
5 殿方がやってきた  姫君の噂が広まり
6 恋文  ある殿方から手紙とおくりものが
7 怪しいおくりもの  おくりものの中身は?
8 平安ラップバトル  姫君と殿方、初顔合わせ
9 いとをかしワールド  みんな虫になる

席に座って開演を待つ間、大きな草むらの中にピアノやお立ち台が置かれたようなポップな舞台セットには、虫の声が響き渡ります。
ファンタジーな世界観に合わせて、葉っぱの腰巻きをつけた舞踏ダンサー(塩谷&阿目さん)が譜面台をゆらゆらと上下させながら設置し、器楽演奏の出演者も虫をイメージしたような、緑や茶色の衣装で登場しました。

1 変わり者の姫

冒頭、ソプラノ歌手の三宅理恵さん演じる侍女が、姫君について語ります。大きなカツラにモノクロの衣装は、まるでディズニーです。
(ナレーションがあるとストーリーがわかって安心だな)

そこに、我妻さん演じる姫君が登場!狂乱したように激しく舞台上を動きまわります。(怖い!子ども泣いちゃう!)※誰も泣いてなかったです
虫を捕まえようとしたり、動きを真似してみたり、庭中を走り回る姫君はさながら小学生男子です。(そう思うと何だか受け入れられるな)
裾のふんわり広がったパステルカラーの衣装を着て、腰を引いて中腰になった我妻さんは、頭身が縮んで少女に見えました。(腰痛そう)

2 侍女のお小言

侍女がお小言を言う場面では、舞踏ダンサーの2人もモノクロの衣装を着て侍女として登場し、ゼンマイ仕掛けの人形のようにシンメトリーで踊ります。
(衣装も着るんだ)
(ディズニー感……『アリス・イン・ワンダーランド』……ティム・バートン!)
「メヌエット」と「山の魔王の宮殿にて」が交互に流れ、平安女性のあるべき姿に縛られる場面と、それに反発してお説教を受ける場面が繰り返されます。

3 草陰 〜 4 虫はともだち

しょんぼりしていると、白い衣装に身を包んだ虫の精(三宅さん)が姫君に寄り添い、ともに掌中の虫を愛でます。

5 殿方がやってきた 〜 6 恋文

そんな風変わりな姫君に興味を持つ殿方が現れました。
ここで、赤と青の着物風衣装を着た舞踏ダンサーがひとしきり踊った後、姫への想いを詠い上げます。
(和歌の化身なのかな。舞踏の人、喋るんだ……)
そして殿方は、侍女に姫への手紙と、何やら重い袋を渡します。
手紙の中身を確認して「地獄へ堕ちろ」とお怒りの姫君。

7 怪しいおくりもの

客席から大蛇が登場! 舞踏ダンサーが、春節の龍のように蛇を操り、通路や舞台前を練り歩きます。蛇は舞台上でも暴れ回り、譜めくり(ピアノの横に控えて譜面をめくる人)に追い払われ、舞台下手(しもて/左)に追いやられました。
(くちばしと蛇腹襟つけて、洋風カラス天狗みたいだな)
侍女が袋を開けようとすると、パンッ!!と発砲音が鳴りびっくり! おくりものの中身は、なんと蛇(に見せかけたつくりもの)だったのです!
(めちゃくちゃびっくりするから発砲はやめてほしい……)
三宅さんが歌曲「蛇」(リー・ホイビー)を歌唱。テンポの速い軽やかな曲には、声音を変えて蛇の声を表現するパートがあり、コミカルな印象もあります。
(侍女、急に英語で歌いはじめる)

8 平安ラップバトル

そして、とうとう姫君と殿方が対面します。草むらも派手にライトアップ! サングラスをかけた赤と青の舞踏ダンサーがスタンドマイク片手に現れ、ラップ調で姫の見た目に文句を付けてきます。
(舞踏の人、歌うんだ……)
それに対して、姫君は優雅に反論。虫の精がマイクを姫君に向けつつ、姫の心情を代わりに歌います。
(姫君は一言も発しない)
ラップバトルと銘打ちながら、ラップ調に声楽調で応酬するチグハグさが、気持ちの行き違いを表現しているかのようです。

9 いとをかしワールド

ラップバトルで異様な盛り上がりを見せた後、姫君と舞踏ダンサーは座り込み、ゆっくりと服を脱いでいきます。暗い舞台上でスポットライトに照らされ、白い肌と衣装は眩しいほどに美しく見えました。
人間の服を脱ぎ捨て、虫の精とお揃いの白い衣装になった姫君と舞踏ダンサー。それは、蛹から羽化して蝶になるように、彼女たちが人間という殻を脱ぎ捨て虫になったことを意味します。
姫君と舞踏ダンサーは、虫の精の歌声に合わせてソロダンスや群舞を踊り、虫としての生を謳歌します。


緩急のある音楽と舞踏で観客を翻弄しながらも、侍女にセリフを言わせることでストーリーを追わせ、セットを活かして草むらに隠れたり、器楽演奏者にも振付を加えるなど、随所に観客を楽しませる工夫が凝らされた本作。ファンタジーな世界観をまといながらも、本格的な舞踏や音楽を味わえました。
本来の舞踏が衣装を着たり歌ったりするのかわからないので、いつか舞踏だけの公演も観たいです。

今も脳内に「山の魔王の宮殿にて」と「手まり歌」が流れています。
(影響されやすい)


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