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苦手なのに、どうして書くことが好きなんだろう -書くワークショップβで考えていたこと-

「今日はこれからどちらに泊まるんですか」

インタビューの面白さを教えてくれた西村佳哲さんが、新たに「書くワークショップβ」を開催する。そう聞いて、9月の半ばに岩手県の陸前高田に向かった。高速バスで早朝に到着し、街を見て回ったあと、まだ集合まで時間があるなとお昼に入った寿司屋でたずねられた。「今日はこれからどちらに泊まるんですか」

親切そうな店員さんが優しい表情でこちらを見ている。「あー‥」と少し口ごもり「知り合いの所に行くんです」ととっさにつまらない嘘をついてしまった。

なぜそんな嘘をついたんだろう。自己嫌悪でぐるぐるになりながら考えて、あとになってやっとわかった。相手にどう思われるかが気になったからだ。

人にどう思われているかが気になる

正直に言ったとしても、どれだけ伝わるんだろう。聞かれたときそう思ったのだ。「普段書く人なんですか」と問い返されたらなんと答えたらいいかわからない。自分の立場を説明することも恥ずかしくなって、余計な事を言わずにやり過ごしたほうがいいと、嘘をついて逃げたのだ。

恥ずかしいのだけど、人にどう思われるかを気にして、相手の反応を先回りして考える所が私にはある。自分がいま感じていることより、相手が感じることばかり気になってしまう。そして、相手から返ってきた反応に一喜一憂している。

特にこの癖が出てくるのが、slackやlineなどのチャットツール。「既読スルー」されたり、返信が遅いと「変な事を書いてしまったかもしれない」と気になって仕方がなくなる。これまでの相手とのやりとりや過去の出来事を思い出して「私は相手に嫌われているのかも」と妄想まで膨らんでくる。

こういう「嫌われているかも妄想」が、私の日々を確実に生きづらくしている。

「私はどう思っているか」に視点を変える

体調を崩し、自分の心をみる必要があるとわかって3年ちょっと。様々なケアの方法を学び模索を続ける中で「嫌われているかも妄想」と付き合う自分なりの方法も見えてきた。

それは「私はどう思っているか」に焦点をあてることだ。

心にレバーがあると想像してほしい。「どう思われるかわからない」妄想にパニックになってぐるぐるになっているとき、心のレバーは「相手にどう思われているか」に傾いている。このレバーを正反対に押し戻して「自分自身が感じていること」に耳を澄ませるのだ。

これがかなり効く。一瞬でガラッと風景が変わって見える。「どう思われているんだろう、嫌われているのかも」とパニックになる自分を、自分自身に引き戻す。「相手がどう思っているかはわからないけど、私は相手のことを信じている」そこまで思えると、心の中に軸ができて、居場所ができる感じがする。

そこではじめて「向こうも忙しいからすぐには返事が来ないよね」と相手の状況にも思いを馳せられるのだ。

「書くこと」は私の軸をつくることかも

寿司屋の後に参加した「書くワークショップ」でも、そんなことをぼんやりと考えていた。もしかしたら、書くことは「自分が何を考えているか」という軸を少しずつ育てていくことなのかもしれないと。

西村さんは「書くことは、自分自身の声を聞く時間」なのだという。

たしかに、心に浮かんだ考えを書こうとするときに「私はどう思っているのか」と自分自身を探る感じがする。なんとなくでは文章が書けない。人に伝えようとすればするほど、細かい部分まで自分の感覚を聞いていく必要がある。

しかも相手に伝わる文を書きたいと思う時、書くことの先にはちゃんと相手がいる。書くことは「人からどう思われるか怖い」から抜け出して「私はどう思っているか」を大切にして、目の前の人と関わろうとすることなのだ。

中途半端な私のままで、書きはじめてみたい

そう考えてみると、書くことに苦手意識を持っている理由も、それでもずっと惹かれてきた理由もなんとなくわかってくる。

寿司屋の店員さんに「どう思われるだろう」と正直に話せないままでは、うまく文章を書けるはずがない。書くことは、中途半端だったり混み合った事情があったり、かっこよくない不完全な自分のままで「えいや」と、人と関わっていくことなのだ。

それは私がずっと逃げ回ってきて、でも本当はずっと求め続けてきたことでもある。人が怖い。だけど本当は、とりつくろったり必要以上に怯えたりせずに、このままの私で人と関わってみたい。中途半端でダサい私を隠そうとせずに人と話したい。隠したって周りにはどうせばれている。そんなことにも最近気づいたのだけど。

色んな事が中途半端な今の私も、怯えて逃げまくってきた私も、そのままで書いていきたいと思っています。それは私の人との関わり方を変えていくんじゃないかな。

いや、まだわかんないけど、おそるおそるやってみよう。そんな気持ちです。


高速バスからの一枚。父が岩手出身で、幼い頃から家族で岩手に車で帰省していた。
近づいては遠ざかる光を後部座席から眺めていたあの頃の記憶と重なる。
陸前高田駅から海に向かって、広大な土地がひろがっている。
観光物産協会で自転車を借りて、海の方へ。
東日本大震災伝承館「TSUNAMIメモリアル」と、防潮堤への道が交差する位置にある水盤。
防潮堤にのぼると、波音が聴こえてきて、海がみえる。
「ワタミオーガニックランド」という循環型社会を志す農園があった。
ぴょんぴょん飛び跳ねながら雑草を食べるヤギたち。
地魚丼、ほんとうに美味しかった。また陸前高田に行くときは、もう一度ここに行こう。

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